「掛売上取引」における「取引の流れ」をご説明した上で、『「掛売上取引」における「売上計上ルール」』及び『「掛売上取引」を会計帳簿へ入力するための基本的入力方法』等を、下記の項目に従い、ご紹介させて頂きます。

 

 

 

Ⅰ:「掛売上取引」とは

「掛売上取引」とは、

  • 得意先顧客)に対して、「商品等の納品・引渡し」「サービスの提供」等がなされ、
  • 後日、その「販売代金サービス代金」が回収される取引をいいます。

掛売上取引は、

得意先・顧客に対して「商品等の納品・引渡し」や「サービスの提供」が行われるという点では、「現金売上取引」と同様となりますが、

その「販売代金・サービス代金」の回収が、商品の納品時・サービス提供時に行われず、後日行われるという点で、「現金売上取引」と異なります

 

掛売上取引は、

  • 業者(会社等)に対して商品等を販売する「卸売業
  • 業者に対して加工した製品を販売する「製造業
  • 業者に対して加工サービスを請け負う「加工業
  • 業務委託・外注請負サービス人材派遣サービス等を提供する「サービス業

を営む会社での主要な売上取引となります。

 

また、近年におきましては、

  • 自社でインターネットサイトを構築して、一般消費者への販売を行う「商品販売業(小売業)」でも、

掛売上取引が多く行われています。

 

2、「掛売上取引」の流れ

「掛売上取引」では、「現金売上取引」とは異なり、「商品の引渡・納品サービスの提供」と「販売代金・サービス代金の回収」とが別々に行われます。

このため、「掛売上取引」が完了するまでには、以下の段階を経ることが必要となります。

  1. 顧客(得意先)からの「注文の受注
  2. 会社から顧客(得意先)への「商品の引渡、納品」や「サービスの提供
  3. 会社から顧客(得意先)への「請求書」の発行
  4. 顧客(得意先)からの「販売代金・サービス代金」の回収

 

① 注文の受注

「掛売上取引」は、顧客からの「注文を受注」することから始まります。

注文を受注することにより、顧客と会社との間で、以下の合意がなされます。

  • 顧客により「購入する商品サービスの内容」等、
  • 顧客と会社との「販売代金やサービス代金」等についての合意がなされます。

なお、この段階では、

上記の合意内容を会社と顧客とで確認するため、顧客から「注文書」等が発行されます。

 ただし、注文書の受領はなされず、「電話口頭」等で行われる場合も多くあります。

 

② 商品の納品・引渡、サービスの提供

「掛売上取引」における第2段階では、上記①の注文に基づき、

会社から顧客に対して「商品等の納品・引渡」や「サービスの提供」が行われます。

また、この段階におきましては、単に「商品等の納品・引渡」「サービスの提供」が行われるだけではなく、

会社は、『顧客等に対して「販売代金やサービス代金」を請求することができる権利請求権)』を取得します。

「掛売上取引」におきましては、「商品等の納品・引渡」や「サービスの提供」が行われた時点では、「販売代金やサービス代金」の受領はなされませんが、

会社から顧客に対して「商品の納品・引渡」や「サービスの提供」が完了していることから、
会社は、顧客に対して「販売代金やサービス代金」を請求することができる権利(請求権)』を取得することになります。

この段階における取引を、

『「掛売上取引」における「販売取引」』といいます。

なお、この段階では、

会社と顧客との間で「商品等の引渡、納品」や「サービスの提供」が行われたことを確認(証明)するため、会社から顧客に対して「納品書」や「作業完了報告書が発行されます。

 サービスの提供がなされた場合には、「作業完了報告書」等が発行されない場合も多くあります。

 

③ 請求書の発行

「掛売上取引」における第3段階では、会社から顧客に対して「販売代金・サービス代金」の請求がなされます。

上記②の「販売取引」で取得した「請求権」を、月次等の一定期間単位で集計し、

「集計した金額」を顧客に対して実際に請求します

会社は上記②の段階で、顧客に対して『「販売代金やサービス代金」を請求することができる権利(請求権)』を取得しています。

このため②の段階で、取引の都度請求書することも可能となります。

ただし、掛売上取引を行う得意先に対しては、通常、継続的な取引が予定されており、取引の都度、請求書を発行することは、請求業務・代金回収業務に掛かる事務負担過大になります。

このため、通常、掛売上取引では、月次等の一定期間単位において行われた掛売上取引に係る「販売代金・サービス代金」を一括して請求します。

なお、この請求を行う場合には、

会社と顧客との間で「請求金額」を確認(証明)するため、会社から顧客に対して「請求書が発行されます。

 継続的にサービスの提供がなされており、請求金額も毎月同じである等の場合には、「請求書」等が発行されない場合もあります。

 

④ 販売代金・サービス代金の回収

「掛売上取引」における最終段階では、上記③の請求に基づき、顧客から「販売代金・サービス代金」の回収を受けます。

「販売代金・サービス代金」の回収は、

  • 集金等により「現金」を受け取ることによりなされる場合
  • 会社の指定した「預金口座」に振込入金される場合とがあります。

前者の場合には、会社の「現金」が増加し、
後者の場合には、会社の「預金(普通預金、当座預金等)」が増加することになります。

また、この段階におきましては、単に「会社の現金や預金」が増加するだけではなく、

顧客等に対して有していた「請求権」が消滅します。

上記②の「販売取引」によって会社が取得した『「販売代金・サービス代金」を請求することができる権利(請求権)」』は、

「販売代金・サービス代金」が回収されることにより、消滅します

この段階における取引を、

『「掛売上取引」における「代金回収取引」』といいます。

なお、この段階では、

「販売代金・サービス代金」を受け取ったことを証明する目的で、会社から顧客に対して「領収書」が発行されます。

 預金振込による場合等では、上記証明が不要なため「領収書」が発行されない場合もあります。

 

「掛売上取引」の取引流れの図示

 

 

Ⅱ:「売上計上ルール」と「売上の計上」

「掛売上取引」が行われますと、当然ですが、「売上」が増加することになります。
このため、この「売上の増加」を会計帳簿に入力することが必要となります。

他方、「掛売上取引」では、上記Ⅰの2でご説明したように、4つの段階を経て取引が完了するため、どの段階で「売上の増加」を会計帳簿に計上するかが問題となります。

この点につきましては、以下のように、税務上の「売上計上に関するルール」が存在していることから、このルールに従って売上を会計帳簿に計上ことが必要となります。

以下では、

  • この税務上の「売上計上に関するルール」をご紹介するとともに、
  • 「掛売上取引」において、『「売上の増加」としなければならない段階』をご紹介させて頂きます。

 

1、税務上の売上計上に関するルール

「売上計上のルール」として、税務上、以下のルールが存在しています。

売上は、

  • 商品等の納品・引渡」や「サービスの提供」が完了し
  • その販売代金やサービス代金」に対する請求権(債権)が発生した

時点で会計帳簿に計上することが必要となります。

 

2、掛売上取引における売上計上の段階

上記1の「税務上の売上計上に関するルール」に従い「売上の計上」を行うためには、

「掛売上取引」における「取引の流れ」のうち、

  • ②の「販売取引」が完了した段階で、「売上」を会計帳簿に計上することが必要となります。

掛売上取引における売上計上段階の図示

 

3、売上計上に関する例示

売上計上に関して、以下の例示を使用してご説明させて頂きます。

(なお、ここでは説明を単純化するため、1年間(会社の会計期間)に、以下の4つの掛売上取引しかないものとします。)

 

1)例示

掛売上取引①:顧客から「1,000円の商品」を購入する旨の受注を受けているが、商品の引渡は未了である。

掛売上取引②:顧客から受注のあった「2,000円の商品」を顧客に納品(出荷)した。但し、これに係る請求書は未発行である。

掛売上取引③:顧客から受注のあった「3,000円の商品」を顧客に納品(出荷)し、これに係る請求書も発行している。ただし、これに係る販売代金の回収は未了である。

掛売上取引④:顧客から受注のあった「4,000円の商品」を顧客に納品(出荷)した。またこれに係る販売代金も回収済みである。

 

2)売上計上金額

上記例示における売上金額は、「販売取引」まで完了している

取引②(2,000円) + 取引③(3,000円) + 取引④(4,000円) = 9,000円 となります。

掛売上取引の売上計上の例示の図示

 

 

Ⅲ:「掛売上取引」の会計帳簿への基本的入力方法

「掛売上取引」につきましては、

上記Ⅱでご紹介させていただきましたように「販売取引」まで完了しますと、「売上の増加」を会計帳簿に計上することが必要となります。

また、「代金回収取引」まで完了しますと、会社の「現金」又は「預金(普通預金、当座預金)」が増加するために、『「現金」又は「預金(普通預金、当座預金)」の増加』を会計帳簿に計上することが必要となります。

ここでは、「掛売上取引」が行われた場合には、「どのような会計帳簿の入力が必要となるか」をご説明させて頂きます。

 

1、「販売取引」と「代金回収取引」の区分入力の必要性

「掛売上取引」を会計帳簿に入力する場合には、「販売取引」と「代金回収取引」を別々の取引であると考え、別々会計帳簿に入力することが必要となります。

「掛売上取引」は、
「1つの受注」に対して、「納品」⇒「請求」⇒「代金回収」という「時間的な流れ」を持ちますが、
「1つの取引」として存在しています。

ただし、「時間的な流れ」の中で、
・「売上の増加」を認識(計上)する段階と
・「現金又は預金の増加」を認識(計上)する段階とが異なるために、
それらを同時に会計帳簿に入力することができません。

このため、

「掛売上取引」につきましては、

  • 販売取引」が完了した段階で、「売上の増加」を計上するため会計帳簿に入力することが必要となり、
  • また「代金回収取引」が完了した段階で、「現金の増加」又は「預金の増加」を会計帳簿に入力することが必要となり、

販売取引」と「代金回収取引」を別々の取引として、会計帳簿に入力することが必要となります。

 

2、「販売取引」と「代金回収取引」の会計帳簿への入力

1)「販売取引」の会計帳簿への入力

「販売取引」とは、上記Ⅰの2でも簡単にご紹介させて頂きましたが、

  • 顧客に対する「商品の納品・引渡し」「サービスの提供」等が行われることにより、売上が増加する取引であるとともに、
  • 『「販売代金・サービス代金」の請求権債権)』を取得する取引となります。

この「販売取引」を会計帳簿に入力するためには、上記の内容を「会計で使用される名称(=勘定科目)」に置き換えて表現することが必要となります。

この点、「売上」は、会計では「売上高」という名称(=勘定科目)で表現されます。

また、『「販売代金・サービス代金」の請求権(債権)』は、「売掛金」という名称(=勘定科目)で表現されます。

上記のことから、

「販売取引」の会計帳簿への入力は、

  • 売上高」の増加を入力するとともに
  • 売掛金増加を入力することが必要となります。

 会計上、「売掛金」は、『「販売代金・サービス代金」を請求することができる権利』であることから、無形であるが財産価値をもつ資産として取り扱われます。

 

2)「代金回収取引」の会計帳簿への入力

「代金回収取引」とは、上記Ⅰの2でも簡単にご紹介させて頂きましたが、

  • 得意先(顧客)から「現金」又は「預金入金銀行振込)」により「販売代金・サービス代金」が回収されるとともに、
  • 得意先に対して取得していた『「販売代金・サービス代金」を請求することができる権利債権)』が消滅する取引をいいます。

従いまして、

「代金回収取引」につきましては、

  • 現金」又は「預金普通預金当座預金)」の増加を会計帳簿に入力するとともに、
  • 売掛金」の減少を会計帳簿に入力することが必要となります。

 

3)「販売取引」と「代金回収取引」の関連性

販売取引」と「代金回収取引」の関連性をまとめると、以下のようになります。

販売取引」により、

  • 売上高増加」が会計帳簿に計上されるとともに、
  • 売掛金増加」が会計帳簿に計上されます。

代金回収取引」により、

  • 現金又は預金(普通預金、当座預金)の増加」が会計帳簿に計上されるとともに、
  • 『「販売取引」で計上されている売掛金減少』を会計帳簿に計上します。

この結果、

代金回収取引まで完了している場合には、

  • 会計帳簿上、「売上高増加」が計上されているとともに、「現金又は預金増加」が計上されており、
  • 売掛金」は増加と減少とが相殺され、会計帳簿上での残高は「ゼロ」となります。

他方、「販売取引は完了しているが、「代金回収取引」が未了である場合には、

  • 会計帳簿上、「売上高増加」が計上されているのみであり、
  • 売掛金」も会計帳簿上で残ったままの状態になっております。

掛売上取引の「販売取引」と「代金回収取引」の関連図

 

 

Ⅳ:「掛売上取引」の関連記事

以下のリンクページでは、「掛売上取引」を会計帳簿に入力するために必要となる事項を記載しております。

この記事に続く「掛売上取引」の会計帳簿への入力方法につきましては、以下リンクページをご覧ください。

 

1、「販売取引」の関連記事

1)「販売取引」の会計帳簿への入力方法と仕訳

・「販売取引」を会計帳簿へ入力する基本的入力方法
・「販売取引」の仕訳 etc.
を以下のリンクページで記載しております。

掛売上取引(販売取引)の概要

 

2)「掛売上帳」の記載方法

「販売取引」を月次単位等で入力するために必要となる「掛売上帳」の記載方法 etc.
を以下のリンクページで記載しております。

「掛売上帳」への入力方法

 

3)「販売取引」の「振替伝票」への入力方法

・「販売取引」を「振替伝票」に入力する方法
・入力後における入力確認方法 etc.
を以下のリンクページで記載しております。

なお、「振替伝票への入力方法」には、『「掛売上帳」から「振替伝票」に入力する方法』と『「納品書」等から直接「振替伝票」に入力する方法』とがあります。

 

①「掛売上帳」から「振替伝票」に入力する方法

販売取引の振替伝票への入力(「掛売上帳」利用)

 

②「納品書」等から直接「振替伝票」に入力する方法

販売取引の振替伝票への入力(「納品書」からの入力)

 

2、「代金回収取引」の関連記事

1)「代金回収取引」の会計帳簿への入力方法と仕訳

・「代金回収取引」を会計帳簿へ入力する基本的入力方法
・「代金回収取引」の仕訳 etc.
を以下のリンクページで記載しております。

掛売上取引(代金回収取引)の概要

 

2)「代金回収取引」の「現金出納帳」又は「預金出納帳」への入力方法

・「代金回収取引」を「現金出納帳」又は「預金出納帳」に入力する方法
・入力後における入力確認方法 etc.
を以下のリンクページで記載しております。

代金回収取引の「現金出納帳」「預金出納帳」への入力

 

 

税理士事務所・会計事務所からのPOINT

「掛売上取引」は、「受注」⇒「納品」⇒「請求」⇒「代金回収」という「時間的な流れを持っている」ことを理解して頂くことがまず必要となります。

そのうえで、「掛売上取引」を会計帳簿に入力するためには、

  • 「販売取引(納品段階)」が完了したものにつき「売上の増加」として入力する
  • 「代金回収取引(代金回収段階)」が完了したものにつき「現金又は預金の増加」として入力する

ことが必要となることを理解して頂くことが重要となります。

 

なおこの記事は、「掛売上取引」の取引理解を重視した記事となっております。

「販売取引」「代金回収取引」につきましての詳細な会計帳簿への入力方法につきましては、Ⅳで記載いたしましたリンクページで記載しております。

もしよければ、これらの記事も併せて一読して頂ければと思っております。