『社会保険料の「支払時」の処理方法』につきましては、2種類の処理方法が存在します。
またこの結果、『社会保険料の「徴収時」の処理方法』につきましても、2種類の処理方法が存在します。
ここでは、この『社会保険料の「支払時」及び「徴収時」』における2種類の処理方法につき、下記項目に従い、ご紹介させて頂きます。

 

 

 

2種類の会計処理方法

「社会保険料」には「会社負担部分」と「従業員・役員負担部分」とがあるため、

会社から保険者への「社会保険料の支払」は、

  • 「社会保険料のうち会社負担部分」を保険者へ支払う取引
  • 「社会保険料のうち従業員・役員負担部分」を保険者へ支払う取引

という「2種類の内容の異なる取引合わさった支払取引」となります。

 

社会保険料の処理方法(従業員負担分と会社負担分の区分概要)

 

このため「社会保険料の支払取引」に対する会計処理としては、

上記の「負担者が異なる取引」を「別々の支払取引」であるとみて、
・「従業員・役員負担分に係る社会保険料の支払取引」と「会社負担分に係る社会保険料の支払取引」を区分して処理する方法

実務上の会計帳簿(会計ソフト)への「入力作業の効率化」のために、
・「従業員・役員負担分に係る社会保険料の支払取引も含めて、「会社費用」を支払ったと擬制して処理する方法とがあります。

 

以下では、この「2種類の処理方法」につきご紹介させて頂きます。

 

 

Ⅰ:「従業員・役員負担分」「会社負担分」を区分処理する方法

『社会保険料の「従業員・役員負担分」』につきましては、「従業員・役員個人として負担する費用」であり、本来は従業員・役員がそれぞれ保険者に支払うものとなります。

このため「従業員・役員負担部分の社会保険料」の保険者への支払は、

会社にとって、単に従業員・役員から徴収した「従業員・役員の個人負担分の社会保険料」をそのまま保険者に支払うものとなります。

 

他方、「会社負担分の社会保険料」につきましては、
会社が「従業員・役員の福利厚生のために保険者から社会保険サービス受ける」ものであり、「会社費用」となるものです。

このため「会社負担分の社会保険料」の保険者への支払は、

会社にとって、「費用」を発生させるものとなります。

 

社会保険料に対するの処理を考える場合には、先ず、

【上記のように内容の異なる「従業員・役員負担分」と「会社負担分」』を、別々の支払取引である】として処理方法が考えられます。

 

社会保険料の処理方法(従業員負担分と会社負担分を区分して処理する方法)

 

以下では、この処理方法を採用した場合における

  • 社会保険料の「支払時の処理方法」
  • 社会保険料の「徴収時の処理方法」をそれぞれご紹介させて頂きます。

 

1、社会保険料の「支払時の処理方法」

会社から保険者へは、『「会社負担分」と「従業員・役員負担分」を合計した社会保険料』が支払われますが、

この処理方法では、
『「従業員・役員負担分」と「会社負担分」を区分して支払った』と考えて処理することになります。

すなわち、「社会保険料の支払時」において、

  • 従業員・役員負担分」は、「従業員・役員から預かった社会保険料」を保険者に支払ったものとして処理し、
  • 会社負担分」は、保険者に「会社費用となる社会保険料」を支払ったものとして処理します。

 

雇用保険料の支払時処理【預り金処理】

 

2、社会保険料の「徴収時の処理」

この処理方法では、
従業員・役員から徴収した「従業員・役員負担分の社会保険料」は、
社会保険料の徴収制度」の下に、会社が単に従業員・役員から「従業員・役員負担分の社会保険料」を徴収し、そのまま保険者に支払うことが予定されたものとなります。

ただ、徴収時点では、まだ保険者への支払はなされていないために、会社は「従業員・役員負担分の社会保険料」を(保険者に支払うために)従業員・役員から預かっているという状態になります。

すなわち、「社会保険料の徴収時」においては、

「従業員・役員負担分の社会保険料」を「従業員・役員から預かったもの」として処理します。

 

社会保険料の徴収時処理【預り金処理】

 

 

Ⅱ:支払時に「支払金額の全額」を「会社費用」として処理する方法

上記Ⅰのように「従業員・役員負担分」と「会社負担分」を区分して処理する場合には、
社会保険料の支払時に、「従業員・役員負担分社会保険料金額」と「会社負担分社会保険料金額とを区分把握することが必要となり、
「社会保険料の支払時の処理(社会保険料の支払時の会計帳簿入力時)」に「ひと手間」作業が必要となります。

この社会保険料の支払時における「従業員・役員負担分の社会保険料金額の区分把握」という「実務上の作業」を省略するために

社会保険料の支払時に「会社から保険者へ支払った社会保険料」をすべて会社費用」と擬制して処理する方法があります。

 

社会保険料の処理方法(会社費用として擬制処理する方法)

 

以下では、この処理方法を採用した場合における

  • 社会保険料の「支払時の処理方法」
  • 社会保険料の「徴収時の処理方法」をそれぞれご紹介させて頂きます。

 

1、社会保険料の「支払時の処理」

この処理方法では、

会社から保険者に対して支払われる「社会保険料全額」を、「従業員・役員負担部分」も含めて、すべて会社費用」として処理します。

 この処理方法では、社会保険料支払時に「従業員・役員負担分」を区分把握する作業が不要となります

 

社会保険料の支払時処理【費用処理】

 

2、社会保険料の「徴収時の処理」

上記1のように「社会保険料の支払時」に、
保険者への支払金額全額」を「社会保険料に係る会社費用」として処理する場合には、
この「社会保険料の支払取引」により『「従業員・役員負担分の社会保険料」も含めた金額』が、「社会保険料に係る会社費用」として計上されることになります。

ただし、『本来的な社会保険料に係る会社費用」』は、「会社負担部分のみであり、
支払時に上記の処理を行った場合には、
「社会保険料に係る会社費用」が「従業員・役員負担分社会保険料金額だけ過大計上されていることになります。

このため「社会保険料の徴収時」には、
支払時に生じる「会社費用の過大計上」を解消するため

「従業員・役員負担分として徴収した社会保険料金額」を「社会保険料に係る会社費用のマイナス」として処理することが必要となります。

 

社会保険料の徴収時処理【費用処理】

 

3、当該処理を採用できる前提

社会保険料につきましては、

・「従業員・役員負担分の社会保険料」は、「翌月に支払われる給与・役員報酬計算」で徴収され、
・「社会保険料の支払」は、「翌月の末日まで」に保険者に支払われます。

このため、社会保険料につきましては、「同じ月の社会保険料」に対する「従業員負担分の社会保険料の徴収」と「社会保険料の支払」が同じ月になされ、「費用のマイナス計上」と「費用計上」は同一月になされることになります。
(「費用のマイナス計上」と「費用計上」に月ズレ生じません。)

このため、この処理方法を採用した場合であっても、上記Ⅰと比較して、会計上特段の不都合は生じません。

 

Point! 社会保険料の支払が遅れた場合

会社から保険者への社会保険料の支払は、翌月末日までに支払うことになりますが、

翌月末日が休日であった場合や、何らかの事情により支払が遅れる場合には、この支払が「翌々月」となることがあります。

このような場合には、上記Ⅰの処理を採用している場合であっても、上記Ⅱの処理を採用している場合であっても、「社会保険料に係る会社費用」を未払計上することが必要となります。

このため「社会保険料の支払が遅れた場合」であっても、上記Ⅰと上記Ⅱの処理で違いは生じません。

 

 

税理士事務所・会計事務所からのPOINT

「社会保険料の支払&徴収の会計処理方法」としましては、上記でご紹介させて頂きましたように、

  • 「従業員・役員負担分に係る社会保険料の支払取引」と「会社負担分に係る社会保険料の支払取引」を区分して処理する方法と
  • 「従業員・役員負担分に係る社会保険料の支払取引」も含めて、「会社費用」を支払ったと擬制して処理する方法とがあります。

この「社会保険料の支払&徴収の会計処理方法」としましては、「前者の会計処理」を行っている会社様も多いと思います。

ただ、『社会保険料の「納付書」』では、
「会社負担分の社会保険料」と「従業員・役員負担分の社会保険料」とが区分記載されていないため、
「前者の会計処理」を採用している場合には、「社会保険料の支払取引」を「会計帳簿(会計ソフト)」に入力する場合に、その都度、会社で「会社負担分の社会保険料」と「従業員・役員負担分の社会保険料」を区分することが必要となり、ひと手間作業が必要となります。

このため、弊会計事務所におきましては、
「社会保険料の徴収・支払に係る会計処理方法」としては、「後者の会計処理」を採用頂くことをお勧めしており、
『「給与・役員報酬に係る会計処理」の中での「社会保険料の徴収・支払に係る会計処理方法」』をご説明させて頂く場合には、「後者の会計処理方法」を採用していることを前提としてご説明させて頂いております。