ここでは、『「通勤手当」を「非課税支給額とできる要件」』『「通勤手当」に対して設けられている「非課税限度額」』等につきまして、以下の事項に従い、ご紹介させて頂きます。
Ⅰ:「通勤手当」に係る「非課税理由」&「非課税規定」
1、「通勤手当」の「定義」と「(所得税法上の)取扱概要」
◆ 「通勤手当」の定義 ◆
「通勤手当」とは、
従業員や役員が「会社に通勤するためにかかる費用」を会社が補填するために支給されるものをいいます。 |
◆ 「通勤手当」の(所得税法上の)取扱概要 ◆
会社から従業員・役員に対して支給される「基本給、任意手当、法定手当、役員報酬」につきましては、
その殆どが「所得税」等が課せられる「課税支給額」となりますが、 |
「任意手当」のうちの「通勤手当」につきましては、
それが「税務上で規定されている要件」を満たして支給されている場合には、 「税務上で規定されている範囲内の金額(非課税限度額の範囲内の金額)」を「非課税支給額」として取扱うことが認められています。 |
2、「通勤手当」の「非課税理由」と「非課税制限の設定理由 」
◆ 『「通勤手当」の「実費補填目的」』という観点からの「非課税」施策 ◆
「出張手当」は、『 上記1でご紹介させて頂きましたような「任意手当」』であるため、
「通勤手当」は、 従業員・役員が「通勤のため不可避的に負担する費用」を会社が補填したものであるという性格を持ちますが、 |
この「通勤手当」に対して「所得税」等が課せられた場合には、
『 「通勤費用」を補填するという目的 』が、『「所得税」等が課せられた分 』だけ損なわれてしまうこととなります。 |
従いまして、税務上におきましては、上記の『「通勤手当」の支給目的 』が損なわれないようにするため、
それが『「通勤費用」を実費補填するために支給されている 』と認められる場合には、 課税政策上「給与所得者に対する税負担の配慮」を行い、 |
◆ 『「通勤手当」の「経済的利益の提供」』という側面からの「制限規定」の設定 ◆
他方、
「通勤手当」という名目で支給されているような場合であっても、
「その支給額」が「通勤費用の実費相当金額」を上回るような場合には、
当該『「通勤費用の実費相当金額」を超える部分 』につきましては、 「課税対象となる給与」や「課税対象となる役員報酬」と同様の「会社から従業員・役員に提供された経済的利益」であると考えられます。 |
従いまして、税務上におきましては、この点も考慮し、
「通勤手当」という名目で支給されているものを「無条件・無制限」に「非課税支給額」とするのではなく、 「通勤手当」という名目で支給されているもののうち、「通勤費用の実費相当金額」のみを「非課税支給額」とするため、 「通勤手当」に対して『「非課税支給額」として取扱うことができる「要件」や「限度額」』を設け、 『「通勤手当」を非課税とした「趣旨」』が逸脱されないような施策を講じています。 |
3、『「通勤手当」に係る「非課税要件」「非課税限度額」』の規定
上記2でご紹介させて頂きましたように、
税務上におきましては、 「通勤手当」が『 「通勤費用の実費相当額」を補填する目的・範囲内で支給されている 』と認められる場合には、 当該「通勤手当」を「非課税支給額」として取扱うこととしていますが、
「通勤手当」が『 「通勤費用の実費相当額」を補填する目的・範囲を超えて支給されている 』と認められる場合には、 それが「通勤手当」という名目で支給されていても、それを「非課税支給額」として取扱うべきではないと考えるため、
「通勤手当」に対して「非課税とすることができる要件・限度額等」を設けていますが、 |
この「通勤費用の実費相当額」につきましては、
その「通勤にかかる費用(通勤にかかる実費相当額)」が異なることから、 |
税務上では、以下(1)~(3)でご紹介させて頂ますように
「通勤方法」に応じて「非課税とできる要件」や「非課税限度額」をそれぞれ別に規定しています。 |
(1) 交通機関(電車・バス等)、有料道路(高速道路等)を利用する場合
「交通機関(電車・バス等)、有料道路(高速道路等)を利用して通勤する方」に対して「通勤手当」を支給している場合には、
1ヶ月あたり15万円を限度として、 『 通勤のための運賃・通勤時間・距離等の事情に照らして、「最も経済的」かつ「合理的な経路及び方法」で通勤した場合 』の「交通費等の金額」 を「非課税通勤手当」とすることができると規定しています。( 所得税法施行令20の2 1項・3項 ) |
◆ 『「通勤費」の非課税要件・非課税限度額 』の設定理由 ◆
(2) 車両・自転車等の交通用具を使用して通勤する場合
「車両・自転車等の交通用具を使用して通勤する方」に対して「通勤手当」を支給している場合には、
「非課税とすることができる通勤手当の限度額」は「通勤距離」に応じて以下の金額となります。( 所得税法施行令20の2 2項 )
片道の通勤距離 | 非課税とできる限度金額 |
2km未満である場合 | 0円(「通勤手当」を「非課税」とはできません。) |
2km以上10km未満である場合 | 4,200円 |
10km以上15km未満である場合 | 7,100円 |
15km以上25km未満である場合 | 12,900円 |
25km以上35km未満である場合 | 18,700円 |
35km以上45km未満である場合 | 24,400円 |
45km以上55km未満である場合 | 28,000円 |
55km以上である場合 | 31,600円 |
◆ 『「通勤費」の非課税要件・非課税限度額 』の設定理由 ◆
(3) 「 (1)の通勤方法 」を利用するとともに「(2)の通勤方法 」も利用する場合
「交通機関等を利用する他交通用具も利用して通勤する方」に対して支給する「通勤手当」につきましては、
1ヶ月あたり15万円を限度として、 『 (1)で定める「非課税通勤手当の限度額」』と『 (2)で定める「非課税通勤手当の限度額」』の「合計金額」までの金額 を「非課税通勤手当」とすることができると規定しています。( 所得税法施行令20の2 4項 ) |
Ⅱ:「通勤手当」を「非課税支給額」とする場合の実務上の留意点
1、「通勤手当」を「非課税支給額」とするための確認の必要性
(1) 「交通機関(電車・バス等)、有料道路(高速道路等)を利用する者」に対する確認
「交通機関(電車・バス等)、有料道路(高速道路等)を利用して通勤する方」に対して「通勤手当」を支給している場合に、
『「通勤手当」を「非課税支給額」として取扱うことができる金額 』につきましては、
月15万円以内という「非課税限度額」が設けられていることから、 |
例えば
「通勤手当」として毎月15万円を超える金額を支給している場合には、
- 15万円以内の部分は「非課税通勤手当」となりますが、
- 15万円を超える部分は「課税通勤手当」として取り扱うことが必要となります。
また、『「通勤手当」を「非課税支給額」として取扱うことができる範囲(要件) 』につきましては、
『 運賃・通勤時間・距離等の事情に照らして、「最も経済的」かつ「合理的な経路及び方法」で通勤した場合に計算される「通勤手当の金額部分(通勤費の実費部分)」』に限られるため、 |
例えば
・『 通勤時間・通勤距離・運賃等を総合的に勘案して「合理的な経路・方法」で通勤する場合にかかる「最も経済的な通勤費用」』が8,500円であるにも拘らず、
・「通勤手当」として10,000円を支給している場合には、
- 8,500円は「非課税通勤手当」となりますが、
- 1,500円は「課税通勤手当」として取り扱うことが必要となります。
従いまして、「交通機関や高速道路を利用して通勤されている方」に「通勤手当」を支給している場合には、
『「従業員・役員の自宅」から「会社」までの「経済的・合理的な通勤費用」』を確認するとともに、 「その金額」が15万円を超えないことを確認し、 「その範囲の通勤費用」のみを「非課税通勤手当」とすることが必要となります。 |
(2) 「車両・自転車等の交通用具を使用して通勤する者」に対する確認
「車両・自転車等の交通用具を使用して通勤する方」に対して「通勤手当」を支給している場合に、
『「通勤手当」を「非課税支給額」として取扱うことができる金額 』につきましては、
その通勤距離に応じて「上記1(2)でご紹介させて頂きました限度額」が設けられていることから、 |
例えば
・「通勤距離」が1kmであるにも拘らず、
・「通勤手当」として5,000円を支給している場合には、
- 「非課税通勤手当」は0円となり、
- 上記の「通勤手当」として支給している5,000円は、全額「課税通勤手当」として取り扱うことが必要となり、
例えば
・「通勤距離」が8kmであるにも拘らず、
・「通勤手当」として5,000円を支給している場合には、
- 「非課税通勤手当」は4,200円となり、
- 800円は「課税通勤手当」として取り扱うことが必要となります。
従いまして、「交通用具を使用して通勤されている方」に「通勤手当」を支給している場合には、
『「従業員・役員の自宅」から「会社」までの「通勤距離」』を確認し、 「その通勤距離に応じた非課税限度額」のみを「非課税通勤手当」とすることが必要となります。 |
2、「非課税限度額」を超えて「通勤手当」を支給する場合の取り扱い
上記1でご紹介させて頂きましたように、
「通勤手当」につきましては、
「課税対象となる通勤手当」と「課税対象とならない通勤手当」が会社から支給される場合がありますが、 |
毎月の給与計算におきましては、「源泉所得税」を計算することが必要となり、
この「源泉所得税」を計算するためには、 「給与支給明細書」において「課税対象となる給与支給額」と「課税対象とならない給与支給額」を区別して把握しておくことが必要となります。 |
このため「通勤手当」につき、「課税通勤手当となる金額」と「非課税通勤手当となる金額」がある場合には、
「給与支給明細書」上、「課税通勤手当」と「非課税通勤手当」を別々に区分記載しておくことが必要となります。 |
例 示
- 「通勤手当」として毎月10,000円支給しているが、
- この方の『「合理的な経路及び方法で通勤した場合」の「最も経済的な交通費等の金額」』は6,500円
である場合の「支給明細書」への記入方法は以下のようなものとなります。
3、「税務調査」等での留意点
「税務調査」等におきまして、
仮に「(非課税)通勤手当」として取り扱ったものが『「課税支給額」に該当する 』と認定されてしまった場合には、
・「当該認定」により(通常は)『 会社の「源泉徴収漏れ」』という判断が下されますので、 ・この場合には、会社は『「通勤手当の課税認定金額」に係る「源泉徴収漏れ」』のペナルティーを負うこととなります。 |
また、『 役員に支給している「(非課税)通勤手当」』につき、「課税認定」がなされた場合で、
かつ当該「課税認定された通勤手当」が「定期同額役員報酬」にも該当しないと判断された場合には、
当該「通勤手当の課税認定金額」は、「会社の経費」としても認められなくなりますので、 |
この点につきましては、十分ご注意頂ますようお願い致します。
Ⅲ:『「通勤手当」の「非課税取扱い」』に対する個別論点
『「通勤手当」の非課税取扱い』につきましては、上記Ⅰ・Ⅱでご紹介させて頂きましたようなものとなりますが、
ここでは、さらに、『「通勤手当」の非課税取扱い 』に対する個別の論点として
「定期券」等の現物支給が行われる場合の「非課税限度額」の取扱い
「新幹線」や「特急電車」等を利用して通勤する場合の「通勤手当」の非課税取扱い
「タクシー」を利用して通勤する場合の「通勤手当」の非課税取扱い
につきましての具体的な考察をご紹介させて頂きます。
1、「定期券」等の現物支給に係る個別論点
「交通機関を利用して通勤している方」に対して、
金銭による「通勤手当」ではなく、現物である「通勤定期券」や「通勤回数券」を支給している場合には、 |
「通勤手当」の「非課税限度額」はいくらになるのか?という疑問を持たれる方もいらっしゃいますが、
この点、
税務上規定されている「通勤手当の非課税限度額」である15万円は、 「1ヶ月あたりの非課税限度額」となることから、 |
・3ヶ月定期券等が支給されている場合には、「定期券等の非課税限度額」は45万円となり、 ・6ヶ月定期券等が支給されている場合には、「定期券等の限度額」は90万円となります。 |
2、「新幹線」や「特急電車」等を利用して通勤する場合の個別論点
上記Ⅱ-1(1)でご紹介させて頂きましたように
「通勤手当」が「(所得税法上)非課税」として取り扱われるためには、 『 通勤のための運賃・通勤時間・距離等の事情に照らして、「最も経済的」かつ「合理的な経路及び方法」で通勤した場合 の「交通費等の金額」』の範囲内で「通勤手当」が支給されていることが必要となりますが、 |
従業員・役員が「新幹線」や「特急電車」を利用して通勤しているような場合には、
『「新幹線」や「特急電車」等の「特急料金」』を「非課税通勤手当」として取扱うことができるのか? |
また、従業員・役員が『「新幹線」や「特急電車」などのグリーン車 』を利用して通勤しているような場合には、
『「新幹線」や「特急電車」等の「グリーン車の利用料金」』を「非課税通勤費」として取扱うことができるのか? |
ということが問題となりますが、
この点につきましては、「タックスアンサー:「源泉所得税」No.2582」に明文規定があり、
「新幹線」「特急電車」等を利用して通勤する場合の「特急料金」は「非課税通勤手当」として取扱うことができますが、 |
新幹線等の特別座席である「グリーン車の利用料金」は、「非課税通勤手当」として取扱うことはできない。 |
と規定されています。
従いまして、
「自宅」から「職場」までの通勤距離が長く、その通勤時間等を考慮した結果、 『「新幹線」や「特急電車」に乗車するために必要となる「特急料金」』は、 「これらの料金」が「通勤手当」に含めて支給されているような場合には、 |
他方、上記「新幹線で通勤されている方」や「特急電車で通勤されている方」が「グリーン車を利用すること」は、
・ 主に「快適に通勤を行うか否か」等の判断であり、 ・ 「グリーン車の利用」により、時間が短縮される等の合理性はないため、 |
当該「グリーン車の利用料金」につきましては、 『「合理的な通勤方法」による「最も経済的な通勤費用」を超えるもの 』であると考えられ、 「これらの料金」が「通勤手当」に含めて支給されているような場合には、 |
◆ 参考: 「旅費交通費」としての「グリーン車の利用料金」の取扱い ◆
3、「タクシー」を利用して通勤する場合の個別論点
従業員・役員が「タクシー」を利用して通勤しているような場合には、
「タクシーの乗車料金」を「非課税通勤手当」として取扱うことができるのか? |
ということが問題となりますが、 これにつきましては、税務上これを明示した規定はありません。
従いまして、この点につきましては、
「タクシーの乗車料金」が 『 通勤のための運賃・通勤時間・距離等の事情に照らして、「最も経済的」かつ「合理的な経路及び方法」で通勤した場合の「交通費等の金額」』となるか否かを、 |
個別的に判断することが必要となりますが、
この点、
タクシーの他交通機関がない、 通勤時間等を考慮すると「タクシー通勤」が「最も経済的で合理的な通勤方法となる」と判断されるなど、 「個別の特殊な事情」が存在する場合には、「タクシーの乗車料金の全額」を「非課税通勤手当」として取扱うことができる場合もあるとは考えますが、 |
「通勤経路」におきまして「電車・バス等の他の交通機関」が存在するような場合には、
「タクシーを使って通勤する」よりも「電車・バス等の他の交通機関を使って通勤する」方が、経済的である場合が多いと思いますので、 このような場合には、「タクシーの乗車料金の全額」を「非課税通勤手当」として取扱うことはできなくなると考えます。 |
なお、
・「タクシー」以外に「電車・バス等の他の経済的・合理的な通勤方法」があるにもかかわらず、 ・「タクシー通勤した金額」や「タクシー通勤することを想定した金額」を「通勤手当」として支給しているような場合には、 『「電車・バス等の他の経済的・合理的な通勤方法」による「通勤費用」』を「非課税通勤手当」とし、 「これを超える金額」につきましては、「課税通勤手当」として取扱うことが必要となります。 |
◆ 参考: 「旅費交通費」としての「タクシーの乗車料金」の取扱い ◆
税理士事務所・会計事務所からのPOINT
ここでは、『「通勤手当」を「非課税支給額とできる要件」』『「通勤手当」に対して設けられている「非課税限度額」』等につきましてご紹介させて頂いておりますが、
「通勤手当」につきましては、
名目上「通勤手当」として支給するのみでは、当然・無制限に「非課税支給額」として取扱うことはできず、
「通勤手当」を「非課税支給額」として取扱うためには、
『 税務上規定されている「要件」「限度額」を満たすことが必要となる 』ということを再確認して頂ますようお願い致します。
また、「特急電車等を利用して通勤する方」や「タクシーを利用して通勤する方」に「通勤手当」を支給する場合には、
『 どのような範囲のものを「非課税支給額」として取扱うことができるのか? 』が問題となりますが、
この点につきましては、
・「通勤手当」の『「非課税支給額」の規定趣旨 』をご理解頂きますとそれほど難しいものではないと思いますので、
・「上記Ⅲでご紹介させて頂きました内容等」をご参考にそれぞれご検討頂ければと考えます。