ここでは、「源泉所得税」を算定する場合の『「甲欄」による算定方法 』と『「乙欄」による算定方法 』との違いを、以下の項目に従い、ご紹介させて頂きます。
▶ なお、ここでご紹介させて頂きます内容は『 源泉所得税の算定方法 』というページの補完的説明事項となります。
Ⅰ:「複数の会社等」から給与等を受ける場合の所得税計算の仕組み
ここでは、『「甲欄」による算定方法 』と『「乙欄」による算定方法 』の違いをご紹介させて頂きます前に、
まず「複数の会社等」から給与・役員報酬を受ける場合の『「所得徴収所得税計算」の仕組み 』をご紹介させて頂きます。
1、「複数の会社等」から給与・役員報酬を受ける場合の所得税計算
『「複数の会社等」から給与・役員報酬を受けている方 』につきましては、
その方の「年間給与収入額」「年間役員報酬額」は、 『「複数の会社等」から支給される「年間給与収入額」「年間役員報酬額」の合計金額 』となります。 |
このため、このような方の『「年間給与収入額」「年間役員報酬金額」に対して課税される年間所得税額 』は、
『「複数の会社等」から支給される「年間給与収入額」「年間役員報酬額」の合計金額 』に 「その年度の所得税率」を乗じて算定することが必要となります。 |
2、「複数の会社等」から給与等を受ける場合の「確定申告」制度
上記1でご紹介させて頂きましたように
『「複数の会社等」から給与・役員報酬を受けている方の「年間所得税額」』は、 「複数の会社等から受ける給与・役員報酬の合計金額」に「その年度の所得税率」を乗じて計算することが必要となりますが、 |
『「複数の会社等」からその年度に受けた給与・役員報酬の合計金額 』は、「その個人しか知り得ない情報」であることから、
(給与・役員報酬を支給する会社側では、「把握することができない情報」であることから、)
「このような方」に対しては、
それぞれの会社で行われる「源泉徴収」の他、
別途、「確定申告」という制度を設け、 ・その方自身が「複数の会社等から受けている年間の給与・役員報酬の合計金額」を税務署に申告し、
・その『「合計金額」に係る「年間所得税額」』を税務署に納付しなければならない仕組みを設けています。 |
3、「源泉徴収制度」と「確定申告制度」の関係
上記2でご紹介させて頂きましたように、
『「複数の会社等」から給与・役員報酬を受けている方 』に対しては、 ① 各会社の給与計算で「所得税」を徴収する「源泉徴収制度」を採用するとともに、 ② 各個人が『「年間所得税額」を税務署に申告・納付しなければならない「確定申告制度」を採用するという 「二段階での所得税徴収制度」を設けていますが、 |
仮に、上記①の「源泉徴収」において、すべての会社で同じ水準での源泉徴収が行われたならば、
・「所得税」は「累進課税」であるため、 「源泉徴収された所得税」よりも「確定申告で申告・納付する所得税額」の方が多くなってしまう可能性が高く、
・上記②の「確定申告」は、「追加で税金を納付しなければならないだけの制度」となってしまう可能性が高くなり、 |
結果、給与所得者の中には「税金を追加納付するために」「自ら面倒な確定申告」を行うことを嫌い 「確定申告」を行わない給与所得者が多く出てきてしまうということが懸念されます。 |
このため、税務当局では、
『「複数の会社等」から給与・役員報酬を受けている方 』の「確定申告」を促すため、 ・『 上記第1段階にあたる「源泉徴収」』で、「通常より高い所得税率により源泉徴収」を行い、 ・『 上記第2段階の「確定申告」』を行えば、「過大に源泉徴収されている所得税が還付される」という仕組みを設け、 |
『「1つの会社」から受ける給与・役員報酬 』に対しては、 「通常の所得税率」により「通常の源泉徴収」を行いますが(「甲欄」による源泉徴収)、 |
『「その他の会社」から受ける給与・役員報酬 』に対しては、 「通常よりも高い所得税率」により「過大な源泉徴収」を行い(「乙欄」による源泉徴収)、 |
『「複数の会社等」から給与・役員報酬を受けている方 』が自ら「確定申告」を行えば、 『「通常よりも高い税率」により源泉徴収されている「乙欄の源泉所得税」』が税務署から還付される仕組みを設けています。 |
Ⅱ:「甲欄」と「乙欄」の算定方法の違い
上記Ⅰでご紹介させて頂きましたように、
『「乙欄」による「源泉所得税の算定方法」』は、 「複数の会社等から給与・役員報酬を受けている方」の「確定申告」を促すという特殊な目的を持つ算定方法であるため、 |
・ 通常の源泉所得税の算定方法である『「甲欄」による源泉徴収 』と ・ 特殊な目的の下に設けられている『「乙欄」による源泉徴収 』とでは、 必然的に「その計算方法」は異なるものとなります。 |
従いまして、ここでは、以下「1」「2」におきまして、
- 「一般的な源泉所得税の算定方法」である「甲欄における源泉所得税の算定方法の特徴」と
- 「特殊な源泉所得税の算定方法」である「乙欄における源泉所得税の算定方法の特徴」をそれぞれご紹介させて頂きます。
1、「甲欄」による「源泉所得税」の算定方法の特徴
『「甲欄」による源泉所得税の算定方法 』は、
「年間の所得税の一部」を給与・役員報酬の支払いの都度徴収することを目的とした算定方法であるため、 |
当該『「甲欄」による源泉所得税の算定方法 』は、以下のような「年間の所得税計算を反映した」特徴を持つものとなります。
1)「給与・役員報酬の金額」が一定金額未満である場合には、
「給与・役員報酬から控除される源泉徴収税額」はゼロとなります。
2)「源泉所得税額」を算定する場合に用いられる「所得税率」は、
『「その年度における所得税率」と同水準の税率 』となります。
3)「源泉所得税」を算定する場合には、
その方の「扶養親族等の数」に応じて「源泉所得税の金額」が減額計算されます。 |
1)「源泉徴収税額」がゼロとなる場合がある
「年間の所得税額」の計算にあたっては、
「年間の(社会保険料等控除後の)給与・役員報酬金額」が103万円以下である場合には、 「その方の給与・役員報酬に係る年間所得税」はゼロとなります。 |
このため、「甲欄により源泉徴収を行う場合」にも、上記の年間所得税額計算を反映させ、
「月間の(社会保険料控除後の)給与・役員報酬の金額」が88,000円未満の場合には、 「その月に控除される源泉所得税額」は0円としています。 |
2)「源泉所得税額」を算定する場合に用いられる「所得税率」
「甲欄による源泉徴収」は、「年間の所得税額計算」を反映するものであるため、
「源泉所得税額」を算定する場合に用いられる「所得税率」は、 『「その年度における所得税率」と同水準となるような税率 』で設定されます。 |
3)「扶養親族等の数」に応じた減額計算
「年間の所得税額」の計算にあたっては、
・ その方に「源泉控除対象配偶者、控除対象扶養親族」がいらっしゃる場合や ・ ご本人・扶養親族等が「障害者」である場合や ・ ご本人が「ひとり親、寡婦、勤労学生」に該当する場合には、 「各種の人的な所得控除」を受けることができます。 |
このため、「甲欄により源泉徴収を行う場合」にも、
・上記の年間の所得税額計算における「人的な所得控除」を反映させ、
・その方の「扶養親族等の数」に応じて、
「その月に控除される源泉所得税額」が減額されるような算定方法となっています。 |
2、「乙欄」による「源泉所得税」の算定方法の特徴
『「乙欄」による源泉所得税の算定方法 』は、
「複数の会社等から給与・役員報酬を受けている方」の「確定申告」を促すために、 (「確定申告」で所得税が還付されることを前提に)所得税を過大に源泉徴収する算定方法であることから、 |
当該『「乙欄」による源泉所得税の算定方法 』は、以下のような特徴を持ちます。
1)「月間の給与・役員報酬の金額」が僅少である場合でも、
「その月の給与・役員報酬から控除される源泉徴収税額」はゼロとはなりません。
2)「源泉所得税額」を算定する場合に用いられる「所得税率」は、
『「その年度における所得税率」よりも高い水準の税率 』となります。
3)「源泉所得税」を算定する場合には、
その方の「扶養親族等の数」は考慮されません。 |
1)「源泉徴収税額」がゼロとなる場合はありません
「乙欄による源泉徴収」は、『「確定申告」を促すために「過大な源泉徴収」を行う 』ことを目的としていることから、
「月間の(社会保険料控除後の)給与・役員報酬の金額」が88,000円未満である場合でも、 ・「その月に控除される源泉所得税額」は0円とはならず、 ・必ず「一定割合の源泉徴収」を行うことが必要となります。 |
2)「源泉所得税額」を算定する場合に用いられる「所得税率」
「乙欄による源泉徴収」は、『「確定申告」を促すために「過大な源泉徴収」を行う 』ことを目的としていることから、
「源泉所得税額」を算定する場合に用いられる「所得税率」は、 『「その年度における所得税率」や「甲欄での所得税率」よりも非常に高い水準の所得税率 』となります。 |
3)「扶養親族等の数」に応じた減額計算はされない
「乙欄による源泉徴収」は、『「確定申告」を促すために「過大な源泉徴収」を行う 』ことを目的としていることから、
・「源泉所得税」を算定する場合に、その方の「扶養親族等の数」は考慮されず、 ・よって、「扶養親族等の数」に応じた『「源泉所得税額」の減額計算 』も行われません。 |
Ⅲ:「源泉徴収」に対する会社の責任
1、「扶養控除等申告書」の配布・受領時における注意点
◆ 「扶養控除等申告書」 の配布・受領時の注意点 ◆
「源泉所得税の算定方法」において、
・『「甲欄により源泉徴収」を行う場合 』と『「乙欄により源泉徴収」を行う場合 』とでは、
『 会社が徴収しなければならない「源泉所得税の金額」』は「全く異なる金額」となってしまうことから、
・『「源泉徴収」を「甲欄により行うのか」「乙欄により行うのか」の決定 』は、非常に重要な決定となりますが、 |
この「源泉所得税の算定」にあたり、
『「源泉徴収」を「甲欄により行うのか」「乙欄により行うのか」の判断 』は、
給与所得者から『「扶養控除等申告書」が会社に提出されているか否か 』によって判断されるものとなります。 |
従いまして、
仮に、給与所得者に「扶養親族等」がいらっしゃらないような場合であっても、
「源泉徴収」において「 甲欄による源泉徴収 」を行う場合には、「扶養控除等申告書」の入手が必須となりますので、
「源泉徴収」において「甲欄による源泉徴収」を行う場合 には、
給与所得者から「扶養控除等申告書」が提出されているかのご確認を必ずなさって頂ますようお願い致します。 |
なおこの点、
・「扶養控除等申告書」は、通常「前年の年末調整時」に提出される書類であるため、 給与所得者の中には、「当該申告書」は「扶養親族等を報告する書類である」としか思っておられない方もいるため、
・ 会社で「扶養控除等申告書」を配布又は受領する際には、 『「扶養控除申告書」が「源泉徴収」に対して持つ重要性 』を十分にアナウンスして頂くことが重要であると考えます。 |
◆ 「扶養控除等申告書」の受領時の注意点 ◆
また、
税務当局が「甲欄による源泉徴収制度」や「乙欄による源泉徴収制度」を設定している理由から、
「扶養控除等申告書」は、原則「1つの会社」にしか提出することができない書類となっておりますので、 |
会社で「扶養控除等申告書」を受領する際には、 この点につきましても、給与所得者の方に十分アナウンスして頂ますようお願い致します。 |
なおこの点、
・「アルバイト・パート従業員や非常勤役員等の方」につきましては、
複数の会社等から給与・役員報酬を受けている可能性が高いと思われすので、
・これらの方から「扶養控除等申告書」を受領する場合には、
「扶養控除等申告書」は1つの会社にしか提出していないか?を十分ご確認頂きますようお願い致します。 |
2、「源泉所得税の算定方法の選択誤り」に対する会社の責任
「複数の会社等から給与・役員報酬を受けている方」が、
誤って「複数の会社」に「扶養控除等申告書」を提出してしまった場合には、 その誤りの責任は「従業員・役員の方」が一義的に負うこととなりますが、 |
他方、
「扶養控除等申告書」が会社に提出されていないにも拘らず、 会社が誤って「甲欄による源泉徴収」をしてしまった場合には、 |
・『 本来行うべき「乙欄による源泉徴収税額」』と『誤って行った「甲欄による源泉徴収税額」』との「差額」は、
税務上「会社の源泉徴収不足額」として認定され、
・この「源泉徴収不足額」に対する税務上のペナルティーは、
源泉徴収義務者である「会社」が負わなければならないこととなりますので、 |
給与所得者から「扶養控除等申告書」の提出がなされない場合には、
・ 安易に「甲欄により源泉徴収」をせず、 ・ 必ず「乙欄による源泉徴収」を行っていただきますようお願い致します。 |
税理士事務所・会計事務所からのPOINT
ここでは、『「甲欄」による源泉所得税の算定方法 』と『「乙欄」による源泉所得税の算定方法 』との違いをご紹介させて頂いております。
『「甲欄」による源泉徴収』と『「乙欄」による源泉徴収』の違いをご理解頂く前提につきまして
「源泉所得税の計算」には、
『「甲欄」による源泉所得税の算定方法 』と『「乙欄」による源泉所得税の算定方法 』がありますが、
「両者の違い」をご理解頂くためには、まず、
・『「甲欄」による源泉所得税の算定方法 』は、「通常の源泉徴収税の算定方法」であり、
・『「乙欄」による源泉所得税の算定方法 』は、
『「複数の会社等」から給与・役員報酬を受ける方 』に対する「特殊な源泉徴収税の算定方法」である
という位置づけをご理解頂いた上で、
・『「乙欄」による源泉所得税の算定方法 』が設けられている目的や
・『「乙欄」による源泉所得税の算定方法 』の特徴などを ご理解頂くことが必要であると考えます。
『「甲欄」による源泉徴収 』と『「乙欄」による源泉徴収 』の違いにつきまして
上記Ⅱでは、『「甲欄」による源泉徴収 』と『「乙欄」による源泉徴収 』の違いをご紹介させて頂いておりますが、
「乙欄」により源泉徴収がなされる場合には、
算定される「源泉所得税」は極めて高くなることを意識して、「両者の違い」をご理解頂ければと思います。
『「扶養控除等申告書」の取り扱い』の重要性
「源泉徴収」を行う場合には、
「甲欄による源泉徴収」と「乙欄による源泉徴収」では、「全く異なる金額の源泉徴収税額」が算定されることとなります。
このため、
・「甲欄により源泉徴収を行うのか?」「乙欄により源泉徴収を行うのか?」の決定は「最重要決定事項」となり、
・結果、その判断材料となる「扶養控除等申告書」の取り扱いが、「大変重要なもの」となりますので、
この点につきましては、上記Ⅲでご紹介させて頂きました「源泉徴収における会社の責任」を十分にご認識頂き、
『「扶養控除等申告書の取り扱い」~「源泉徴収の算定方法の決定」』に至る業務を適切に行なって頂ますようお願い致します。