ここでは「給与の計算」における「控除項目の1つ」である『「雇用保険料の控除金額」の算定方法 』につき、以下の事項に従い、ご紹介させて頂きます。

 

 

 

Ⅰ:「雇用保険料の控除計算」を行う前に必要となる確認事項

給与計算において「雇用保険料の控除額」を算定する場合には、まず、事前に

  • 雇用保険料の控除計算が必要となる「従業員の範囲」を確認する
  • (控除する)雇用保険料の算定基礎となる「賃金の範囲」を確認する
  • (控除する)雇用保険料の算定基礎率となる「(従業員が負担する雇用保険料率」を確認する

ことが必要となります。

 

アクセント三角(小:背景透明) このため、ここでは「具体的な雇用保険料の算定方法」をご紹介する前に、まず上記『「雇用保険料の控除計算」を行う前に必要となる確認事項 』をご紹介させて頂きます。

 

1、雇用保険料の控除計算が必要となる「従業員」の確認

給与計算で「雇用保険料の控除が必要となる従業員」は、

「雇用保険の被保険者」である「従業員」のみとなります。

 

アクセント三角(小:背景透明) 従いまして、給与計算において「雇用保険料の控除計算を行うことが必要となる従業員」は、

雇用保険被保険者資格取得届」がハローワーク等届出されている従業員に限られますので

この点につきましては事前にご確認頂ますようお願い致します。

 

2、「賃金の範囲」を確認する

「給与計算で雇用保険料を控除する場合」には、その前提として

雇用保険料の算定基礎となる賃金給与支給額)」』を把握・計算しておくことが必要となります。

 

この点、

アクセント矢印(背景透明)「給与支給明細書」等に記載される「給与支給項目」の中には、

  • 『 雇用保険料の計算対象となる給与支給項目」』※1
  • 『 雇用保険料の計算対象とはならない給与支給項目」』※2とがあるため、

 

アクセント矢印(背景透明)「雇用保険料の控除計算」を適切に行うためには、

   アクセント丸(小:背景透明) 「給与支給明細書」等に記載されている「給与支給合計金額」から、

   アクセント丸(小:背景透明) 『 雇用保険料の計算基礎とはならない給与支給項目」』を除外し

『 雇用保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』を事前に算定しておくことが必要となります。

 

また、「給与支給明細書」に記載される「給与支給額」とは別に
『「定期券等の支給社宅等の貸与食事の提供被服の提供・貸与」などの「現物給与」』が支給されているような場合には、

アクセント矢印(背景透明)これらの「現物給与」につきましても、

「現物給与が支給されている状況によっては、
「現物給与」を雇用保険料の計算対象としなければならない場合があるため、

 

アクセント矢印(背景透明)「現物給与を雇用保険料の計算対象としなければならない」と判断した場合には、

   アクセント丸(小:背景透明) これらの「現物給与」を金銭評価し、

   アクセント丸(小:背景透明) 「その現物給付の評価額」を「上記①把握・計算された金額」に加算して

『 雇用保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』を把握・計算することが必要となります。

 

◆ 『 雇用保険料の計算対象となる「賃金(給与支給額)」』 (※1の部分) ◆

「労働保険制度」におきましては、

『「労働の対償」として支給されている「賃金給与支給額)」』は、『 雇用保険料の計算対象となる「賃金」』に含めることが必要となります。 (  労働保険の保険料の徴収等に関する法律 2条2項  )

 

アクセント三角(小:背景透明) このため、

 

『 源泉所得税の計算においてはその対象とはならない「(非課税通勤費」や「(非課税宿直・日直手当」』も、

「雇用保険料の控除計算」においては、その計算対象に含めることが必要となりますので、この点につきましてはご注意頂ますようお願い致します。

 

▶ なお、『 雇用保険料の計算対象となる賃金」』には以下のものがあります。       

 

◆ 『 雇用保険料の計算対象とならない「賃金(給与支給額)」』 (※2の部分) ◆

他方、「労働保険制度」におきましては、

 

アクセント丸(小:背景透明) 会社費用の実費弁済的な支給出張旅費宿泊費赴任手当移転料工具等手当など)

アクセント丸(小:背景透明) 恩恵的に支給されるもの災害・療養・傷病見舞金慶弔金年功慰労金勤続報奨金など)

アクセント丸(小:背景透明) その他労働の対償でない支給労基法76条の休業補償費解雇予告手当出産手当金傷病手当金退職金など)

につきましては、

 ・ 『「 労働の対償 」として支払われるものでない 』と見做されるため、

 ・「これらの支給項目」を『雇用保険料の算定基礎となる「賃金」』に含めることは不要となります

 

アクセント三角(小:背景透明) 従いまして、「給与支給明細」等に「これらの支給項目」が含まれている場合には、

   アクセント丸(小:背景透明) 「給与支給明細書」等に記載されている「給与支給合計金額」から、

   アクセント丸(小:背景透明) 「 これらの給与支給項目」を除外して

『 雇用保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』を算定することが必要となります。

 

▶ なお、『 雇用保険料の計算対象とならない賃金」』には以下のものがあります。      

 

◆ 「現物給与」の取扱い ◆

会社から従業員に対して『「社宅等の貸与」「食事の提供」「被服の提供・貸与」等の「現物給与」』が支給されている場合には、

  • 『「その現物給与」が支給されている状況 』や
  • 『「現物給与を提供等している従業員」から負担金が徴収されているか否か 』により、

「現物給与」を雇用保険料の計算対象としなければならないか否か判断規定が設けられています。

 

アクセント三角(小:背景透明) 従いまして、

  • 『「社宅等の貸与」「食事の提供」「被服の提供・貸与」等の「現物給付」』が提供されている場合であり、
  • かつ、以下の取扱い」で「雇用保険料の計算対象に含めなければならないと判断された場合には、

これらの「現物給与の評価額」を『 雇用保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』に含めることが必要となります

 

1)「社宅等の貸与」の取扱い          

 

2)「食事の提供」の取扱い           

 

3)「被服の提供・貸与」の取扱い        

 

3、「従業員が負担する雇用保険料率」の確認

「給与計算で雇用保険を控除しようとする場合」には、

従業員が負担する雇用保険料率」を確認して下さい。

 

アクセント三角(小:背景透明) なお、『 令和3年度の「従業員が負担する(失業等給付に係る)雇用保険料率」』は、会社が営む事業の種類ごとに以下の率となります。

会社が営む事業の種類 従業員が負担する失業等給付に係る)雇用保険料率
一般の事業 0.0030.3%
農林水産の事業
清酒製造の事業
0.0040.4%
建設の事業 0.0040.4%

 「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」以外の事業は、「一般の事業」となります。

 「各年度の雇用保険料率」につきましては、「厚生労働省のHP」にて確認することができます。

 

◆ 『「雇用保険料率」の適用期間 』 ◆

「その年度の雇用保険料率」の適用期間は、

その年の3月分の給与計算(雇用保険料控除計算)」から「 翌年の4月分の給与計算(雇用保険料控除計算)」までとなります。

 

◆ 「雇用保険料率」の改訂 ◆

「雇用保険料率」は、毎年4月分の雇用保険料率」から変更される可能性があります。

 

アクセント三角(小:背景透明) 従いまして、

4月分の給与計算」を行う場合には、

上記の「厚生労働省のHP」で「雇用保険料率」が改訂されていないかをご確認頂ますようお願い致します。

 

 

Ⅱ:給与計算で「控除する雇用保険料」の算定方法

上記Ⅰでご紹介させて頂きました確認を踏まえ、

給与計算で「控除する雇用保険料」の算定方法は、以下のものとなります。

雇用保険料の算定基礎となる賃金」  ×  従業員が負担する雇用保険料率

 

◆ 計算結果の端数処理 ◆

・上記の計算の結果、「1円未満の端数」が生じた場合には、50銭未満の端数切り捨て50銭以上切り上げることとなります。

・なお、上記とは別に、労使の間で慣習的な取扱い等の特約がある場合には、当該特約に従って処理することとなります。

 

 

Ⅲ:「雇用保険料の控除額」の算定例示

ここでは、「具体的な例示」を使用して、『「給与計算で控除する雇用保険料額」の算定方法』を具体的にご紹介させて頂きます。

なお、

 ・例示1では『「令和3年3月分の給与計算において「従業員給与から控除する雇用保険料の金額」の算定方法』を、

 ・例示2では『「令和3年4月分の給与計算において「従業員給与から控除する雇用保険料の金額」の算定方法』を、

 ・例示3では『「社宅の貸与」が行われている場合において「従業員給与から控除する雇用保険料の金額」の算定方法』を、

 ・例示4では『「食事の提供」が行われている場合において「従業員給与から控除する雇用保険料の金額」の算定方法』を、

 ・例示5では『「被服の提供」が行われている場合において「従業員給与から控除する雇用保険料の金額」の算定方法』を、

ご紹介させて頂きます。

 

 例 示 1

『 令和3年3月分の従業員給与において「従業員給与から控除する雇用保険料の金額」』を算定する場合の例示を以下でご紹介致します。

 

◆  設  例  ◆

小売業を営む会社における、R3年3月分の「給与支給状況」が以下のような場合を想定します。
(なお、以下の従業員につきましては、すべて「雇用保険の被保険者」であるとします。)

雇用保険料の控除額計算の具体例(設例1)

 

◆  「 控除する雇用保険料 」の算定  ◆            

 

 例 示 2

『 令和3年4月分の従業員給与において「従業員給与から控除する雇用保険料の金額」』を算定する場合の例示を以下でご紹介致します。

 

◆  設  例  ◆

小売業を営む会社における、R3年4月分の「給与支給状況」が以下のような場合を想定します。
(なお、以下の従業員につきましては、すべて「雇用保険の被保険者」であるとします。)

雇用保険料の控除額計算の具体例(設例2)

 

◆  「 控除する雇用保険料 」の算定  ◆            

 

 例 示 3 :「社宅の貸与」が行われている場合

◆  設  例  ◆

・以下の従業員(勤務地:東京)に対して「社宅の貸与」が行われていると仮定します。
・なお、会社が営む事業は、建設業であると仮定します。

 

雇用保険料の控除額計算の具体例(設例3)

 

◆  社宅の貸与状況  ◆

 ケース1 

「社宅を貸与している従業員」と「社宅を貸与していない従業員」との均衡を図るための「均衡手当」は支給されていない場合。

 

 ケース2 

「社宅を貸与している従業員」との均衡を図るため、「社宅を貸与していない従業員」に「均衡手当」を「2万円」支給している場合。

アクセント矢印(背景透明)2-1:上記とともに、「社宅を貸与している従業員」から「社宅の賃料」として「1万円」を徴収している。

アクセント矢印(背景透明)2-2:上記とともに、「社宅を貸与している従業員」から「社宅の賃料」として「5,000円」を徴収している。

アクセント矢印(背景透明)2-3:上記とともに、「社宅を貸与している従業員」から「社宅の賃料」は徴収していない

 

 ケース3 

「社宅を貸与している従業員」との均衡を図るため、「社宅を貸与していない従業員」に「均衡手当」を「4万5千円」支給している場合。

アクセント矢印(背景透明)3-1:上記とともに、「社宅を貸与している従業員」から「社宅の賃料として15,000円」を徴収している。

アクセント矢印(背景透明)3-2:上記とともに、「社宅を貸与している従業員」から「社宅の賃料として1万円」を徴収している。

アクセント矢印(背景透明)3-3:上記とともに、「社宅を貸与している従業員」から「社宅の賃料」は徴収していない

 

◆  「 控除する雇用保険料 」の算定  ◆            

 

 例 示 4 :「食事の提供」が行われている場合

◆  設  例  ◆

・以下の従業員(勤務地:東京)に対して「食事の提供」が行われていると仮定します。
・なお、会社が営む事業は、サービス業であると仮定します。

 

雇用保険料の控除額計算の具体例(設例4)

 

◆  食事の提供状況  ◆

 ケース1 

・当月において、昼食20日提供し、
・当該従業員から「食事代」として1食につき「300円」を徴収している。

 

 ケース2 

・当月において、昼食22日提供し、
・当該従業員から「食事代」として1食につき「50円」を徴収している。

 

 ケース3 

・当月において、昼食18日提供し、
・当該従業員から「食事代」は徴収していない

 

◆  「 控除する雇用保険料 」の算定  ◆            

 

 例 示 5 :「制服の提供」が行われている場合

◆  設  例  ◆

・以下の従業員(勤務地:東京)に対して「制服の提供」が行われていると仮定します。
・なお、会社が営む事業は、製造業であると仮定します。

 

雇用保険料の控除額計算の具体例(設例5)

 

◆  「 控除する雇用保険料 」の算定  ◆            

 

 

税理士事務所・会計事務所からのPOINT

ここでは、『給与計算において「控除する雇用保険料の金額」の算定方法』につき、ご紹介させて頂いております。

 

「控除雇用保険料額の算定方法」につきまして

給与計算において「控除する雇用保険料の金額」を算定すること自体は、
上記のように比較的簡単に算定することができるため、是非この機会に算定方法をマスターして頂きますようお願い致します。

 

ただし、「社宅の貸与、食事の提供、被服の貸与・提供」などの「現物給与」が支給されている場合には、
『雇用保険料の算定基礎となる「賃金」』を把握する場合に、少々厄介な計算が必要となりますので、

上記Ⅲの例示3、4、5等で記載させて頂きました計算例示をご確認頂ますようお願い致します。

 

「雇用保険料率」の改訂につきまして

上記Ⅰ-3でご紹介させて頂いておりますように、

「4月分の給与計算」を行う場合には、『控除する雇用保険料の算定基礎率である「保険料率」』が改訂される可能性がありますので、

「4月分の給与計算」を行う場合には、「雇用保険料率」の改訂がなされているか否かのご確認をして頂きますようお願い致します。