ここでは、『「標準報酬月額」の定時決定』の内容につきまして、以下の項目に従い、ご紹介させて頂きます。
Ⅰ:「標準報酬月額」の定時決定の必要性
’ 「社会保険料の計算」における「標準報酬の利用」 ’
毎月の給与計算で従業員等に対して支給される「給与支給額」等につきましては、
・勤怠時間により変動する「法定手当(時間外労働手当、深夜労働手当、法定休日労働手当)」が支給されるため、
・また「精皆勤手当」「出張手当」「宿直・日直手当」等の臨時的な「任意手当」が支給されることがあるため、
毎月変動することが予想されますが、
このような毎月変動する「給与支給額」等に基づいて社会保険料の計算を行うことは、
従業員・役員からの社会保険料の徴収計算を行う会社にとっても、会社からの社会保険料の徴収計算を行う保険者にとっても、事務処理が煩雑になります。
このため、「社会保険料の計算」におきましては、
- 毎月変動することが予想される「給与支給額」等を算定基礎として計算するのではなく、
- 『ある一定期間における「給与支給額」「役員報酬額」を月平均した金額(報酬月額)』に基づいて決定された「標準報酬月額」というものを設け、
この「標準報酬月額」を算定基礎として計算することとしています。
’ 「標準報酬の定時決定」の必要性 ’
社会保険料の算定基礎となる「標準報酬月額」は、頻繁に改定されるとその設定目的が損なわれてしまいます。
他方、「給与支給額」等については昇給・降給等がなされることが想定されるため、
実際の「給与支給額」等が大きく変動したにもかかわらず「標準報酬月額」が変更されない場合には、
「会社や従業員・役員が負担しなければならない社会保険料」が、「給与・役員報酬の実態に合わない標準報酬月額」に基づいて計算されることとなり、社会保険料の負担に不公平が生じてしまいます。
このため、「標準報酬月額」につきましては、
この『「標準報酬月額」の一斉見直決定』のことを「標準報酬月額の定時決定」といいます。 |
Ⅱ:定時決定における「標準報酬月額」の決定概要と届出事務
1、定時決定における「標準報酬月額」の決定概要
『「標準報酬月額」の定時決定』は、
7月1日時点でその会社に在籍する社会保険の被保険者(従業員・役員)を対象として行われます。 |
また、定時決定される「標準報酬月額」は、
上記の被保険者が、「4月」「5月」「6月」の3ヶ月間に『会社から支払われた「給与・役員報酬」の「平均値」』に基づいて、決定されることとなります。 |
社会保険料の算定基礎となる「標準報酬月額」につきましては、
- 「年間の給与・役員報酬の平均額額」等で算定するのではなく、
- まずは、『特定期間である「4月」「5月」「6月」に支払われた給与・役員報酬の平均値』をもって算定されることになります。(定時決定)
なお、「定時決定」がなされた後に、「給与・役員報酬の著しい増加・減少」があった場合には、
「実際の給与・役員報酬額」に適合するように「標準報酬月額」を調整することが必要となりますが、
この調整手続は、「定時決定」とは別の手続である「随時改定」という手続により、その都度調整する仕組みが採られています。
※ なお、『定時決定に係る「標準報酬月額」の決定』の前提となる『定時決定における「報酬月額」の算定方法』につきましては、別途『 定時決定における「報酬月額」の算定方法』で詳しくご紹介させて頂いておりますので、こちらのページにつきましても是非ご一読頂ますようお願い致します。
2、定時決定に係る届出事務
上記1でご紹介させて頂きましたように、『定時決定で見直決定される「標準報酬月額」』は、
社会保険の保険者が、
7月1日現在会社に在籍する被保険者(従業員・役員)の『4月、5月、6月の給与・役員報酬の「支払金額の平均値」』に基づいて決定するものとなりますが、
社会保険の保険者側では、
会社から被保険者(従業員・役員)に対して支払われた「給与・役員報酬の金額の情報」はわかりません。
このため、会社から社会保険の保険者に対して、
を届け出ることが必要となります |
なお、上記の「4月、5月、6月の給与・役員報酬の支払額」及び「3ヶ月間の平均支払額(報酬月額)」は、
|
その後、
|
Ⅲ:定時決定された「標準報酬月額」の使用開始時期
’ 「社会保険料の計算」に対する使用開始時期 ’
「定時決定」により決定された「新しい標準報酬月額」は、
「9月分の社会保険料」を計算する時から使用開始することとなります。 |
’ 「社会保険料の納付月」との関係での使用開始時期 ’
「9月分の社会保険料」は、
10月末までに会社から保険者に納付されることとなるため、 |
「社会保険料の納付」との関係で考えると、「新しい標準報酬月額」は、
『10月に保険者に納付される「社会保険料」』の計算から使用開始されることになります。 |
’ 「社会保険料の徴収月」との関係での使用開始時期 ’
従業員・役員個人が負担する「9月分の社会保険料」は、
10月に会社から支払われる給与・役員報酬から会社が徴収することとなるため、 |
「社会保険料の徴収」との関係で考えると、「新しい標準報酬月額」は、
10月に支払われる給与・役員報酬から控除する「社会保険料」の計算から使用開始されることになります。 |
Ⅳ:定時決定で決定された「標準報酬月額」の有効時期
「定時決定」は、
・社会保険料に係る会社及び保険者の事務処理の便宜を考慮した上で、
・「標準報酬月額」が「実際の給与・役員報酬の支給額」から大きく乖離してしまうことを調整するために、
1年に1回行われるものであるため、
定時決定によって決定された「標準報酬月額」は、原則、1年間使用し続けられるものとなります。
すなわち、定時決定で決定された「標準報酬月額」は、
定時決定以後に「随時改定」がなされない限り、 「当年度の9月分の社会保険料の計算」から「翌年度の8月分の社会保険料の計算」まで使用され続けることになります。 |
Ⅴ:「定時決定」の例外(適用除外)
「定時決定」は、
7月1日時点で会社に在籍する従業員・役員の「標準報酬月額」を一斉に見直し決定する手続であるため、
原則、『7月1日以前に決定されていた「標準報酬月額」』は、一斉に見直し決定されます。 |
ただし、
・「7月に随時改定が行われる従業員・役員」 「定時決定」がなされず、「定時決定の例外(適用対象外)」として取り扱われることになります。 |
また、
6月1日以降に「入社した従業員」「新任された役員」につきましても、 「定時決定」がなされず、「定時決定の例外(適用対象外)」として取り扱われることになります。 |
’ 「7月~9月に随時改定が行われた場合」の適用除外 ’
①「当年度の7月分の社会保険料の計算」に使用する「標準報酬月額」が随時改定によって改定されている場合には、 ②「当年度の8月分の社会保険料の計算」に使用する「標準報酬月額」が随時改定によって改定される(予定の)場合には、 ③「当年度の9月分の社会保険料の計算」に使用する「標準報酬月額」が随時改定によって改定される(予定の)場合には、 9月分以降の社会保険料の計算にあたっては、 |
例 外 的 取 扱 の 理 由
【7月の随時改定が例外となる理由】
・7月に随時改定が行われる場合には、『「4月・5月・6月の3ヶ月間」における「報酬月額」に基づいて決定された「標準報酬月額」』が、既に「7月分の社会保険料計算」から使用されています。
・他方、『「定時決定」により決定される「標準報酬月額」』も『「4月・5月・6月の3ヶ月間」における「報酬月額」に基づいて決定されることから、
・『「7月の随時改定」により改定される「標準報酬月額」』と『「定時決定」により決定される「標準報酬月額」』は同額となります。
このように「7月に随時改定がなされる」場合には、「定時決定」を経ても「標準報酬月額」は実質的に変更されることはないため、『「定時決定」の例外』となります。
【8月、9月の随時改定が例外となる理由】
・「定時決定により決定される標準報酬月額」は、『「4月・5月・6月の3ヶ月間」における「報酬月額」』に基づいて決定されますが、
②の「8月に随時改定される標準報酬月額」は、『「5月・6月・7月の3ヶ月間」における「報酬月額」』に基づいて改定されたものであり、
③の「9月に随時改定される標準報酬月額」は、『「6月・7月・8月の3ヶ月間」における「報酬月額」』に基づいて改定されたものであるため、
これらの「随時改定で改定された標準報酬月額」は、
・9月分の社会保険料の計算前から(定時決定前から)使用されているものであっても、
・『その「報酬月額」の算定期間』が『定時決定における「報酬月額」の算定期間』よりも新しいものとなることから、
定時決定が行われた場合であっても「定時決定で決定される標準報酬月額」に優先して適用されることとなります。
※ なお、上記につきましては『「7月・8月・9月の随時改定」と「定時決定」の関係』で、より詳細に記載しておりますので、必要がある場合には、上記リンクページを一読して頂きますようお願い致します。
’ 「6月1日以降に入社した場合」の適用除外 ’
6月1日以降に「入社した従業員」「新任された役員」は、『「定時決定」の適用対象外』として取り扱われ、 『「入社時(資格取得時)」に決定された「標準報酬月額」』が、9月分以降の社会保険料の計算にも引き続き使用されることになります。 |
例 外 的 取 扱 の 理 由
「定時決定」は、
・7月1日時点で会社に在籍する従業員・役員を対象として行われるものであるため、
・本来的には、「6月1日~6月30日の間に入社・就任した従業員・役員」も「定時決定」の対象となります。
ただし、「6月1日以降に入社・就任した従業員・役員」につきましては、「6月までの給与・役員報酬の支払実績」が著しく不足することが想定されるため、
・「定時決定」を適用せず、
・9月以降の社会保険料計算においても『「入社時(資格取得時)」に決定された「標準報酬月額」』を引き続き使用して計算することとされています。
※ なお、上記につきましては『「定時決定の適用除外」となる新入社員・退職社員』で、より詳細に記載しておりますので、必要がある場合には、上記リンクページを一読して頂きますようお願い致します。
税理士事務所・会計事務所からのPOINT
ここでは、『「標準報酬月額」の「定時決定の内容(概要)」』をご紹介させて頂いております。
「定時決定」につきまして
「定時決定」は、社会保険料の算定基礎となる「標準報酬月額」を決定する重要な手続きとなることから、
・定時決定に係る事務手続
・定時決定で決定された標準報酬月額の使用開始時期、有効期間につきましては、ご理解頂くことが必要となります。
なお、標準報酬月額の使用開始時期につきましては、
・「9月分の社会保険料」の計算から使用されますが、
・『「社会保険料の納付月」との関係』『給与・役員報酬から控除する社会保険料の計算月」との関係』では、1ヶ月遅れの10月から使用されることとなりますので、
この点、ご留意が必要となると考えます。
『「定時決定」の適用除外となるもの』につきまして
上記のⅤでご紹介させて頂いておりますものにつきましては、「定時決定」が適用されないものとなりますので、
上記Ⅴでご紹介させて頂いております場合に該当する従業員・役員がいらっしゃいましたら、
・「例外となる理由」等をご理解頂いた上で、
・「被保険者報酬月額算定基礎届」への適切な記載を行って頂ますようお願い致します。
「報酬月額」の算定方法について
『「定時決定」における「報酬月額」の算定方法』につきましては、別途『定時決定における「報酬月額」の算定方法』で詳しくご紹介させて頂いておりますので、『「定時決定」における「報酬月額」の算定方法』をご確認頂く場合には、当該リンクページを一読して頂きますようお願い致します。