「採用教育費」という勘定科目のうちの「教育・研修費」につきまして、費用計上する場合に留意すべき税務上の規定を、以下の項目に従い、ご紹介させて頂きます。

 

なお、「採用教育費」「教育・研修費」の定義・内容は、⇒支出に対する勘定科目(購買取引)をご覧下さい。

 

 

Ⅰ:「教育・研修費」に対する税務上の規定

1、「教育・研修費」の持つ性質

「教育・研修費となり得る支出」は、

従業員・役員知識・技術等を習得するために会社が支出した費用」となります。

 

このため、会社の支払が従業員・役員以外の外部者に行われたものであっても、

「会社が行う支出の経済的利益知識・技術の習得)」は、従業員や役員個人に帰属し

結果として、「会社から従業員・役員に対して経済的利益が提供されたもの」となります。

 この点で、「教育・研修費となり得る支出」は、「従業員給与・賞与」や「役員報酬」が支払われていることと本質的に同じものであると考えられます。

 

ただし、会社が業務上の必要性から「従業員・役員に対して技術・知識の習得や向上」等を要請したものである場合には、

会社が支出した金銭は、

  • 従業員・役員への経済的利益の提供」という面よりも、
  • 会社の業務上の必要性から支出されたもの」という面を強く持つことになります。

すなわち、会社の業務上の必要性から、従業員・役員に対して技術・知識の習得や向上等の要請がなされて支出された金額につきましては、

  • 従業員給与・賞与」「役員報酬」とは看做されず
  • 教育・研修費(採用教育費)」として会計帳簿に計上することが認められています。

 

2、「教育・研修費」に対する税務上の考え方

「教育・研修費となり得る支出」は、

  • 「会社から従業員・役員への経済的利益の提供」となることから
  • 原則として、「従業員給与・賞与」「役員報酬」として計上することとしています。

 

ただし、「教育・研修費となり得る支出」が、以下のような場合には、

  • 「この支出」は、「会社から従業員・役員への経済的利益の提供」というよりも、
  • 会社の業務上の必要性からなされたもの会社利益のためになされたもの)」であると認められることから、

教育・研修費(採用教育費)」として計上することができるとしています。

【教育・研修費(採用教育費)として認められる場合】

  1. 会社の仕事に直接必要技術や知識を役員や使用人に習得させるための費用である場合
  2. 会社の仕事に直接必要免許や資格を役員や使用人に取得させるための研修会や講習会などの出席費用である場合
  3. 会社の仕事に直接必要な分野の講義を役員や使用人に大学などで受けさせるための費用である場合

 

 

Ⅱ:「教育・研修費」として計上するための留意事項

1、「会社の業務遂行上、直接必要となる」点についての留意事項

「教育・研修費となり得る支出」を『「採用教育費」の「教育・研修費」』として計上するためには、「会社の業務遂行」に直接必要性なものであることが必要となります。

税務調査等におきまして、「教育・研修費」と「会社業務」との直接的必要性を問われた場合には、下記①~④の点に留意して、会社が「教育・研修費」を支出するに至ったプロセス(業務遂行上の必要性会社での解決策の検討教育・研修費の支出)を会社主導で丁寧にご説明して頂くことが必要となります。

 税務調査における質問では、『「なぜこの支出がなされたのか?」というように漠然と質問されること』や『結果から原因を遡って質問されること』があります。このような場合には、会社の意思決定プロセスを上手に説明できない場合があります。このため、このような質問があった場合でも、あくまで会社主導で、「会社の意思決定プロセス」をご説明していただくことが良いと考えます。

このため、比較的金額の大きな「教育・研修費」を支出する場合には、これらの会社での意思決定プロセス客観的に証明できる書類等を作成しておくことが良いと思います。

 

1)原因と結果の順序の必要性

「教育・研修費(採用教育費)」として計上するためには、

『まず「会社の業務遂行上の必要性」があり、その上で「教育・研修費となり得る支出」がなされた』という「原因結果順序」が当たり前のことですが必要となります。

 

2)業務遂行の必要性の範囲

「教育・研修費となり得る支出」の原因となる「業務上の必要性」につきましては、

現状行われているの業務上の必要性」のみならず、「将来の目標を達成するための業務上の必要性」等、個々の会社の状況により様々な業務上の必要性があると考えます。

このため、「教育・研修費となり得る支出」の原因となる「業務上の必要性」は、個々の会社の状況により、比較的主観的なものであっても許容されると考えます。

 

3)原因と結果との繋がりの必要性

「教育・研修費(採用教育費)」として計上するためには、

上記②で記載した「業務の必要性」と「教育・研修費となり得る支出」との間に、比較的客観的常識的)な関連性があることが求められます。

上記②の「業務上の必要性」につきましては、会社個々の状況により、ある程度主観的なものであっても許容されると考えますが、「業務上の必要性」と「教育・研修費となり得る支出」との間には、常識的・客観的な関連性が必要となると考えます。

 

4)特定の者に限定する場合の留意点

「技術・知識の習得が業務上必要と考えられる者が複数存在する場合」で「特定の者」に対してのみ「教育・研修費となり得る支出」を行う場合には、「特定のものに対する経済的利益の提供」になるのではないかということが問題となる可能性があります。

ただし、会社の予算の都合上、現状業務の時間的余裕等の都合上等から、特定の者のみにしか研修・講習等を受けさせることができない場合もあると思います。

このような場合には、

  • 「特定の者」を選択した合理的理由
  • 知識・技術の事後的な共有施策」等

も明確にしておくことが良いと考えます。

 

2、「業務遂行上、直接必要となる免許や資格」についての留意点

「教育・研修費となり得る支出」が『「免許」や「資格等の取得に係る支出』である場合には、

  • 「業務遂行上の必要性」との直接の必要性は、『「研修」や「講習」の内容』との関連性ではなく
  • 『「免許」や「資格」等の取得』と「業務遂行上の必要性」との直接的な関連性が必要となります。

このため、「教育・研修費となり得る支出」が『「免許」や「資格」等の取得に係る支出』である場合には、「会社の事業拡大のために特定の資格、免許が必要となる」「現状の事業を継続していくために特定の資格、免許保有者が不足している」等の関係性が必要となると考えます。

なお、「免許」「資格」等の取得につきましては、継続的な「研修」「講習」が必要となるために、これらに対して支出する金額も比較的高額になるケースが多いと考えます。
このため、これらの支出を「教育・研修費(採用教育費)」として計上する場合には、この関連性を十分検討して計上して頂くことが必要であると考えます。

 

3、支払形態に関する留意事項

上記のように「教育・研修費となり得る支出」を「教育・研修費(採用教育費)」に計上する場合には、あくまで会社の要請により支出することが必要ですので、この点を明らかにするために、

「教育・研修費となり得る支出」に対する支払会社名義で行うことが良いと考えます。
(つまり、領収書の名義は、「会社名義」で取得して下さい。)

 

 

Ⅲ:役員報酬、従業員給与と認定された場合のリスク

税務調査等において「教育・研修費(採用教育費)」として計上していた費用が、「役員報酬」「従業員給与」と認定された場合には、「法人税申告」「所得税の源泉徴収申告」「消費税申告」等で、「税金の追加納付」が必要となる可能性が出てしまいます。

この点につきまして、以下で、簡単に結論のみをご紹介させて頂きます。

なお、この点につきましての詳細は、⇒コチラをご覧ください。

 

1、法人税申告に関係するリスク

1)「従業員給与」として認定された場合

教育・研修費(採用教育費)」として計上していたものが、税務調査等で「従業員給与」として認定された場合には、法人税の計算にあたり、費用の増減は生じないことから、「法人税」の追加納付にはつながりません

 

2)「役員報酬」として認定された場合

教育・研修費(採用教育費)」として計上していたものが、税務調査等で「役員報酬」として認定された場合には、当該部分は「臨時的役員報酬の支払」となり、税務上、費用として認められないものとなります。

このため、法人税計算にあたり、費用の減少が生じ、結果「法人税」の追加納付が必要となるリスクが生じます。

 

2、所得税の源泉徴収申告に関係するリスク

教育・研修費(採用教育費)」として計上していたものが、税務調査等で「従業員給与」や「役員報酬」として認定された場合には、「従業員給与」や「役員報酬」の増加となります。

この結果、増加した「従業員給与」や「役員報酬」に対する「所得税の源泉徴収税」を追加納付しなければならないリスクが生じます。

 

3、消費税申告に関係するリスク

教育・研修費(採用教育費)」として計上していたものが、税務調査等で「従業員給与」や「役員報酬」として認定された場合、消費税計算において「課税仕入」であったものが「非課税仕入」となる可能性があります。

この結果、消費税申告にあたり、「原則課税方式を選択している場合」には、増加した「従業員給与」や「役員報酬」に対する「消費税」を追加納付しなければならないリスクが生じます。

 

 

Ⅳ:「教育・研修費」に関する税務上の規定

税務上で、「教育・研修費」に関して規定されたものとしては、以下のものがあります。

なお、税務上では、「給与手当・賞与」や「役員報酬」として計上(課税)しなくても良いということの規定となりますので、「法人税法」での規定ではなく、「所得税法」での規定となっています。

 

1、所得税基本通達36-29の2

・「教育・研修費」について、「会社の業務と直接必要となる支出」である場合には、「従業員給与・賞与」「役員報酬」とせず、「教育・研修費(採用教育費)」等として計上できることを定めた一般的な規定です。

 

2、タックスアンサー:源泉所得税

1)No.2588:職務に必要な技術などを習得する費用を支出したとき

・上記2でご紹介させて頂きました「税務上の考え方」が記載された規定です。

 

2)No.2601:職務に必要な技術などを習得する費用を支出したとき

・上記1)と同じ内容のものが「タックスアンサー」という形で記載されています。

 

 

税理士事務所・会計事務所からのPOINT

「教育・研修費」につきましては、税務上「従業員給与・賞与」「役員報酬」と看做される可能性がある項目となります。

このため、これにつきましては、是非、本文の内容をご理解頂き、

  • 「教育・研修費」として計上しようと予定する場合には、事前の確認
  • 「教育・研修費」として計上したものにつきましては、事後的な再確認

をして頂きますようお願い致します。

特に『「免許」や「資格」を取得するための教育・研修費』等につきましては、金額が比較的大きくなる場合があり、また「教育・研修費」として計上するためには、会社の業務上の必要性と免許・資格取得との直接的な関連性が要求されるものとなることから、その計上にあたっては、十分ご検討いただきますようお願い致します。