会社が役員・従業員に対して行う「食事の提供」に係る費用を「福利厚生費」として計上できる要件を、下記項目において考察します。

 

下記Ⅰの前提となる「福利厚生費に対する税務上の基本的考え方」は、⇒コチラで記載させて頂いております。
(もしよろしければ、この記事の前に、上記リンクページを一読頂ければと考えます。)

 

 

Ⅰ:「食事提供」に関する税務上の考え方

会社が従業員・役員の福利厚生目的で負担した「食事提供」に係る費用は、

  • 「従業員・役員への福利・厚生のために支出される費用」であるという面とともに、
  • 実質的には、「従業員給与・賞与」や「役員報酬」と同じく、会社から従業員・役員に対しての「経済的利益が提供された費用」であるという面を持ちます。

このため、税務上では、

従業員・役員の食事提供に対する会社の費用負担が、

  • 広く社会一般で行われている福利・厚生の目的の範囲内で行われている場合には、「福利厚生費」として計上することを認めていますが、
  • 広く社会一般で行われている福利・厚生の目的の範囲を超えて行われているような場合には、「従業員給与・賞与」や「役員報酬」として計上することが必要であるとしています。

 

「従業員・役員への食事提供」につきましては、税務上でも、従業員・役員への福利・厚生のため、広く社会一般的に行われている施策であることは認めています。

ただし、食事提供は、継続的に行われるものであり、年額等にすると比較的高額になるため、
「広く社会一般で行われている福利・厚生目的となり得る食事提供」についての「要件」を税務上比較的具体的に明示しています。

ここでは、税務上、「福利厚生費」として計上し得る「社会一般的に行われている食事提供の範囲」について、以下の要件ごとにご紹介させて頂きます。

  • 食事提供の対象
  • 食事提供を受ける従業員・役員等の負担割合及び会社の負担金額
  • 現物支給の要件

 

 

Ⅱ:福利厚生費として計上できる要件

税務上、「従業員・役員への食事提供」を、会社が「福利厚生費」として計上するためには、以下の要件1~3を満たすことが必要となります。

 

要件1:特定従業員・役員のみを対象としたものではないこと

特定の従業員・役員のみを対象としたものでないことが前提となります。

すなわち、食事補助を希望する従業員・役員がいる場合には、平等に食事補助が行われていることが前提となります。

「会社が行う食事提供に掛かる費用」を「福利厚生費」として計上するためには、「会社が行う食事提供」が「従業員・役員の福利厚生施策の一環」であることが必要となります。

福利厚生施策であるためには、まずその前提として、全従業員・役員を対象としてることが必要となります。

 

要件2:「負担割合」及び「会社の負担金額」の要件

以下の1及び2の要件をすべて満たした場合は、「福利厚生費」として計上することができます。

  1. 食事提供を受ける従業員・役員が「提供される食事の価額」の50%以上を負担していること。
  2. 会社の負担金額は、食事提供者1人につき、1か月当たり3,500円(税抜き)以下であること。

税務上では、「広く社会一般的に行われている会社の食事提供」を「上記の要件内にあるもの」に限っています。

食事提供は、一般的に毎月継続的に行われるものであるため、年間を通じた場合には、比較的高額になる可能性があり、また「会社から従業員・役員への経済的利益の提供」という性格が比較的高いものとなるため、
上記のように「食事提供を受ける従業員・役員の負担割合」や「会社が1カ月に負担できる金額」に対して明確な基準を設けています。

 

要件3:金銭による食費補助でないこと

会社による食事提供が、「金銭」による補助でないことが前提となります。

「従業員・役員への食事提供」が金銭によって行われる場合には、その金銭補助が必ずしも食事補助として使用される確証がなくなります。
(支給金銭の使途が、従業員・役員の自由選択に委ねられ、食事以外の使途に使用される可能性が生じます。)

また、食事提供が金銭により行われた場合には、「給与手当」に含まれる「食事手当」と全く同様のモノとなってしまいます。

このため、税務上では、『「金銭」による「食費補助」』は、「従業員給与・賞与」「役員報酬」として取り扱うことが要求されます。

 

 

Ⅲ:要件の例外

上記Ⅱで記載した要件に該当しない場合であっても、「福利厚生費」として計上できる場合があります。

以下では、上記Ⅱの要件の例外となるものをご紹介致します。

 

1、要件1の例外

結果的に、特定の従業員・役員に対する「食事補助」となってしまった場合

会社としては、全従業員・役員を対象として、「食事補助」を行う方針であっても、「食事補助」を受ける要件としては、「役員・従業員の食事代金の半分以上の負担」が必要となるために、食事補助を受けない方もいらっしゃると思います。

上記場合のように、結果的に特定の従業員・役員に対してのみ「食事補助」がなされている場合には、「会社が行う食事提供」は、「福利厚生費」として計上することができます。

 

2、要件2の例外

通常の勤務時間外において、「従業員・役員に対して支給する食事」については、「会社の負担割合」や「会社の負担金額」に関係なく、「食事代金の全額」を「福利厚生費」として計上することができます。

※ 残業による勤務」「宿直勤務」「日直勤務」等の勤務時間をいいます。

残業、宿直、日直等の通常勤務時間以外での勤務は、「会社の業務遂行のために必要であることから会社が従業員・役員に要請した勤務」となります。

そして、この「残業、宿直、日直等を遂行してもらうため会社が提供した食事」は、

  • 「従業員・役員への経済的利益の提供」という面よりも、
  • 会社利益のため業務遂行目的のため」に行われたものであると考えられます。

このため、上記のような場合における「食事の提供」につきましては、食事の提供を受けた従業員・役員の負担要件は不要であり、「食事代金の全額」を「福利厚生費」として計上することが認められています。

 

3、要件3の例外

深夜勤務者夜食の支給ができないために1食当たり300円(税抜き)以下の金額を支給する場合

「従業員・役員への金銭の支給による食事補助」は、「従業員給与・賞与」「役員報酬」として取り扱われます。

ただし、「深夜勤務者」につきましては、「現物での食事提供」が困難であることが想定されることから、「現物の食事提供」に代えて「金銭による食事補助」を行った場合であっても、「金銭による食事補助代金」を「福利厚生費」として計上することができます。

ただし、この場合でも1食あたりの食事補助代金は300円以下であることが必要となります。

 

 

Ⅳ:具体的事例による考察

1、要件を満たす場合の事例

事例1

【事例】

  • 600円の仕出し弁当を従業員・役員に支給(22日分)しており
  • 450円を従業員・役員から徴収し、150円を会社負担している場合

【検討】

①役員・従業員負担割合

450円 ≧ 300円 (600円÷2):要件を充足

②会社負担金額

150円 × 22日 = 3,300円 ≦ 3,500円 :要件を充足

従業員・役員1人あたり月額3,300円を「福利厚生費」として計上することができます。

 

事例2

【事例】

  • 600円の仕出し弁当を残業時の夜食として従業員に支給(10日分)しており
  • 600円を会社負担している場合

【検討】

①通常の勤務時間外である残業時の食事提供である。

②上記の場合には、「会社の負担割合」「会社の負担金額」の制限はありません。

600円×10日分=6,000円を「福利厚生費」として計上することができます。

 

事例3

【事例】

深夜勤務の従業員に300円を夜食代金として金銭支給(5日分)している。

【検討】

①深夜勤務に係る夜食代金としての金銭支給である。

②1食あたりの支給額300円 ≦ 300円 :要件充足

300円×5日分=1,500円を「福利厚生費」として計上することができます。

 

2、要件を満たさない場合の事例

事例1

【事例】

  • 600円の仕出し弁当を従業員・役員に支給(22日分)しており
  • 300円を従業員・役員から徴収し、300円を会社負担している場合

【検討】

①従業員・役員負担割合

300円 ≧ 300円 (600円÷2):要件を充足

②会社負担金額

300円 × 22日 = 6,600円 ≧ 3,500円 :要件を充足していない

従業員・役員1人あたり月額6,600円を「従業員給与・賞与」「役員報酬」として計上することが必要となります。

この場合、「6,600円‐3,500円の部分のみ」ではなく、会社負担金額全額を「従業員給与・賞与」「役員報酬」として計上することが必要となります。

この場合、上記の金額に対して「所得税の源泉徴収」が必要となります。

 

事例2

【事例】

  • 300円の仕出し弁当を従業員・役員に支給(20日分)しており
  • 125円を従業員・役員から徴収し、175円を会社負担している場合

【検討】

①従業員・役員負担割合

125円 ≦ 150円 (300円÷2):要件を充足していない

②会社負担金額

175円 × 20日 = 3,500円 ≦ 3,500円 :要件を充足

従業員・役員1人あたり月額3,500円を「従業員給与・賞与」「役員報酬」として計上することが必要となります。

この場合、会社負担金額全額を「従業員給与・賞与」「役員報酬」として計上することが必要となります。

この場合、上記の金額に対して「所得税の源泉徴収」が必要となります。

 

事例3

【事例】

深夜勤務の従業員に500円を夜食代金として金銭支給(5日分)している。

【検討】

①深夜勤務に係る夜食代金としての金銭支給である。

②1食あたりの支給額500円 ≧ 300円 :要件充足していない

500円×5日分=2,500円を「従業員給与・賞与」として計上することが必要となります。

この場合、会社負担金額全額を「従業員給与・賞与」として計上することが必要となります。

この場合、上記の金額に対して「所得税の源泉徴収」が必要となります。

 

 

Ⅴ:税務上での各種規定

税務上で、「食事の提供」に関して規定されたものとしては、以下のものがあります。

なお、税務上では、「給与手当・賞与」や「役員報酬」として計上(課税)しなくても良いということの規定となりますので、「法人税法」での規定ではなく、「所得税法」での規定となっています。

 

1、所得税基本通達36-38の2

上記「Ⅱの要件2」の内容を定めた規定です。

 

2、所得税基本通達36-38

「食事代金」に係る金額を定めた規定です。

⇒「会社が食堂等をもち、そこで食事を提供する場合の食事代金」及び「会社が弁当等を購入して提供する場合の食事代金」を規定しています。

 

3、所得税基本通達36-24

上記「Ⅲの2(例外規定)」を定めた規定です。

 

4、タックスアンサーNo.2594 食事を支給したとき

上記Ⅱの要件」及び「上記Ⅲの例外規定」を定めた規定です。

 

 

税理士事務所・会計事務所からのPOINT

「役員・従業員への食事の提供」につきましては、「福利厚生費」という勘定科目のもつ名称から、直感的に「福利厚生費」や「消耗品費」として計上してしまうことが多いと思います。

他方、税務上では、「福利厚生費」や「消耗品費」として計上できるものは、限定されます。

このため、「役員・従業員への食事の提供」に対する「勘定科目の選択」につきましては、

  • 税務上の要件をクリアした場合には「福利厚生費」や「消耗品費」として計上し、
  • 要件をクリアしない場合には「役員報酬」「従業員給与・賞与」として計上すること

が必要となるということを意識して仕訳入力することが大切であると考えます。