ここでは、「労働保険に含まれる保険の種類」をご紹介させて頂くとともに、「各労働保険の保険料」及び「各労働保険についての会社と従業員との負担関係」について、以下の事項に従い、ご紹介させて頂きます。
Ⅰ:「労働保険の種類」と「会社が保険者に納付する労働保険料」
ここでは、まず最初に「労働保険に含まれる保険の種類」についてご紹介させて頂くとともに、
「各保険における保険料の算定方法」についてご紹介させて頂きます。
1、労働保険の種類
労働保険とは、
会社等で働く従業員が「労働災害」を受けた場合や「失業」した場合等に、労働者の生活を保護・保障するために設けられた公的な保険をいいますが、
労働保険は、
労働者が仕事中や通勤途中にケガをしたり、業務上の原因から病気になったり、障害を受けたり、死亡した場合に、労働者の生活を保障するために「必要な保険給付」を行う「労働者災害補償保険(労災保険)」と |
労働者が失業した場合などに、労働者の生活の安定を図るために「必要な保険給付」を行う「雇用保険」から構成されています。 |
なお、「雇用保険」につきましては、
労働者が失業した場合などに、「必要な保険給付」を行う「失業等給付保険」を行うだけでなく、
・失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大を図る事業(この事業のことを「雇用安定事業」といいます)や
・労働者の能力開発及びその向上等を図る事業(この事業のことを「能力開発事業」といいます)も
行われています。(これらの2つの事業のことを「雇用保険の2事業」といいます。)
2、会社が労働保険の保険者に納付する「労働保険料」
会社が従業員を雇用する場合には、上記のように労働災害・失業リスクから労働者を保護する公的な「労働保険」に加入することが必要となります。
そして、「各種労働保険」に加入した場合には、「それぞれの労働保険の保険料等」を「労働保険の保険者」に支払うことが必要となります。
すなわち、会社が従業員を雇用した場合には、「労働保険の保険者」に以下の「労働保険料」を支払うことが必要となります。
|
以下におきましては、「会社が保険者に納付しなければならない各労働保険料等」についてご紹介させて頂きます。
1)労災保険の保険料
労災保険では、
会社で働く労働者が仕事中や通勤途中にケガをしたり、業務上の原因から病気になったり、障害を受けたり、死亡した場合に、「労災保険の保険者」がその労働災害に対して「保険給付」を支給しますが、
この「保険給付」の原資となる資金を徴収するため、広く事業を営む会社等から「労災保険料」を徴収します。
このため、労働者(従業員)を雇用する会社におきましては、
「会社に在籍する労働者※1に支給する賃金(給与)※2」 × 「労災保険の保険料率※3」 |
という計算式で算定した「労災保険料」を「労災保険の保険者」に納付することが必要となります。
※1:労 働 者 と は
会社で雇用するすべての労働者(従業員)が対象となります。
※2:対 象 と な る 賃 金(給 与)の 範 囲
労災保険の算定基礎となる賃金は、
「会社が労働者(従業員)に労働の対償として支給するすべての賃金」となります。
※ なお、『労働保険料の算定基礎となる「賃金」の範囲』につきましては、別途『労働保険料の算定基礎となる「賃金の範囲」』というページで詳しくご紹介させて頂いております。
※3:労 災 保 険 の 保 険 料 率
「労災保険の保険料率」は、事業の種類ごとに労災事故が発生する確率が異なることから、「会社が営む事業の種類ごと」に「0.088(8.8%) ~ 0.0025(0.25%)」の範囲で設定されています。
⇒なお、具体的なそれぞれの事業ごとの保険料率につきましては、『厚生労働省が公表する「労災保険率表」』をご確認下さい。
2)雇用保険の保険料(失業等給付に係る保険料)
雇用保険では、
会社で働く労働者がが失業した場合などに、「雇用保険の保険者」が「失業した労働者」に対して「保険給付」を支給しますが、
この「保険給付」の原資となる資金を徴収するため、雇用保険の被保険者が在籍する会社等から「雇用保険料(失業等給付に係る保険)」を徴収します。
このため、雇用保険の被保険者となる従業員を雇用する会社におきましては、
「在籍する雇用保険の被保険者※1に支給する賃金(給与)※2」 × 「(失業等給付に係る)雇用保険の保険料率※3」 |
という計算式で算定した「雇用保険料(失業等給付に係る雇用保険料)」を「雇用保険の保険者」に納付することが必要となります。
※1: 雇 用 保 険 の 被 保 険 者 と は
会社で雇用する労働者(従業員)のうち「雇用保険の被保険者」が対象となります。
なお、「雇用保険の被保険者」となるためには、『「週の所定労働時間が20時間以上」かつ「勤務開始時から31日間以上雇用される見込みがある」等の雇用保険の加入要件を満たすことが必要となります。
※2:対 象 と な る 賃 金(給 与)の 範 囲
雇用保険の算定基礎となる賃金は、
「会社が労働者(従業員)に労働の対償として支給するすべての賃金」となります。
⇒これにつきましては、「労災保険」と同様となります。
※3:雇 用 保 険 の( 失 業 等 給 付 に 係 る ) 保 険 料 率
「雇用保険の(失業等給付に係る)保険料率」は、事業の種類ごとに失業率等が異なることから、「会社が営む事業の種類ごと」に以下のように設定されています。
会社が営む事業の種類 | 雇用保険料率の保険料率 |
一般の事業 | 0.006(0.6%) |
農林水産の事業 清酒製造の事業 |
0.008(0.8%) |
建設の事業 | 0.008(0.8%) |
※ なお、「各年度の雇用保険料率」につきましては、「厚生労働省のHP」にて確認することができます。
3)雇用保険の保険料(雇用保険の2事業に係る保険料)
雇用保険の保険者は、
失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大を図るために「雇用安定事業」や労働者の能力開発及びその向上等を図るために「能力開発事業」という「雇用保険の2事業」を行っていますが、
この「2事業」を行うために必要となる資金を徴収するため、雇用保険の被保険者が在籍する会社等から「雇用保険料(雇用保険の2事業に係る保険料)」を徴収します。
このため、雇用保険の被保険者となる従業員を雇用する会社におきましては、
「在籍する雇用保険の被保険者※1に支給する賃金(給与)※2」 × 「(2事業に係る)雇用保険の保険料率※3」 |
という計算式で算定した「雇用保険料(2事業に係る雇用保険料)」を「雇用保険の保険者」に納付することが必要となります。
※1: 雇 用 保 険 の 被 保 険 者 と は
会社で雇用する労働者(従業員)のうち「雇用保険の被保険者」が対象となります。
※2:対 象 と な る 賃 金(給 与)の 範 囲
雇用保険の算定基礎となる賃金は、
「会社が労働者(従業員)に労働の対償として支給するすべての賃金」となります。
⇒これにつきましては、「労災保険」と同様となります。
※3:雇 用 保 険 の( 2 事 業 に 係 る ) 保 険 料 率
「雇用保険の保険料率」は、事業の種類ごとに失業率等が異なることから、「会社が営む事業の種類ごと」に以下のように設定されています。
会社が営む事業の種類 | 雇用保険料率の保険料率 |
一般の事業 | 0.003(0.3%) |
農林水産の事業 清酒製造の事業 |
0.003(0.3%) |
建設の事業 | 0.004(0.4%) |
4)一般拠出金の拠出額
一般拠出金とは、「アスベスト(石綿)健康被害者」の救済費用にあてるための資金をいいます。
・「アスベスト健康被害者」は「労災被害者」であることから、当該被害者に対する救済費用は「労災保険」に上乗せして徴収することが妥当であること、
・また、アスベストは、全ての産業において、その基盤となる施設・設備・機材等に幅広く使用されてきた経緯を踏まえ、その「救済費用」も広く「事業を行うすべての会社」から徴収することが妥当である。などの理由から、
「一般拠出金」として、過去に発生した労災被害者への救済費用を「労働保険料等」として徴収することとしています。
このため、労働者(従業員)を雇用する会社におきましては、
「会社に在籍する労働者※1に支給する賃金(給与)※2」 × 「一般拠出金の拠出率※3」 |
という計算式で算定した「一般拠出金」を「労災保険の保険者」に納付することが必要となります。
※1:労 働 者 と は
会社で雇用するすべての労働者(従業員)が対象となります。
⇒これにつきましては、「労災保険」と同様となります。
※2:対 象 と な る 賃 金(給 与)の 範 囲
労災保険の算定基礎となる賃金は、
「会社が労働者(従業員)に労働の対償として支給するすべての賃金」となります。
⇒これにつきましては、「労災保険」と同様となります。
※3:一 般 拠 出 金 の 拠 出 率
「一般拠出金の拠出率」は、「0.00002 (0.002%)」で設定されています。
Ⅱ:労働保険料の「会社」と「従業員」との負担関係
「会社から各労働保険の保険者に支払う保険料」につきましては、Ⅰ-2でご紹介させて頂きましたような「保険料」となりますが、
労働保険につきましては、それぞれの保険で行われる「保険給付の性質」等により、
- 「会社」のみがその保険料を負担する保険と
- 「会社」及び「従業員」とで保険料を負担する保険とに分かれます。
ここでは、以下におきまして、『各保険における「会社」と「従業員」との負担関係』を紹介させて頂きます。
1、「会社」のみが負担する労働保険料
上記Ⅰ-2でご紹介させて頂きました労働保険料のうち、
|
は、その「保険料の全額」を会社のみが負担することとなります。
「 労 災 保 険 」につきまして
会社には「仕事中における労働者の安全管理責任」があります。このため、労災事故を受けた労働者に対して支給される『「労災給付」の負担義務』は、一義的に会社に存在すると考えられます。
従いまして、制度上「労災保険の保険料」は、全額会社が負担することとされています。
「 雇 用 保 険 の 2 事 業 」につきまして
「雇用安定事業」「能力開発事業」として行われる事業内容の多くが『「事業主(会社)」への助成金の支給』等であることから、
制度上「雇用保険の2事業に係る保険料」は、全額会社が負担することとされています。
「 一 般 拠 出 金 」につきまして
「一般拠出金」は、「過去の労災被害者に対する救済費用」を徴収するものであることから、
制度上「当該費用」については、「労災保険」と同様に、全額会社が負担することとされています。
2、「従業員」と「会社」が負担する「労働保険」
上記Ⅰ-2でご紹介させて頂きました労働保険料のうち、
![]() |
は、その「保険料」を「会社」と「従業員個人」が負担することとなります。
「失業等給付」につきましては、その恩恵を受けるのは「従業員個人」であるために、当該保険の保険料は、一義的には「従業員」が負担することとなります。
ただし、
・従業員が失業する原因として、会社都合によるものもあることや、
・従業員に対する福利厚生的な観点から、
制度上「当該保険料」につきましては、「会社」と「従業員個人」で半分づつ負担することとしています。
このため、「雇用保険の失業等給付に係る保険料」に対する「会社負担分の保険料率」と「従業員負担部分の保険料率」は、以下のようなものとなります。
会社が営む事業の種類 | 会社負担分の保険料率 | 従業員負担分の保険料率 | 雇用保険料率(失業等給付) |
一般の事業 | 0.003(0.3%) | 0.003(0.3%) | 0.006(0.6%) |
農林水産の事業 清酒製造の事業 |
0.004(0.4%) | 0.004(0.4%) | 0.008(0.8%) |
建設の事業 | 0.004(0.4%) | 0.004(0.4%) | 0.008(0.8%) |
Ⅲ:「労働保険料の納付」と「給与計算における雇用保険料の控除」
このページでの最後のご紹介として、
・『「労働保険料」の「保険者」への支払方法の概要』と
・『会社が行う「雇用保険(失業等給付に係る雇用保険)の従業員負担部分」の徴収方法の概要』についてご紹介させて頂きます。
1、労働保険料の納付
「会社から(労働保険の)保険者への労働保険料の支払」は、
- 社会保険(健康保険等や厚生年金)の保険者への支払のように毎月納付するものではなく、
- 「労働保険の年度更新」という手続により、年度に1回、一括して納付することとなります。
すなわち、上記Ⅰ-2でご紹介させて頂きました
|
「労働保険の年度更新」という手続により、
|
※ 厳密には、「労働保険の年度更新」では、「翌年度の概算保険料の納付(前払い)」と「当年度の保険料の確定差額の納付」が行われます。
2、給与計算における雇用保険料の控除
「失業等給付に係る雇用保険の保険料」につきましては、
上記Ⅱ-2でご紹介させて頂きましたように、その保険料を「会社」と「従業員」とで半分づつ負担することとなります。
他方、「失業等給付に係る雇用保険の保険料」は、
上記1でご紹介させて頂きましたように、「労働保険の年度更新」という手続により、「その保険料の全額(会社負担分+従業員負担分)」を「会社」が「労働保険の保険者」に支払います。
このため、会社は、「従業員負担分の(失業等給付に係る)雇用保険料」を各従業員から徴収することが必要となり、
この徴収を行うために、会社では、給与計算時において、
「各従業員に支給する給与支給額」から「各従業員が負担する部分の(失業等給付に係る)雇用保険料」を控除することが必要となります。 |
なお、「給与計算時において控除する雇用保険料」は、
「(失業等給付に係る)雇用保険料のうちの従業員負担分の保険料」となることから
「従業員に支給する賃金(給与)」 × 「0.003 (0.3%) 又は 0.004(0.4%) 」 |
という計算式で算定した金額となります。
税理士事務所・会計事務所からのPOINT
ここでは、「各労働保険の保険料」及び「各労働保険についての会社と従業員との負担関係」、
さらにそれに付随する『「労働保険料の納付」及び「給与計算における雇用保険料の控除」の概要』についてご紹介させて頂いております。
「労働保険料の保険者への納付」につきましては、
「年度更新」という若干複雑な申告手続により納付され、また、1年に1度まとめて納付されることから、
- 労働保険には、どのようなものがあり?
- それぞれの労働保険料は、どのように計算され、いくら払われているのか?
を忘れがちになります。
また「給与計算における雇用保険料の控除」を行う場合にも、
「控除される雇用保険料」が比較的僅少であり、「控除計算に用いる保険料率」も頻繁に改訂されることがないため、
- 給与計算において控除している雇用保険料がどのようなものであるか?
をあまり意識しないことが多いと思います。
このため、ここでは、
「労働保険料の納付」や「給与計算時における雇用保険料の控除計算」の大前提となる、
- 労働保険料の種類、労働保険料の金額や
- 労働保険料の負担関係、給与計算において控除する雇用保険料についての
基礎的な事項を、「整理する」意味も込めて、ご紹介させて頂いております。
当該ページにおきましては、それほど難解な事項はないと思いますので、
- 「年度更新を行う場合の前提知識」として、
- 「給与計算における雇用保険料の控除計算を行う場合の前提知識」として、
軽くご一読頂ければと思っております。