ここでは『 労働保険料の算定基礎となる「賃金の範囲」』を、以下の項目に従い、ご紹介させて頂きます。
▶ なお、当該ページは『「雇用保険料の控除計算」に必要な「基礎知識」』というページを補完するものとなります。
Ⅰ:『 労働保険料の算定基礎となる「賃金」の範囲 』の理解の必要性
会社等(事業主)におきましては、各種の労働保険料を「労働保険の保険者」に支払うことが必要となりますが、
この「会社等(事業主)が保険者に支払う各種の労働保険料」は、
『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』 × 「各労働保険料率」 |
という計算式によって算定されます。
また、会社等は「毎月の給与計算」を行う場合に、「従業員が負担する雇用保険料」を控除することが必要となりますが、
この「給与計算において控除する雇用保険料」は、
『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』 × 「従業員負担分の雇用保険料率」 |
という計算式によって算定されます。
上記のように、『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』は、
会社等(事業主)から労働保険の保険者に「納付する労働保険料」を計算する場合 会社等(事業主)が給与計算において「控除する雇用保険料」を計算する場合 のいずれにおきましても、「その計算の基礎となる金額」として使用されるため、
「保険者に納付する労働保険料」や「給与計算において控除する雇用保険料」を適切に算定するためには、 |
従いまして、当該ページにおきましては、
この『 労働保険料の算定基礎となる「賃金」』にはどのようなものが含まれるのか?
すなわち『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」の範囲 』につき、詳しくご紹介させて頂きます。
Ⅱ:「徴収法 第2条」における規定
『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』につきましては、
まず「徴収法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律) 第2条」にその規定があり、
・ 賃金、手当、賞与、その他名称のいかんを問わず、 ・ 会社等(事業主)が労働者に対して、労働の対償として支払うすべてのもの が『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』となる と規定されています。 |
このため、
①「会社等(事業主)から支給されるもの」であり、 ②「労働の対償として支払われるもの」は、 ③「通貨で支給されるもの」「現物で支給されるもの」を問わず、 『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』に含まれることとなります。 |
◆ ①「会社等(事業主)から支給されるもの」につきまして ◆
『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』は、
「会社等(事業主)から支給されるもの」であることが必要となります。 |
このため、
従業員が受け取ったものであっても、それが会社等(事業主)から支給されたものでない場合には、 『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』には含まれません。 |
例 示
チップ等を、お客様等から会社等(事業主)が受け取り、会社等(事業主)経由で従業員が受け取った場合には、
当該「チップ等」は『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』に含まれることとなりますが、
従業員がお客様等から直接チップ等を受取った場合には、
当該「チップ等」は『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』には含まれません。
◆ ②「労働の対償」として支給されたもの ◆
『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』は、
「労働の対償」として支給されるものであることが必要となります。 |
このため、
最終的には「会社等費用」となるものを、
「労働の対償」としてではく、会社等から「恩恵的に支給されたもの」などは、
『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』には含まれません。 |
◆ ③「現物給与」につきまして ◆
会社等(事業主)から従業員に対して、『「食事、被服、住居の利益」などの「現物給与」』が支給されているような場合には、
・「これら現物給与」は労働保険制度上「労働の対償として支給されたもの」であると看做されるため、 ・ 当該「現物給与」も、原則、『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』に含めることが必要となります。 |
▶ なお、この点につきましては、別途『 労働保険における「現物給与」の取り扱い 』というページで詳しくご紹介させて頂いておりますので、必要がある場合には、当該ページを一読して頂きますようお願い致します。
Ⅲ:『 労働保険料の算定基礎となる「賃金」』に含まれるものの具体例
『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」の範囲 』につきましては、
上記Ⅱでご紹介させて頂きました「徴収法 第2条」の規定の他、 「雇用保険に関する業務取扱要領」におきまして、 『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」に含まれる具体的な項目 』が例示されています。 |
従いまして、ここでは、まず「労働保険年度更新 申告書の書き方」等で例示されている
『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」に含まれる項目 』をご紹介させて頂きます。
『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』に含まれるもの | |
基本賃金 | ・「時給・日給・月給」「臨時・日雇労働者・パート・アルバイト等に支払う賃金」 ・「有給休暇日の給与」 |
法定手当 | ・「超過勤務手当(早朝手当、残業手当など)」 ・「深夜手当」 ・「法定休日労働手当」など |
通勤手当 (任意手当) |
・所得税計算における課税・非課税を問わず『「金銭」で支給される通勤手当 』 ・所得税計算における課税・非課税を問わず「定期券」「回数券」等の『「現物」で支給されるもの 』 |
任意手当 | ・「扶養手当」「子供手当」「家族手当」「住宅手当」 ・「技能手当」「特殊作業手当」「教育手当」 ・「単身赴任手当」「物価手当」「生活補給金」 ・「地域手当」「勤務地手当」「寒冷地手当等」 ・「奨励手当(精勤手当・皆勤手当など)」 ・「宿直・日直手当」(課税・非課税を問いません。) ・「調整手当(配置転換調整手当・初任給調整手当)」 ・「転勤休暇手当」「受験手当」(実費弁済的なものは除く) |
現物給与 |
「食事・被服・住居の利益」である「現物給与」につきましては、その支給状況等によって、 ・『 労働保険料の算定基礎となる「賃金」に含まれる 』場合と ・『 労働保険料の算定基礎となる「賃金」に含まれない 』場合とがあります。 上記事項は、別途『 労働保険における「現物給与」の取り扱い 』でご紹介させて頂いております。 |
賞与 | 「賞与支給額」につきましても、『 労働保険料の算定基礎となる「賃金」』に含まれます。 ・このため、賞与を支給した場合には、これに係る労働保険料を保険者に支払うことが必要となり、 ・また、賞与支給計算時にも「従業員が負担する雇用保険料」を控除することが必要となります。 |
事業主が負担した 従業員負担分の ・公的保険料 ・源泉所得税 |
・「従業員負担分の雇用保険料」「従業員負担分の社会保険料」を事業主が負担した場合、 ・「従業員個人に課せられる(源泉)所得税」を事業主が負担した場合には、 「これらの保険料額」は「賃金」に含まれます。 |
昇給差額 | 遡って支払われる「昇給差額」 |
前払い退職金 | 在職中に、「退職金相当額の全部又は一部」を給与に上乗せして支給されるもの (なお、退職時又は退職後に支払われるものは、対象外となります。) |
休業手当 | 労働基準法26条に基づいて支払われる「休業手当」 (使用者の都合で労働者を休業させた場合に支払われる手当) |
在職中の 未払給与 |
在職中において事業主の支払義務が確定しているが、その支払が未払であったものが、 ※ 在職中に「個人に対する支払が確定」しており、かつ「その計算方法等が決定している」場合には、 |
事業主経由の チップ等 |
お客様から受けた「チップ」等を、事業主を経由して支払われた(再分配された)場合には、 『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』となります。 |
その他 | ・労働協約等の定めにより、「傷病手当支給終了後に事業主から支給される給与」 (ただし、恩恵的に支給される場合は除きます。) ・労働協約等の定めにより、「傷病手当支給前の待期期間(3日間)に支給される給与」 (ただし、恩恵的に支給される場合は除きます。) ・「不況対策により賃金から控除された分」が、労使協定等に基づいて、 「景気回復後等に遡って支払われた場合等の給与支給額」 |
Point ! 労働保険制度上での『「非課税支給額」の取扱い 』 税務上では「通勤手当」「宿直・日直手当」などの「非課税支給額」は、 他方、労働保険制度の下では、「通勤手当」「宿直・日直手当」につきましては、 |
Ⅳ:『 労働保険料の算定基礎となる「賃金」』に含まれないものの具体例
上記Ⅲにおきましては、『 労働保険料の算定基礎となる「賃金」に含まれるものの具体例 』をご紹介させて頂きましたが、
「雇用保険に関する業務取扱要領」におきましては、 『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」に含まれない具体的な項目 』も例示されています。 |
従いまして、ここでは、「労働保険年度更新 申告書の書き方」等で例示されている
『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」に含まれない項目 』をご紹介させて頂きます。
『 労働保険料の算定基礎となる「賃金(給与支給額)」』に含まれないもの | ||
実
費 弁 済 的 な も の |
・出張手当 ・出張旅費 ・宿泊費 ・赴任手当 ・移転料 |
最終的には会社等の費用となるものを、従業員が立替支払いしたことにより、 ※あくまで実費弁済的に支払われていることが前提となります。 |
・寝具手当 ・工具手当 ・車の損料 |
・従業員が(業務に使用する)用具等を自己の負担で用意した場合に支払われる「手当」 ※あくまで実費弁済的に支払われていることが前提となります。 |
|
恩 恵 的 に 支 払 わ れ る も の |
・災害見舞金 ・療養見舞金 ・傷病見舞金 ・結婚祝金 ・死亡弔慰金 ・出産見舞金 |
個人的・臨時的な吉凶禍福に対して支給されるものは、 恩恵的に支払われるものとして「賃金」には含まれません。 |
・年功慰労金 ・勤続報奨金 |
勤続年数に応じて支給される「慰労金」や「報奨金」などは、 恩恵的に支払われるものとして「賃金」には含まれません。 |
|
・海外手当 ・在外手当 |
その従業員が国内勤務に服する場合に支払われる金額を超えて 「海外手当」「在外手当」が支給されているような場合には、 「その超えている部分」は、恩恵的に支払われるものとして「賃金」には含まれません。 |
|
離職後に決定された 給与・賞与 |
従業員が離職した後に決定された「給与や賞与」は、 恩恵的に支払われるものとして「賃金」には含まれません。 ※ 在職中に支払義務が確定していない場合には、「賃金」には含まれません。 |
|
そ の 他 |
休業補償費 |
労働基準法76条に基づいて支払われる「休業補償費」 (業務上の傷病による療養のため従業員が労働できない場合に支払われるもの) ⇒ 無過失損害賠償責任に基づいて事業主が支払うものであり、 |
解雇予告手当 | 解雇予告を行わずに解雇を行う場合に支払われる「解雇予告手当」は、 「労働の対償」とは認められないため、「賃金」には含まれません。 |
|
・出産手当 ・傷病手当 |
・健康保険法第 99 条、102条の規定に基づく「傷病手当金」「出産手当」は、 健康保険の給付金であって、「賃金」には含まれません。 ・また、「これらの手当金」に付加して「事業主から支給される給付額」は、 恩恵的給付と認められるので「賃金」には含まれません。 |
|
退職金 | 労働者の退職後に一時金又は年金として支払われるものは、「賃金」に含まれません。 | |
・団体定期保険料 ・生命保険掛金 |
・「脱退給付金付き団体定期保険の保険料」 ・「会社等が全額負担する生命保険の掛金」は、 福利厚生と認められるため、「賃金」には含まれません。 |
|
・財形貯蓄奨励金 ・持家奨励金 |
・「財産形成貯蓄のため事業主が負担する奨励金」 財形貯蓄奨励金 |
|
チップ等 | お客様から従業員が直接受ける「チップ」は、 「事業主」から支払われるものでないため、「賃金」には含まれません。 |
|
(特定状況下の) 「現物給与」 (食事・被服・住居 の利益) |
「食事・被服・住居の利益」である「現物給与」につきましては、その支給状況等によって、 ・『 労働保険料の算定基礎となる「賃金」に含まれる 』場合と ・『 労働保険料の算定基礎となる「賃金」に含まれない 』場合とがあります。 上記事項は、別途『 労働保険における「現物給与」の取り扱い 』でご紹介させて頂いております。 |
◆ 「実費弁済的な支給額」についての留意点 ◆
税理士事務所・会計事務所からのPOINT
ここでは、『 労働保険料の算定基礎となる「賃金の範囲」』についてご紹介させて頂いておりますが、
「給与支給額」が『 労働保険料の算定基礎となる「賃金の範囲」に含まれるか否か 』についての理解は、
上記Ⅰでもご紹介させて頂きましたが、
- 会社等から保険者に「支払う労働保険料」を計算する場合
- 会社等の給与計算において「控除する雇用保険料」を計算する場合
に必要な知識となります。
このため、『 労働保険における「賃金」の範囲 』を確認する必要がある場合には、当該ページに記載れている内容をその都度ご確認頂ますようお願い致します。
なお、給与計算の場面等におきましては、
・『 労働保険における「賃金」の範囲 』とともに、
・ 別途『 所得税の課税対象となる「給与等」の範囲 』や
・『 社会保険における「報酬」の範囲 』に対する理解も必要となりますが、
これら『 所得税法における「給与等の範囲」』『 社会保険制度における「報酬の範囲」』は、
それぞれの制度で別個に規定されるものとなり、『 労働保険における「賃金」の範囲 』とは別物となります。
従いまして、ここで記載させて頂きました内容は、あくまで『 労働保険における「賃金」の範囲 』をご紹介したものであるという点、十分ご留意頂ますようお願い致します。