会社が役員・従業員に対して行う「被服の支給・貸与」に係る費用を「福利厚生費」又は「消耗品費」として計上できる要件を、下記項目において考察します。

 

 

Ⅰ:被服提供に関する税務上の考え方

税務上では、「役員・従業員への被服の提供」につきましては、一般的に「役員・従業員への利益提供」としての側面が強いという立場をとり、
「被服の支給・貸与」につきましては、原則役員報酬」「従業員給与」に該当するという前提に立っています。

ただし、「会社が制服等着用を義務付けている場合」などの特定の場合には、「役員・従業員への利益提供」という側面よりも、「会社の業務を安全に効率的に遂行という会社利益のため」に被服の支給・貸与を行っていると考え、
「役員報酬」「従業員給与」とはぜす、「福利厚生費」又は「消耗品費」として計上することを例外的に認めています

このため税法上で、「会社の福利厚生費又は消耗品費」として計上できる要件は、例外的な扱いとしてかなり厳格かつ限定的なものになっています

 

 

Ⅱ:福利厚生費又は消耗品として計上できる要件

税法上では、「被服の支給・貸与」を「福利厚生費」又は「消耗品費」として計上することは、「会社の業務遂行利益のため」であることが明確な場合に限定して許容しています。

このため、会社が「福利厚生費」又は「消耗品」として計上できる要件につきましては、以下のような事項が必要となります。

  1. 会社から役員・従業員への被服の「現物の支給・貸与」であること。
  2. 専ら勤務する場所において、通常の職務を行う上で着用するもので、私用には着用しない又は着用できないものであること
  3. 事務服等の支給又は貸与が、その職場に属する者全員又は一定の仕事に従事する者全員を対象として行われるものであること

 

 

Ⅲ:具体的事例での検討

会社が「被服の支給・貸与」を行う場合で、よくある具体的事例につきまして、どのような勘定科目での計上となるかを考察致します。

1、従業員に対して制服代金として、金銭を支給する場合

被服の支給が「現物」ではなく、「金銭での支給」となる場合には、下記事由から「役員報酬」「従業員給与」として計上することが必要となると考えます。

・「金銭の提供」を行い、その金銭の範囲内で、職場で着用する「制服」の購入を行わせる等の場合には、「役員・従業員」に対しての「被服購入補助」の性格が強くなり、税務上での限定的要件を満たさないと考えられます。

・税務上での限定要件を満たす場合には、最低、一定の職種単位同じ被服を着用することが前提となります。
この場合には、「会社が同一の被服を購入して、従業員への支給・貸与」が通常考えられる支給形態となります。

敢えて、現物支給・貸与以外の形態で支給・貸与することは、通常の会社の業務遂行利益のための支給・貸与とは異なり、「役員・従業員」に対しての「被服購入補助」の性格が強くなり、税務上での限定的要件を満たさないと考えられます。

 

2、営業担当者へのスーツ(背広)支給等

営業担当者等の一定の職種の従業員に対する「スーツ(背広)の支給」は、下記事由から「役員報酬」「従業員給与」として計上することが必要となると考えます。

・営業職等の一定職種の従業員に対して、同一のスーツを支給する場合であっても、「スーツ」につきましては、通常、業務外での着用私用での着用)ができる可能性があります。

このため、通常、税務上での限定的要件を満たさないと考えられます。

ただし、職場以外での着用は通常考えられないような施策会社のロゴマークをスーツに入れる等)を行った上での支給の場合には、

税務上での限定的要件を満たし、会社の「福利厚生費」又は「消耗品費」として計上することが可能であると考えます。

 

 

Ⅳ:関連事項

1、税務調査等において「役員報酬」「従業員給与」と認定された場合の問題点

税務調査等において「被服の支給・貸与」が「役員報酬」「従業員給与」と認定された場合には、「法人税申告」「所得税の源泉徴収申告」「消費税申告」等で、会社での税金の追加納付が必要となる可能性が出てしまいます。

詳しくは、⇒コチラをご覧ください。

 

2、被服の支給・貸与に対する仕訳方法

①「福利厚生費」又は「消耗品費」として計上する場合の仕訳

【福利厚生費として計上する場合の仕訳】

借方勘定科目 補助科目 金額 貸方勘定科目 補助科目 金額
福利厚生費 制服等 XXXX 現金/預金 ○○銀行 XXXX

制服等の支給・貸与であることがわかるような補助科目を設定して下さい。

 

【消耗品費として計上する場合の仕訳】

借方勘定科目 補助科目 金額 貸方勘定科目 補助科目 金額
消耗品費 制服等 XXXX 現金/預金 ○○銀行 XXXX

制服等の支給・貸与であることがわかるような補助科目を設定して下さい。

制服等の支給・貸与が、「役員報酬」「従業員給与」に該当しない場合には、役員・従業員に支給・貸与する被服を購入した場合には、「消耗品費」として計上しても問題はありません。

 

②「役員報酬」「従業員給与」として計上する場合の仕訳

【役員報酬として計上する場合の仕訳】

借方勘定科目 補助科目 金額 貸方勘定科目 補助科目 金額
役員報酬 制服等 XXXX 現金/預金 ○○銀行 XXXX

制服の支給・貸与(現物給与)であることがわかるような補助科目を設定して下さい。

 

【従業員給与として計上する場合の仕訳】

借方勘定科目 補助科目 金額 貸方勘定科目 補助科目 金額
給与手当 制服等 XXXX 現金/預金 ○○銀行 XXXX

制服等の支給・貸与(現物給与)であることがわかるような補助科目を設定して下さい。

 

 

Ⅴ:税務上での各種規定

税務上で、「被服の支給・貸与」に関して規定されたものとしては、以下のものがあります。

なお、税務上では、「役員報酬」や「給与手当」として計上(課税)しなくても良いということの規定となりますので、「法人税法」での規定ではなく、「所得税法」での規定となっています。

 

1、所得税法施行令21条2号3号

制服の着用が義務となっている場合には、制服の支給・貸与が所得税の非課税項目であることを明記した規定です。

⇒すなわち、この規定に該当する場合には、「役員報酬」「従業員給与」として計上せず、「福利厚生費」又は「消耗品費」等での計上が認められます。

 

2、所得税基本通達9-8

勤務場所のみにおいて着用する事務服作業服等の支給・貸与について、所得税の非課税項目であることを明記した規定です。

⇒すなわち、この規定に該当する場合には、「役員報酬」「従業員給与」として計上せず、「福利厚生費」又は「消耗品費」等での計上が認められます。

 

3、質疑応答事例(源泉所得税目:背広の支給による経済的利益)

背広の支給に関して、所得税の課税項目となることを解説した規定です。

この解説の中で、被服等の支給が「所得税の非課税項目となる要件」を記載しています。

⇒すなわち、この規定で記載されている要件に該当する場合には、「福利厚生費」又は「消耗品費」等として計上することができることとなります。

 

 

税理士事務所・会計事務所からのPOINT

「役員・従業員への被服の提供」につきましては、「福利厚生費」という勘定科目のもつ名称から、直感的に「福利厚生費」や「消耗品費」として計上してしまうことが多いと思います。

他方、税務上では、「福利厚生費」や「消耗品費」として計上できるものは、限定されます。

このため、「役員・従業員への被服の提供」に対する「勘定科目の選択」につきましては、

  • 税務上の要件をクリアした場合には「福利厚生費」や「消耗品費」として計上し、
  • 要件をクリアしない場合には「役員報酬」「従業員給与」として計上すること

が必要となるということを意識して仕訳入力することが大切であると考えます。