『「労働保険料の支払取引」に含まれる「概算保険料の支払取引」』に係る
『法人税法に基づく「取引の内容」』及び『法人税法に基づく「仕訳」』を、以下の項目に従い、ご紹介させて頂きます。
なお、当該取引につきましては、「労働保険料の支払取引」に含まれる取引の1つとなります。
このため当該ページは、『法人税法に基づく「労働保険料の支払取引」の会計処理と仕訳』でご紹介させて頂いております内容を補完するものとなります。
Ⅰ:「労働保険料の支払取引」と「法人税法上の規定」
「労働保険料の支払」には、
- 『翌保険年度に係る「概算保険料」の支払』と
- 確定年度に係る「確定保険料」と「概算保険料」との「差額」である『「確定差額」の支払』又は『「確定差額」の充当』
という「2種類の異なる内容の支払」が混在しています。
「労働保険料の支払取引」に対しては、上記の「2種類の異なる内容の取引」が含まれていることを前提に、
法人税法では、
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法人税法上の規定に従って「労働保険料の支払取引」に対する会計処理を行うためには、
上記の「基本通達9-3-3(1)(2)(3)」に従った会計処理を行うことが必要となりまが、
ここでは、
・「概算保険料の支払取引」に対する会計処理方法を規定した「基本通達9-3-3(1)」をご紹介させて頂くとともに、
・この「基本通達9-3-3(1)」に基づく「概算保険料の支払取引」に対する「会計処理」及び「仕訳」をご紹介させて頂きます。
Ⅱ:「概算保険料の支払取引」に対する「法人税法上の規定」と「会計処理」
「概算保険料の支払取引」に対しては、法人税法の「基本通達9-3-3(1)」で、その会計処理が規定されています。
ここでは、この「基本通達9-3-3(1)」をご紹介させて頂くとともに、これに基づく「会計処理方法」をご紹介させて頂きます。
1、「基本通達9-3-3(1)」の規定
法人税法の「基本通達9-3-3(1)」の規定は、以下のものとなります。
(1)概算保険料 ①概算保険料の額のうち、被保険者が負担すべき部分の金額は立替金等とし、②その他の部分の金額は当該概算保険料に係る同法第15条第1項に規定する申告書を提出した日(同条第3項に規定する決定に係る金額については、その決定のあった日)又はこれを納付した日の属する事業年度の損金の額に算入する。 |
2、「基本通達9-3-3(1)」の説明
「基本通達9-3-3(1)」におきましては、まず、
・「被保険者が負担すべき部分」である「従業員負担分」(上記①の部分)と ・「その他の部分」である「会社負担分」(上記②の部分)とを 区別して処理することを規定し、 |
その上で、
「概算保険料のうち従業員負担分」につきましては、「立替金」等により処理をすることを規定し、 |
「概算保険料のうち会社負担分」につきましては、「年度更新の申請書を提出した時点」又は「労働保険を支払った時点」で「会社費用(損金算入)」として処理することを規定しています。 |
Ⅲ:「基本通達9-3-3(1)」に基づく「取引内容」と「会計処理」
「概算保険料の支払」に対する「法人税法上の会計処理(基本通達9-3-3(1))」につきましては、上記Ⅱでご紹介させて頂きましたようなものとなりますが、
「法人税法上の会計処理(基本通達9-3-3(1))」を理解するためには、
法人税法では「概算保険料の支払取引」を「どのような取引」と見ているのか?
すなわち、法人税法(基本通達9-3-3(1))では、『「概算保険料の支払取引」の「会計的な取引内容」』をどのように見ているのか?を把握しておくことが必要となります。
従いまして、ここでは、
『「法人税法(基本通達9-3-3(1))」が規定する「会計処理方法」』の前提となっている
『法人税法が想定する「概算保険料の支払取引」の「会計的な取引内容」』をご紹介させて頂きます。
1、法人税法が想定する「概算保険料の支払取引」の「取引内容」
概算保険料の支払面
「概算保険料」は、「会社負担分の概算(労働)保険料」と「従業員負担分の概算(雇用)保険料」から構成されますが、
「労働保険料の支払制度」の下では、これらを別々に支払うのではなく、「会社負担分の概算(労働)保険料」と「従業員負担分の概算(雇用)保険料」がまとめて「概算保険料」として、会社から保険者に支払われます。
このため、「概算保険料の支払取引」は、会社にとって、
「概算保険料の金額分」の「現金」又は「預金(普通預金、当座預金)」という「会社資産」が減少する取引となります。 |
支払結果面① ~「従業員負担分の概算保険料」の支払結果~
会社から保険者へ支払われた「概算保険料」のうち、「従業員負担分の概算(雇用)保険料」は、
・「会社費用」となるものではなく、「従業員個人が負担すべき費用」であり、
・「その保険者への支払」は、本来は従業員個人が保険者に支払うものを、会社が従業員に代わって、保険者に立替払いしたものとなります。
言いかえれば、
会社が「従業員負担分の概算(雇用)保険料」を保険者に立替支払することによって(立替払した結果)、
会社は「立替払した金額」を従業員に対して「請求することができる権利(立替請求権)」を取得したことになります。
このため、「概算保険料の支払取引」のうち「従業員負担分の概算(雇用)保険料の支払部分」は、会社にとって、
『従業員に対する「立替請求権」』という「会社資産」を増加させる取引となります。 |
支払結果面② ~「会社負担分の概算保険料」の支払結果~
会社から保険者へ支払われた「概算保険料」のうち、「会社負担分の概算(労働)保険料」の支払は、
会社が「従業員の福利厚生のため保険者から労働保険サービスを受ける」ために「その対価としての保険料」を保険者に支払ったものであり、
会社が「会社負担分の概算(労働)保険料」を保険者に支払うことによって(支払った結果)、
「保険者から労働保険サービスを受ける」という「会社費用」が発生する取引となります。 |
ただし『「概算保険料」に含まれる「会社負担分の概算(労働)保険料」』の保険者への支払は、
・「翌保険年度に係る会社費用」であるため、
・本来的には、概算(労働)保険料の支払時点では「前払いの会社費用」となるべきものです。
(すなわち、会社が支払った「概算保険料」は、『「翌保険年度」において保険者から受ける「労働保険サービス」に対する「対価」』であり、支払時点では、まだ「会社費用」とはなっていないものとなります。)
しかし、この「概算保険料」を「前払費用」として処理し、時間の経過とともに「会社費用」とすることは、「労働保険料の支払に係る会計処理」を複雑化させます。
このため、法人税法では、このような複雑な会計処理を採用せず、
「年度更新の申請を行った時点」又は「労働保険料を支払った時点」で一括して「会社費用」が発生したとして処理することを認めています。 |
以上のことから、「概算保険料の支払取引」のうち「会社負担分の概算(労働)保険料の支払部分」は、
「保険者から労働保険サービスを受けた」という「会社費用」が計上される取引となります。 |
まとめ ~法人税法が想定する「概算保険料の取引内容」~
上記のことから、『法人税法が想定する「概算保険料の支払取引」の「取引内容」』は、
・「概算保険料の金額分」の「現金」又は「預金(普通預金、当座預金)」という「会社資産」が減少する取引であるとともに、 ・「従業員負担分の概算保険料の支払部分」については、 ・「会社負担分の概算保険料の支払部分」については、 |
2、法人税法が想定する「概算保険料の支払取引」の「会計的な取引内容」
次に、上記1でご説明させて頂きました「概算保険料の支払取引」に「勘定科目」を当てはめることにより、『「概算保険料の支払取引」の「会計的な取引内容」』をご紹介させて頂きます。
1)「勘定科目」の当てはめ
上記1でご説明させて頂きました『「概算保険料の支払取引」の「取引内容」』を「会計的に表現する」ためには、当該取引で発生した
- 「資産」である「現金」「預金」
- 「資産」である「従業員に対する立替請求権」
- 「費用」である「労働保険サービスの享受」
に対して、「勘定科目」を当てはめることが必要となります。
この点、
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2)「概算保険料の支払取引」の「会計的な取引内容」
上記1及び上記2-1)から、
『法人税法が想定する「概算保険料の支払取引」の「会計的な取引内容」』は、
・「概算保険料の金額分」の「現金」又は「普通預金(当座預金)」という「会社資産」が減少する取引であるとともに、 ・「従業員負担分の概算保険料の支払部分」については、 ・「会社負担分の概算保険料の支払部分」については、 |
3、法人税法で規定される『「概算保険料の支払取引」の「会計処理」』
法人税法では、
『「概算保険料の支払取引」の「会計的な取引内容」』を上記2でご紹介させて頂きましたものと考えるため、
法人税法の「基本通達9-3-3(1)」では、
・「概算保険料のうち従業員負担分」について、「立替金」等で処理をすることを指示し、 ・「概算保険料のうち会社負担分」について、「年度更新の申請書を提出した時点」又は「労働保険を支払った時点」で「会社費用(損金算入)」として処理することを指示しています。 |
Ⅳ:「概算保険料の支払取引」の「仕訳」
ここでは、『法人税法に基づいた「概算保険料の支払取引」の「仕訳」』を、以下の項目に従い、ご紹介させて頂きます。
- 「仕訳」での「勘定科目の配置」
- 「補助科目」の設定
- 法人税法に基づく「概算保険料の支払取引」の「仕訳」
1、「仕訳」での「勘定科目の配置」
法人税法が想定する「概算保険料の支払取引」の「会計的な取引内容」
上記Ⅲ-2でご紹介させて頂きましたように、「概算保険料の支払取引」は、
・「概算保険料の金額分」の「現金」又は「普通預金(当座預金)」という「会社資産」が減少する取引であるとともに、 ・「従業員負担分の概算保険料の支払部分」については、 ・「会社負担分の概算保険料の支払部分」については、 |
これを「仕訳」で表現するためには、以下のような「仕訳ルール」に従って「勘定科目」を仕訳の左側(借方)及び右側(貸方)に配置することが必要となります。
「仕訳」における「配置ルール」
「資産の減少」は、仕訳の「右側(貸方)」に配置され、 「資産の発生・増加」は、仕訳の「左側(借方)」に配置され、 「費用の発生・増加」は、仕訳の「左側(借方)」に配置されます。 |
「仕訳」における「勘定科目の配置」
上記のことから「概算保険料の支払取引」に係る「仕訳」では、
「現金」又は「普通預金(当座預金)」が、仕訳の「右側(貸方)」に配置され、 「立替金」が、仕訳の「左側(借方)」に配置され、 「法定福利費」が、仕訳の「左側(借方)」に配置されます。 |
2、「補助科目」の設定
1)「立替金」に対する補助科目の設定
「概算保険料の支払取引」では、従業員に対する「立替金」が発生しますが、
この「立替金」という勘定科目は、「従業員に対する概算(雇用)保険料の立替」以外でも使用される可能性があるため、
ここで計上される「立替金」に対して、「どのような内容の立替金であるか」を明示しておくことが必要となります。
(すなわち「立替金」に対して「内訳項目」を付けておくことが必要となります。)
このため、
当該「立替金」が『概算保険料の立替払よって発生した従業員に対する立替金』であることを明示するために、 「立替金」に対して「従業員分労働保険料」という内訳を示す「補助科目」を設定することが必要となります。 |
2)「法定福利費」に対する補助科目の設定
「労働保険に係る会社費用」を表現する「法定福利費」という勘定科目は、「社会保険に係る会社費用」に対しても使用されます。
このため、ここで計上される「法定福利費」が「労働保険に係る会社費用」であることを明示するために、「法定福利費」に対して「その内訳内容」を示す「補助科目」を設定することが必要となります。
また、「法定福利費」という勘定科目は、「労働保険料の徴収取引」でも使用されますが、
ここで計上される「法定福利費」が「労働保険料の支払取引」で計上されたものであることを明示することも必要となります。
このため、
『「労働保険料(概算保険料)の支払取引」で計上する「法定福利費」』は、「労働保険料の支払による法定福利費」であるということを明示するため、「法定福利費」に内訳を示す「労働保険料支払額」という「補助科目」を設定することが必要となります。 |
3、法人税法に基づく「概算保険料の支払取引」の「仕訳」
上記1~2でご紹介させて頂きました内容により、『法人税法に基づく「概算保険料の支払取引」に係る「仕訳」』は、以下のようになります。
【借方】勘定 | 補助科目 | 金額 | 【貸方】勘定 | 補助科目 | 金額 |
立替金 | 従業員分労働保険料 | xxxxx円 |
現金 |
xxxxx円 | |
法定福利費 | 労働保険料支払額 | xxxxx円 |
税理士事務所・会計事務所からのPOINT
ここでご紹介させて頂いております「概算保険料の支払取引」は、『「労働保険料の支払取引」に含まれる取引』となります。
従いまして、ここで記載されている内容は、「労働保険料の支払取引」のご紹介内容を補足する内容となっております。
なお、ここでは、
- 法人税法上で規定されている「概算保険料の支払取引」に対する「会計処理方法」
- その前提となる「概算保険料の支払取引」の「会計的な取引内容」
- 『法人税法上で規定されている「概算保険料の支払取引」の「会計処理方法」』に基づく「仕訳」
についてのご紹介となり、
「概算保険料の支払取引の仕訳」における「各勘定科目の金額」等につきましてのご紹介はしておりません。
この点につきましては、別途『法人税法に基づく「労働保険料の支払取引」の会計処理と仕訳』で詳細に記載しておりますので、
「概算保険料の支払取引の仕訳」における「各勘定科目の金額」等につきましては、上記リンクページをご覧頂きますようお願い致します。