ここでは、『 給与計算における「雇用保険料の控除計算」』を行うために必要となる「雇用保険に関する基礎知識」を、以下の項目に従い、ご紹介させて頂きます。
Ⅰ:給与計算で控除の対象となる『「労働保険料」の種類 』
『 給与計算における「雇用保険料の控除計算」』を行う場合には、
労働保険料のうち「どのような保険料」を給与計算で控除することが必要となるか?について理解しておくことが大前提となります。
このため、ここでは、先ず『 給与計算で控除することが必要となる「労働保険料の種類(範囲)」』についてご紹介させて頂きます。
給与計算で控除の対象となる『「労働保険料」の種類
「会社が(労働保険の)保険者に対して支払うことが必要となる労働保険料」には、以下のものがありますが、
|
「 上記の労働保険料 」の内、
「会社」のみが「これらの労働保険料等」を負担することになり、 |
「会社」とともに「従業員」も負担することが必要となる「労働保険料」は、
|
このため、『会社が給与計算において控除することが必要となる「労働保険料」』は、
『「(失業等給付に係る)雇用保険料」のうちの「従業員負担部分」』のみとなります。 |
「労働保険料の種類」と「給与計算で控除が必要となる労働保険料」の関係
「労働保険料の種類」と「給与計算で控除が必要となる労働保険料」の関係をまとめると、以下のものとなります。
雇用保険料 | 労災保険料 | 一般拠出金 | |
失業等給付保険料 | 2事業保険料 | ||
◯ | × | × | × |
◯ :給与計算で会社が従業員から徴収することが必要となる「労働保険料」
☓ :「保険料等の全額」が会社負担となるため、給与計算で従業員からの徴収が不要となる「労働保険料」
▶ なお、この点につきましては、別途『「労働保険の種類」と「労働保険料及びその負担関係」』でより詳細にご紹介させて頂いておりますので、必要がある場合には、当該リンクページをご一読頂ますようお願い致します。
Ⅱ:雇用保険料控除の対象となる「従業員の範囲」
上記Ⅰでご紹介させて頂きましたように、会社の給与計算において「控除する労働保険料」は、
『「(失業等給付に係る)雇用保険」のうちの「従業員個人が負担する部分」』となりますが、
さらに『 雇用保険料の控除が必要となる「従業員」』は、従業員のうち「雇用保険の被保険者となる従業員のみ」となります。 |
このため、ここでは、
- 給与計算において雇用保険料控除の対象となる「従業員の範囲」をご紹介させて頂くとともに、
- 「従業員」が「雇用保険」に加入する「加入要件」をご紹介させて頂きます。
1、給与計算において雇用保険料控除の対象となる「従業員の範囲」
会社には「正社員」「パート社員、アルバイト社員」等様々な従業員がいらっしゃいますが、
給与計算時において、会社が雇用保険料の控除を行わなければならない方は、
「 雇用保険に加入している従業員( 雇用保険の被保険者である従業員 ) 」のみとなります。 |
すなわち、『「雇用保険」への加入 』につきましては、
下記2でご紹介させて頂くような「 雇用保険の加入要件 」があり、 |
「従業員」が、この「 雇用保険の加入要件 」を満たしている場合には、
・「雇用保険」に加入することが必要となり、この場合には、雇用保険料の一部を「従業員個人」が負担することが必要となります。
・このため、このような(雇用保険の被保険者となる)従業員に係る給与計算におきましては、
「これらの従業員が個人で負担する雇用保険料」を会社で徴収(控除)することが必要となります。 |
他方、「従業員」が、「 雇用保険の加入要件 」を満たしていない場合には、
・「雇用保険」には加入することができないため、「当該従業員」につきましては「雇用保険の保険料」を負担する必要はありません。
・このため、このような(雇用保険の被保険者とならない)従業員に係る給与計算におきましては、
「雇用保険料」を徴収(控除)することは不要となります。 |
◆ 参考:『「(年齢による)雇用保険料の免除規定」の廃止 』につきまして ◆
2、雇用保険の「加入要件」
「会社で働く従業員」が雇用保険に加入するための「加入要件」は以下のものとなります。
① 勤務開始時から31日間以上雇用される見込みがあること ②「1週間の所定労働時間」が「20時間以上」であること ③ 「学生(通信教育、夜間、定時制の学生などは除く)」でないこと 上記①~③すべてに該当した場合には、原則、雇用保険に加入することが必要となります。 |
◆ 参考:「役員の雇用保険の加入」につきまして ◆
◆ 参考:「雇用保険への加入態様」につきまして ◆
Ⅲ:「控除する雇用保険料額」の算定式
給与計算において給与支給額から雇用保険料を控除する場合には、「控除する雇用保険料の金額」を算定することが必要となりますが、
この「控除する雇用保険料」は、
「会社が労働保険の保険者に対して納付する雇用保険料」のうち「従業員が個人で負担する部分の金額」となります。 |
このため、ここでは、
・下記1におきまして、『給与計算において「控除する(従業員負担部分の)雇用保険料」の算定式』についてご紹介させて頂くとともに、
・下記2、3におきまして、「控除する雇用保険料の計算基礎」となる
- 『雇用保険料の算定基礎となる「賃金」の内容』及び
- 『従業員が負担する「雇用保険料率」』についてご紹介させて頂きます。
1、給与計算で「控除する雇用保険料額」の算定式
『 給与計算において「給与支給額から控除する雇用保険料の金額」を算定する計算式 』は、以下のようなものとなります。
① 雇用保険料の算定基礎となる「賃金」 × ② 従業員が負担する「(失業等給付に係る)雇用保険料率」 |
▶ なお、『「給与計算において控除する雇用保険料」の具体的な算定方法』につきましては、別途、『「雇用保険料の控除金額」の算定方法』というページでご紹介させて頂いておりますので、必要がある場合には、当該リンクページもご覧頂きますようお願い致します。
2、雇用保険料の算定基礎となる「賃金」
『 雇用保険料の算定基礎となる「賃金」』は、
賃金、手当、賞与、その他名称のいかんを問わず、 従業員が労働の対償として受ける全てのものが対象となります。※1 |
このため、
・労働保険制度におきましては、「これらの手当」は「労働の対償として支給されたもの」であると看做されるため、 ・「これらの手当」につきましても、『 雇用保険料の算定基礎となる「賃金」』に含めることが必要となります。 |
また、
・「これらの現物給与」につきましても、「労働の対償として支給されたもの」であると看做されるため、 ・原則「これらの現物給与の価値」を評価し『雇用保険料の算定基礎となる「賃金」』に含めることが必要となります。 |
他方、
・ 労働保険制度では、「これらの支給」は『「 労働の対償 」として支払われるものでない 』と考えることから、 ・「これらの支給」を『雇用保険料の算定基礎となる「賃金」』に含めることは不要となります。 |
◆ 『 雇用保険料の算定基礎となる「賃金」』の具体的項目 (上記※1) ◆
▶ 『 雇用保険料の算定基礎となる「賃金」』につきましては、別途『労働保険料の算定基礎となる「賃金の範囲」』にて、詳しくご紹介させて頂いておりますので、必要がある場合には、これらのリンクページもご覧頂きますようお願い致します。
▶ 『「現物給与」の取扱い』につきましては、別途『労働保険における「現物給与」の取り扱い』にて、詳しくご紹介させて頂いておりますので、必要がある場合には、これらのリンクページもご覧頂きますようお願い致します。
3、従業員が負担する「(失業等給付に係る)雇用保険料率 」
「従業員が負担する(失業等給付に係る)雇用保険料率」は、会社が営む事業の種類ごとに以下の率となります。
(会社が営む事業により従業員の離職率が異なることから、以下の「3種類の保険料率」が設定されています。)
会社が営む事業の種類 | 従業員が負担する「(失業等給付に係る)雇用保険料率」 |
一般の事業 | 0.003(0.3%) |
農林水産の事業 清酒製造の事業 |
0.004(0.4%) |
建設の事業 | 0.004(0.4%) |
※ 「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」以外の事業は、「一般の事業」となります。
※ なお、「各年度の雇用保険料率」につきましては、「厚生労働省のHP」にて確認することができます。
従いまして、「給与計算において控除する雇用保険料の金額」を算定するためには、
- 上記2でご紹介させて頂きました『雇用保険の算定基礎となる「賃金」』に
- 上記の「従業員が負担する(失業等給付に係る)雇用保険料率」を乗じて計算することとなります。
◆ 参考:「雇用保険料率」と「会社・従業員との保険料負担関係」 ◆
Ⅳ:特定月の控除雇用保険料の計算
『給与計算において「控除する雇用保険料額」の算定式』は、上記Ⅲでご紹介させて頂きました算定式となりますが、
ここでは、『「特定月の給与計算において控除する雇用保険料額」の算定方法 』をご紹介させて頂きます。
1、特定月の控除雇用保険料の計算方法
「ある月の給与計算において控除する雇用保険料額」を算定するためには、
計算することとなります。※1 |
すなわち、「特定月の雇用保険料控除額の計算」に適用する「雇用保険料率」を選択する場合には、
・「給与計算で計算されている給与支給額」は、何月分のものであるか?を把握し、 ・「その月(給与計算対象期間)」が属する「保険年度の雇用保険料率」を選択することが必要となります。 |
※1: 上記の算定式の根拠
2、「雇用保険料率の改訂」と「注意すべき給与計算月」
「従業員が負担する雇用保険料率」につきましては、
・ 保険年度(4月~3月)ごとに見直し判断が行われるため、 ・『「4月分の雇用保険料」を算定する場合に使用される保険料率』から新しい保険料率に改定される可能性があります。 |
このため、
「従業員が負担する雇用保険料率」が改訂されていないか?を確認し、
「改訂後の従業員が負担する雇用保険料率」を使用して「雇用保険料控除額」を算定することが必要となります。 |
※ なお、「各年度の雇用保険料率」につきましては、「厚生労働省のHP」にて確認することができます。
3、例示によるご紹介
ここでは、上記1、2でご紹介させて頂きました内容に基づいて、
「簡単な設例」を用いて「雇用保険料の算定例示」をご紹介させて頂きます。
◆ 例 示 1 ◆
『「3月1日から3月31日までを計算対象期間」とする「令和○年3月分の給与」』に係る「雇用保険料の控除額」を算定する場合には、
⇒「 3月分の給与計算で控除する雇用保険料 」を計算することとなります。 |
◆ 例 示 2 ◆
『「3月16日から4月15日までを計算対象期間」とする「令和○年3月分の給与」』に係る「雇用保険料の控除額」を算定する場合には、
⇒「 3月分の給与計算で控除する雇用保険料 」を計算することとなります。 |
◆ 例 示 3 ◆
『「3月21日から4月20日までを計算対象期間」とする「令和○年4月分の給与」』に係る「雇用保険料の控除額」を算定する場合には、
⇒「 4月分の給与計算で控除する雇用保険料 」を計算することとなります。 |
税理士事務所・会計事務所からのPOINT
ここでは、弊税理士事務所・会計事務所が「給与計算において雇用保険料の控除計算」を行うために最低限必要と思う「基礎的事項」につき、ご紹介させて頂いております。
「控除する労働保険料の種類」と「雇用保険料の控除の対象となる従業員の範囲」とにつきまして
「給与計算において雇用保険料の控除計算」を行うためには、
まず、「給与計算で控除する労働保険料の種類」と「雇用保険料の控除対象となる従業員の範囲」についての基礎的な理解が必要となると考えます。
このため、上記Ⅰ及び上記Ⅱにおきましては、
「給与計算で控除する労働保険料の種類」及び「雇用保険料の控除対象となる従業員の範囲」及びをご紹介させて頂いております。
「給与計算において控除する雇用保険料の算定方法」につきまして
実務上「給与計算において雇用保険料の控除計算」を行う場合には、
『雇用保険料の算定基礎となる「賃金」』を把握することが最も重要なものとなると考えますので、上記Ⅲ-2でご紹介させて頂きました内容を中心にご理解頂ますようお願い致します。
「 特定月の控除雇用保険料の計算 」につきまして
「ある月の給与計算において控除する雇用保険料額」を算定するためには、
- その月の給与計算対象期間において『 支払義務が確定した(≒発生した)「賃金(給与支給額)」』と
- その「給与計算対象期間」が属する「(従業員が負担する)雇用保険料率」とを用いて
計算することとなります。
この点につきましては、『 基本的に「支払ベース」で物事を考える「社会保険料」』とは異なっておりますので、ご確認頂ますようお願いします。
また、上記Ⅵ-2でご紹介させて頂いておりますように、
「4月分の給与計算」を行う場合には、『控除する雇用保険料の算定基礎率である「保険料率」』が改訂される可能性がありますので、
「4月分の給与計算」を行う場合には、「雇用保険料率」の改訂がなされているか否かのご確認をして頂きますようお願い致します。