「勤怠管理の必要性」及び「勤怠管理の方法」を、下記の事項に従い、ご紹介させて頂きます。

 

 

 

Ⅰ:「勤怠管理」の「意義」と「必要性」

1、勤怠管理の意義

勤怠管理とは、

会社が、従業員の労働時間を適正に把握するため、
・従業員の「出勤・欠勤」や「有給休暇等の取得・消化状況」等
・従業員の労働日ごとの「始業・ 終業時刻」や「休憩時間」等
を確認し、これを記録することをいいます。

 

2、勤怠管理の必要性

会社が従業員の勤怠管理を行うことは、「従業員の健康管理の観点(健康障害を招く過重労働の防止の観点)」「給与計算の観点」等様々な観点から必要となりますが、
ここでは、特に「給与計算の観点からの勤怠管理の必要性」について記載させて頂きます。

 

「時間外労働時間」「法定休日労働時間」等の把握のための必要性

「労働基準法」では第37条において

  • 従業員が法定労働時間を超えて労働した場合
  • 従業員が法定休日に労働した場合等
  • 従業員が深夜時間帯PM22:00~AM5:00)に労働した場合には

会社は従業員に対して、「割増賃金法定手当)」を支払わなければならないこととしています。

そして、この「割増賃金」を給与計算において算定するためには、その前提として、

アクセント丸(小:背景透明) 時間外労働時間
アクセント丸(小:背景透明) 深夜時間帯の労働時間
アクセント丸(小:背景透明) 法定休日労働時間
アクセント丸(小:背景透明) 法定休日における深夜時間帯の労働時間

を把握・計算することが必要となります。

このような「時間外労働時間」「深夜労働時間」「法定休日労働時間」「深夜法定休日労働時間」を把握するためには、
その前提として、『従業員の労働日ごとの「始業・ 終業時刻」や「休憩時間」等を確認し、これを記録する』勤怠管理を行うことが必要となります。

 

欠勤、遅刻、早退等管理のための必要性

会社の給与計算におきましては、
従業員が「欠勤」「遅刻」「早退」等を行った場合に、「給与支給額減額」を行うことがありますが、

この「給与支給額の減額金額」を給与計算において算定するためには、その前提として、

アクセント丸(小:背景透明) 欠勤による不労時間
アクセント丸(小:背景透明) 遅刻による不労時間
アクセント丸(小:背景透明) 早退による不労時間

を把握・計算することが必要となります。

このような「欠勤遅刻早退等による不労時間」を把握するためには、
その前提として、『従業員の「出勤・欠勤管理」や「実際の始業・ 終業時刻」を確認し、これを記録する』勤怠管理を行うことが必要となります。

 

有給休暇の取得状況の管理のための必要性

会社は従業員に対して「勤務の継続期間」「その期間の出勤率」に応じて「年次有給休暇」を付与することが必要となります。

また、労働基準法第39条(年次有給休暇)の規定が改正されたことから、使用者は、平成31年4月1日から、

一定の要件を満たす労働者には、年次有給休暇を5日消化させなければならないことが義務付されました 。

このような「有給休暇消化管理」を会社で行うためには、
その前提として、『従業員の「有給休暇の取得・消化状況」を確認し、これを記録する』勤怠管理を行うことが必要となります。

 

 

Ⅱ:給与計算のための「勤怠管理の流れ」と「勤怠管理方法」

勤怠管理の方法につきましては、会社の規模・勤怠管理の目的等によって様々な方法があると思いますが、
ここでは「給与計算を行うという観点」から行われる「一般的な勤怠管理の流れ」をご紹介させて頂きます。

アクセント矢印(背景透明) 「給与計算の観点から行われる勤怠管理」は、以下のような手順で行われます。

勤怠管理:勤怠管理の流れ

 

アクセント矢印(背景透明) また、勤怠管理を行うためには、上記の「勤怠管理の流れ」で把握された事項を記録することが必要となるため、
勤怠管理のためには、下記のような『各従業員ごとの「勤怠管理簿」』を作成することが必要となります。

【勤怠管理簿の例示】
勤怠管理:勤怠管理簿

 

以下におきましては、「勤怠管理の流れ」につき、「勤怠管理簿への記録方法」と合わせ具体的にご紹介させて頂きます。

 

Step1:「出勤・欠勤」等の管理・記録

給与計算の観点から勤怠管理を行う場合には、まず上記Ⅰ-2で記載させて頂きましたように

  • 出勤管理(欠勤・遅刻・早退等による不労時間の管理)
  • 法定休日労働の管理
  • 有給休暇の消化管理

を行うことが必要となります。

このため、まず「勤怠管理簿」において、

アクセント丸(小:背景透明) 「出勤、欠勤」「有給消化」「法定休日出勤」等の記録
アクセント丸(小:背景透明) 「遅刻、早退」等の記録

を行うことが必要となります。

 

勤怠管理:Step1(出勤・欠勤、休日出勤、有給休暇等の記録)

 

Step2:「始業・終業時刻」&「休憩時間」の記録

給与計算のためには、「時間外労働時間」「深夜労働時間」「法定休日労働時間」「深夜法定休日時間」を把握・計算することが必要となりますが、

これらの「労働時間」を把握・記録する前提として、

各「出勤日」における

アクセント丸(小:背景透明) 始業時刻
アクセント丸(小:背景透明) 終業時刻
アクセント丸(小:背景透明) 休憩時刻

記録しておくことが必要となります。

 

勤怠管理:Step2(始業・終業・休憩時刻の記録)

 

Step3:時間外労働時間、法定休日労働時間等の計算

上記Step2において「始業時刻」「終業時刻」「休憩時間」の記録が行われたら、当該記録から

各「出勤日」ごとの

アクセント丸(小:背景透明) 時間外労働時間
アクセント丸(小:背景透明) 深夜労働時間
アクセント丸(小:背景透明) 法定休日労働時間
アクセント丸(小:背景透明) 法定休日深夜労働時間

を計算することが必要となります。

 

勤怠管理:Step3(時間外労働時間、法定休日労働時間等の計算)

 

Step4:給与計算対象期間における時間外労働時間等の集計

「労働基準法」で定められた「時間外賃金(残業代金)」「深夜労働賃金」「法定休日労働賃金」「深夜法定休日労働賃金」等の割増賃金は、給与計算対象期間ごとに算定されるために、

「勤怠管理」の最終段階として、

給与計算対象期間における

アクセント丸(小:背景透明) 時間外労働時間
アクセント丸(小:背景透明) 深夜労働時間
アクセント丸(小:背景透明) 法定休日労働時間
アクセント丸(小:背景透明) 深夜法定休日労働時間

を集計します。

 

勤怠管理:Step4(時間外労働時間、法定休日労働時間等の集計)

 

 

Ⅲ:「労働時間の適正な把握のためのガイドライン」の公表

労働基準法においては、「労働時間法定休日深夜業等について規定」や「時間外労働深夜労働法定休日労働に対する割増賃金の規定」を設けていることから、会社に「従業員の勤怠管理責務」があることが前提となっていますが、

労働基準法には、
会社の勤怠管理責務」や「会社の勤怠管理方法」を直接明示した規定はありません

このため、厚生労働省から、平成29年1月
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が策定・公表され、
「会社の勤怠管理責務」や「会社の勤怠管理方法」を明示したガイドラインが策定・公表されました。

当該ガイドラインにつきましては、
・「労働基準法」等の法律ではないのですが、
・「会社が労働時間の適正な把握のために講じなければならない指針」となるものであるため、
今後、会社が勤怠管理を行う場合には、このガイドラインに従って勤怠管理の運用を行うことが必要となります。
(「労働時間に関する労使間の争い」があった場合や「労働基準監督署における指導」等があった場合には、当該ガイドラインに記載されている措置等に基づいて勤怠管理を行っているか?が重要な事項となると予想されます。)

このため、ここでは、
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」の主要な内容を簡単にご紹介させて頂きます。

 

「勤怠管理に関するガイドライン」の主な内容

「始業・終業時刻の確認及び記録の必要性」の明文化

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、
「4 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置」の(1)において、

会社は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごと始業終業時刻確認し、これを記録すること。

が明示されました。

 

冒頭でも記載させて頂きましたが、これまでも労働基準法に「労働時間、法定休日、深夜業等について規定」や「時間外労働、深夜労働、法定休日労働に対する割増賃金の規定」等が設けていることから、
労働基準法を遵守するためには、「会社において勤怠管理を行わなければならない」ことが前提となっていました。
ただし、労働基準法におきましては、「労働日ごとの勤怠記録を行わなければならない」という文言は明記されていませんでした。

今回、当該ガイドラインが公表されたことにより、
勤怠管理の運用として『「労働日ごとの始業・終業時刻」の確認・記録』が必要となる
すなわち、勤怠管理の運用にあたっては、「勤怠管理簿等の作成が必要となることが、新たに明文化されました。

 

「原則的な始業・終業時刻の確認及び記録方法」の明文化

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、
「4 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置」の(2)において、

上記の「始業・終業時刻の確認・記録方法」としては、原則として

・使用者(経営者、管理者等)が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。

又は

タイムカードICカードパソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。

が必要となることが明文化されました。

 

近年、「割増賃金の未払い」や「過重な長時間労働」といった労働時間に関する社会的問題が生じており、
そもそも「勤怠管理簿」等に記録されている『「始業・終業時刻」自体が不適正な時刻が記録されているのではないか』という問題が生じていいます。

このため当該ガイドラインでは、
「始業・終業時刻の記録」において、上記のような「現認作業」や「客観的な記録」を会社に義務付けることにより、
『「勤怠管理簿」等に記録された「始業・終業時刻」は適正なものである』ということを会社が証明しなければならない義務を課しています。

 

「労働時間の記録に関する書類の保存期間」の明文化

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、
「4 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置」の(5)において、

・「労働者名簿」「賃金台帳」のみならず、
・「出勤簿」や「タイムカード」等の「労働時間の記録に関する書類」についても、
労働基準法第109条に基づき、3年間保存しなければならないこと。

を明文化しています。

 

労働基準法第109条におきましては、
「労働者名簿」「賃金台帳」等の「労働関係に関する重要な書類」については、3年間保管することが明記されていますが、

当該ガイドラインにより、
出勤簿勤怠管理簿)」や「タイムカード」等の「労働時間の記録(勤怠管理)に関する書類」についても、3年間保管しなければならない「労働関係に関する重要な書類」であることが明文化されました。

 

 

Ⅳ:給与計算のための「勤怠管理」の導入

勤怠管理につきましては、上記Ⅱ、Ⅲでご紹介させて頂きましたように、各従業員ごとに日々の労働時間を記録することが必要となることから、
多くの従業員を雇用されている場合等では「勤怠管理簿の作成・確認作業等」が煩雑になります。

また、毎月の給与計算に間に合うように「勤怠管理簿を作成・確認」することが必要となることから、「勤怠管理の運用」は実務的にも時間的にもタイトな作業となります。

このため、多くの従業員を雇用されている会社様等におきましては、費用対効果を検討の上、

勤怠管理システムの導入を検討されても良いのではないかと考えます。

他方、「従業員の人数がそれほど多くなく」かつ「経営者等による始業・終業の現認が可能である場合」には、

エクセル等で勤怠管理簿を作成することにより「勤怠管理」を行うことも可能であると考えます。

 

「勤怠管理システム」を利用する場合

近年では、IT技術やクラウド技術の発展を背景に、比較的安価で「勤怠管理システム」の導入ができるようになってきいます。

このため、従業員が多く、勤怠管理に多くの労力が必要な会社様におきましては、

  • 始業・終業時刻の記録の容易さ
  • 「勤怠管理システム」から出力される「勤怠管理記録」の利用可能性
  • イレギュラー自体への対応の柔軟さ等

を考慮し、会社にあった「勤怠管理システム」を導入・利用することもご検討頂くことが必要となるのではないかと考えます。

 

エクセル等により「勤怠管理簿」を作成する場合

「勤怠管理簿」につきましては、基本的に「始業時刻、終業時刻、休憩時間」等を記録するものであるため、
雇用する従業員数がそれほど多くなく、経営者等により従業員の始業・終業時刻等が現認できる場合には、
「エクセル」等により「勤怠管理簿」を作成し、勤怠管理を行うことも可能であると考えます。

この点、弊会計事務所では、上記Ⅱで例示させて頂きました「勤怠管理簿のサンプル」を下記リンクページで配布させて頂いております。

Excel「勤怠管理簿」の配布

当該「勤怠管理簿」につきましては、基本的に「始業時刻、終業時刻、休憩時間」等を入力することにより、
「時間外労働時間」「深夜労働時間」「法定休日労働時間」「深夜法定労働時間」等の「法定手当(割増賃金)の計算に必要となる労働時間」を自動的に計算できるものとなっております。

もしご興味があれば、一度上記リンクページをご覧頂きますようお願い致します。

 

 

税理士事務所・会計事務所からのPOINT

近年の「割増賃金の未払い問題」や「過重な長時間労働問題」といった労働時間に関する社会的問題が増加していることを背景に、
「勤怠管理は、会社が行わなければならない責務である」という社会的認識が高まっております。
(また監督官庁におきましても、上記Ⅲでご紹介させて頂きましたガイドライン等を公表することにより、このことを社会的に浸透させています。)

この観点からも、「適切な勤怠管理を行う」ことは「会社として行わなければならない業務」になっていると考えます。

 

また、
・「割増賃金の未払い問題」や「過重な長時間労働問題」といった「労使間の問題」を回避する、
・従業員間での効率的な業務配分を行うetc.のために、

日常から従業員の労働時間を管理し、
・会社と従業員との間で、労働時間に対する認識のズレがないか?
・過重な長時間労働を行っている従業員はいないか?
・特定従業員に対して、業務量が偏重していないか?
・従業員間で業務量を調整する必要はないか?
・時間外労働に対する賃金支払は適切になされているか?等
を確認することは、会社経営にとっても有用な管理になるのではないかと考えます。

正直、会社にとって勤怠管理につきましては「煩雑であり」「労力が掛かる業務」であると思いますが、
上記の社会的要請・実務上の必要性等を考慮して、「それぞれの会社にあった適正な業務管理の導入・運用」をご検討頂ますようお願い致します。