ここでは『平成29年1月1日から行われた「雇用保険の適用範囲の拡大」』と『「64歳以上の保険料免除規定」の廃止』について、以下の項目に従い、ご紹介させて頂きます。
Ⅰ:「雇用保険の適用範囲の拡大」と「64歳以上の保険料免除規定」の廃止
ここでは、下記1におきまして、平成29年1月1日以降行われている『「雇用保険の適用の拡大」の改正の内容』をご紹介させて頂くとともに、
下記2におきまして、上記「雇用保険の適用の拡大」に伴い改正された『「64歳以上の保険料免除規定」の経過措置・廃止措置の内容』をご紹介させて頂きます。
1、雇用保険の適用範囲の拡大(平成29年1月1日以降)
’ 平成28年12月31日以前 ’
平成28年12月31日までは、
「雇用保険の一般被保険者」となるためには「年齢による加入要件」があり、
「雇用保険に新たに加入する場合」には、雇用保険加入時点(会社に雇用された時点)において従業員の年齢が64歳以下であることが必要であるという「年齢による加入要件」が存在していました。 |
すなわち、「雇用保険の加入要件」※1を満たしている場合であっても、
会社に雇用された時点における年齢が65歳以上である場合には、「雇用保険の被保険者」となることはできませんでした。※2
※1:雇 用 保 険 の 加 入 要 件
「雇用保険の加入要件」は、以下の要件をすべて満たした従業員となります。
・勤務開始時から31日間以上雇用される見込みがあること
・「1週間の所定労働時間」が「20時間以上」であること
・「学生(通信教育、夜間、定時制の学生などは除く)」でないこと
※2:65歳以上であっても「雇用保険の被保険者」となれる特別の場合
・会社に雇用された時点で既に65歳以上である場合には、新たに雇用保険に加入することはできませんが、
・65歳になる前までに会社に雇用されており、65歳になった日以後も同じ会社に引き続き雇用され続けている場合には、特別に「高年齢継続被保険者」として雇用保険に加入し続けることができました。
(なお、平成28年12月31日以前におきまして、65歳以上の従業員が雇用保険に加入することができる場合は、この「高年齢継続被保険者」として加入している場合に限られていました。)
’ 平成29年1月1日以降 ’
平成29年1月1日以降は、
65歳以上の高齢者であっても依然として就業意欲が高いことなどを背景に、
雇用保険の「年齢による加入要件」が廃止され、 |
雇用保険加入時点(会社に雇用された時点)における年齢が65歳以上である場合も、「高年齢被保険者」※1として、「雇用保険」に新たに加入することができるようになりました。 |
この結果、「雇用保険に加入できる労働者の範囲が拡大」するとともに、「雇用保険の給付を受けることができる労働者の範囲も拡大」し、「雇用保険の適用範囲が拡大」することとなりました。
※1:高 年 齢 被 保 険 者
65歳以上の従業員が雇用保険に加入する場合には、「高年齢被保険者」として、「雇用保険の一般被保険者」とは異なる被保険者区分で、雇用保険に加入することとなります。
なお、平成28年12月31日以前の「高年齢継続被保険者」も、平成29年1月1日以降はこの「高年齢被保険者」となります。
2、「64歳以上の保険料免除規定」の経過措置と廃止時期
1)「平成28年12月31日」までの「保険料免除規定」
平成28年12月31日までは、上記1でご紹介させて頂きましたように、
従業員の年齢が65歳以上となった時点で、当該従業員は「雇用保険の一般被保険者」ではなくなるため、 当該従業員が仮に失業等した場合であっても「一般被保険者」が受けるような「保険給付」を受けることができなくなります。 |
このため、制度上では、
保険年度(4月~3月)の途中で65歳以上となる従業員、 「その保険年度(4月~3月)」における雇用保険料の納付は、「会社」及び「従業員」ともに免除することとしていました。 |
2)「平成29年1月1日」以降「令和2年(平成32年)3月」までの「保険料免除規定」の経過措置
平成29年1月1日以降につきましては、上記1でご紹介させて頂きましたように、
雇用保険の適用が拡大され、雇用保険の新規加入についての「年齢要件」が廃止され、
65歳以上であっても、制限なく「雇用保険の被保険者」となることができるようになったため、
「雇用保険の年齢要件」に付随して設けられていた「64歳以上の雇用保険料の免除規定」も廃止されることが決定しました。 |
ただし、今まで規定していた「64歳以上の雇用保険料免除規定」を直ちに廃止することは、雇用保険の徴収事務や会社における給与計算事務に混乱が生じる恐れがあることから、
「64歳以上の雇用保険料免除規定」につきましては、
|
このため、
①平成29年度4月時点で64歳以上である従業員に係る雇用保険料は、
の3年間は、「会社」及び「従業員」ともに支払いが免除され、 |
②平成30年度4月時点で64歳以上である従業員に係る雇用保険料は、
の2年間は、「会社」及び「従業員」ともに支払いが免除され、 |
③平成31年度4月時点で64歳以上である従業員に係る雇用保険料は、
の1年間は、「会社」及び「従業員」ともに支払いが免除される |
という、「64歳以上の雇用保険料免除規定」の廃止に向けた経過措置がとられることとなりました。
3)「令和2年(平成32年)4月」以降の「保険料免除規定」の廃止措置
令和2年(平成32年)4月以降につきましては、上記2)でご紹介させて頂きましたように、
「64歳以上の雇用保険料の免除規定」が完全に廃止されるため、
64歳以上の従業員に対する雇用保険料は、「会社負担部分」「従業員負担部分」ともに免除されることはなく、 64歳以上の従業員に対する雇用保険料についても、「雇用保険の保険者」に対して支払うことが必要となります。 |
Ⅱ:「雇用保険の適用拡大」に伴う「資格取得届」の届出手続の変更
会社が「その雇用した従業員」を雇用保険に加入させる場合には、「雇用保険被保険者資格取得届」を「雇用保険の保険者」に届け出ることが必要となりますが、
平成29年1月1日に行われた「雇用保険の適用拡大」により、当該届出事務に若干の変更が生じております。
このため、ここでは、この『「雇用保険被保険者資格取得届の届出事務」の変更点』をご紹介させて頂きます。
平成29年1月1日以降の「雇用保険被保険者資格取得」申請
平成28年12月31日以前におきましては、
・65歳以上の従業員は、新たに雇用保険に加入することができなかったことから、
・65歳以上の従業員を雇用した場合には、当該従業員については「雇用保険被保険者資格取得届」の提出を行う必要はありませんでした。(「雇用保険被保険者資格取得届」を提出することはできませんでした。)
これに対し、平成29年1月1日以降におきましては、
65歳以上の従業員を雇用した場合(雇用保険の加入要件を満たす場合)には、
・当該従業員も「雇用保険の被保険者(高年齢被保険者)」となることができるため、
・当該従業員を雇用した場合には、
雇用した月の翌月10日までに、「雇用保険被保険者資格取得届」を保険者に届け出ることが必要となります。 |
参考:平成29年1月1日時点で「在籍する65歳以上の従業員」について
1)「既に65歳以上である従業員」を平成28年12月31日以前に雇用している場合
平成28年12月31日以前におきましては、
・「会社が雇用した時点で既に65歳以上となっている従業員」につきましては、雇用保険に加入できなかったことから、
・当該従業員についての「雇用保険被保険者資格取得届」は、雇用保険の保険者に提出されておらず、平成29年1月1日時点では「雇用保険に未加入の状態」となっています。
他方、平成29年1月1日以降につきましては、
・65歳以上の従業員も雇用保険に加入することが必要となることから、
・当該従業員に対する「雇用保険被保険者資格取得届」を雇用保険の保険者に提出することが必要となります。
よって、このような従業員につきましては、
平成29年3月31日までに、「雇用保険被保険者資格取得届」を保険者に届け出ることが必要となります。 |
2)平成28年12月31日時点で「高年齢継続被保険者」である場合
平成28年12月31日時点で「高年齢継続被保険者」である従業員につきましては、
・平成29年1月1日以降「高年齢被保険者」となりますが、
・このような従業員は、平成29年1月1日時点で「既に雇用保険に加入している状態」にあります。
このため、このような従業員につきましては、
・雇用保険への加入申請である「雇用保険被保険者資格取得届」を新たに保険者に提出することは不要であり、 ・雇用保険の保険者側で、 |
Ⅲ:「保険料免除規定の廃止」による給与計算での事務処理の変更
会社では、「雇用保険料の従業員負担部分」を従業員個人から徴収するため、
給与計算において「従業員負担部分の雇用保険料の控除計算」を行っていますが、
令和2年4月以降は「64歳以上の従業員に係る雇用保険料免除規定」が完全に廃止されることから、
この「64歳以上の従業員に対する雇用保険料の控除計算」が変更されることとなります。
このため、ここでは、
- 「64歳以上の雇用保険料免除規定」が経過的に存在する「令和2年3月までの給与計算」
- 「64歳以上の雇用保険料免除規定」が廃止される「令和2年4月以降の給与計算」
につき、『「雇用保険料の免除規定」の存続・廃止』に関連させ、それぞれご紹介させて頂きます。
1、令和2年(平成32年)3月までの給与計算
令和2年(平成32年)3月までは、
「64歳以上の雇用保険料免除規定」が経過的に存続しているため、 『平成31年4月時点において「64歳以上である従業員」』に対する雇用保険の徴収は免除されています。 |
このため、
「令和2年3月分の給与計算」までは、 『平成31年4月時点において「64歳以上である従業員」』に対する雇用保険料を控除することは不要となります。 |
2、令和2年(平成32年)4月以降の給与計算
令和2年(平成32年)4月以降は、
「64歳以上の雇用保険料免除規定」が完全に廃止されます。 |
このため、
「令和2年4月分の給与計算」からは、 64歳以上である従業員からも「雇用保険」を控除することが必要となります。 |
Ⅳ:「保険料免除規定の廃止」による「労働保険の年度更新」の変更
会社では、労働保険の保険者に対して「各種の労働保険料」を支払うために、
毎年、6月~7月にかけて「労働保険の年度更新」という労働保険料の申請・納付手続を行うことが必要となります。
他方、令和2年4月以降は「64歳以上の従業員に係る雇用保険料免除規定」が完全に廃止されるため、
「令和2年度の年度更新」以降は、「64歳以上の従業員に係る雇用保険料」を保険者に支払うことが必要となります。
このため、ここでは、
- 「64歳以上の雇用保険料免除規定」が経過的に存在する時期に行われる「平成31年度の年度更新」
- 「64歳以上の雇用保険料免除規定」が廃止された後に行われる「令和2年度の年度更新」
- 「64歳以上の雇用保険料免除規定」が廃止された後に行われる「令和3年度以降の年度更新」
につき、『「雇用保険料の免除規定」の存続・廃止』に関連させ、それぞれご紹介させて頂きます。
1、平成31年度の年度更新(平成31年7月10日までに行う年度更新)
平成31年度の年度更新(平成31年7月10日までに行われる年度更新)では、
・「平成30年度分(平成30年4月~平成31年3月)の確定差額の納付申請」及び
・「平成31年度分(平成31年4月~令和2年3月)の概算保険料の納付申請」が行われます。
他方、令和2年3月までは、「64歳以上の雇用保険料免除規定」が経過的に存続しています。
このため、「平成31年度の年度更新」では、
①「平成30年度分の確定差額の納付額計算」において、 ②また「平成31年度分の概算保険料の納付額計算」において、 |
2、令和2年度の年度更新(令和2年7月10日までに行う年度更新)
令和2年度の年度更新(令和2年7月10日までに行われる年度更新)では、
・「平成31年度分(平成31年4月~令和2年3月)の確定差額の納付申請」及び
・「令和2年度分(令和2年4月~令和3年3月)の概算保険料の納付申請」が行われます。
・他方、令和2年3月までは、「64歳以上の雇用保険料免除規定」が経過的に存続していますが、
・令和2年4月以降は、「64歳以上の雇用保険料免除規定」が完全に廃止されます。
このため、令和2年度の年度更新では、
①「平成31年度分の確定差額の納付額計算」において、 ②他方「令和2年度分の概算保険料の納付額計算」においては、 |
2、令和3年度の年度更新(令和3年7月10日までに行う年度更新)以降
令和3年度の年度更新(令和3年7月10日までに行われる年度更新)では、
・「令和2年度分(令和2年4月~令和3年3月)の確定差額の納付申請」及び
・「令和3年度分(令和3年4月~令和4年3月)の概算保険料の納付申請」が行われます。
他方、令和2年4月以降は、「64歳以上の雇用保険料免除規定」は完全に廃止されています。
このため、「令和3年度の年度更新」及び「それ以降の年度更新」では、
「確定差額の納付額計算」及び「概算保険料の納付額計算」において、 |
税理士事務所・会計事務所からのPOINT
ここでは『平成29年1月1日から行われた「雇用保険の適用範囲の拡大」』と『「64歳以上の保険料免除規定」の廃止』について、ご紹介させて頂いておりますが、
こここで最も重要となることは、
「65歳以上の従業員」につきましては、
既に平成29年1月1日以降、「雇用保険」に加入できるようになっている。
ということと、
「各年度の4月時点で64歳以上である従業員」に対しては、
・令和2年3月までは、「その雇用保険料の免除」が継続して行われますが、
・令和2年4月以降は、「その雇用保険料の免除」は行われない。
という2点のことをご理解頂くことであると思います。
そして、上記に関連して実務上では、
給与計算において、
令和2年4月以降は、従業員が「雇用保険の被保険者」であれば、年齢に関係なく、「雇用保険料を控除すること」が必要となる。
(令和2年3月までは、これまでどおりです。)
年度更新において、
「令和2年度の年度更新」の「概算保険料計算」から64歳以上の被保険者に対しても、雇用保険料の支払いが必要となる。
という変更点を把握して頂ければ良いのではないかと考えます。