会社が社員旅行に掛かった費用の一部を負担している場合、その「会社負担額」を「福利厚生費」として計上できる要件を、下記項目において考察します。

 

下記Ⅰの前提となる「福利厚生費に対する税務上の基本的考え方」は、⇒コチラで記載させて頂いております。
(もしよろしければ、この記事の前に、上記リンクページを一読頂ければと考えます。)

 

Ⅰ:社員旅行費用に関する税務上の考え方

会社が従業員・役員の福利厚生目的で負担した社員旅行費用は、

  • 「従業員・役員への福利・厚生のために支出される費用」であるという面とともに、
  • 実質的には、「従業員給与・賞与」や「役員報酬」と同じく、会社から従業員・役員に対しての「経済的利益が提供された費用」であるという面を持ちます。

このため、税務上では、

従業員・役員の社員旅行に対する会社の費用負担が、

  • 広く社会一般で行われている福利・厚生の目的の範囲内で行われている場合には、「福利厚生費」として計上することを認めていますが、
  • 広く社会一般で行われている福利・厚生の目的の範囲を超えて行われているような場合には、「従業員給与・賞与」や「役員報酬」として計上することが必要であるとしています。

 

社員旅行につきましては、税務上でも、従業員・役員の慰安・レクリエーションのために、広く社会一般的に行われている福利・厚生施策」であることは認めています。

ただし、社員旅行費は、一般的に高額になるものであるため、
「広く社会一般で行われている福利・厚生目的となり得る社員旅行」についての「要件」を税務上比較的具体的に明示しています。

ここでは、税務上、「福利厚生費」として計上し得る「社会一般的に行われている社員旅行の範囲」について、以下の要件ごとにご紹介させて頂きます。

  • 旅行の目的
  • 従業員・役員の参加割合
  • 規模行程
  • 会社及び参加する従業員・役員等の負担額及び負担割合

 

 

Ⅱ:福利厚生費として計上できる要件

「社員旅行に掛かる費用の会社負担額」を「福利厚生費」として計上するためには、下記の要件1~4をすべて満たすことが必要となります。

 

要件1:旅行の目的

「社員旅行に掛かる費用の会社負担額」を「福利厚生費」として計上するためには、

社員旅行がすべての従業員・役員を対象としたものであり、従業員・役員の慰安レクリエーションを目的とするものであることが必要となります。

「社員旅行が福利厚生である」と認められるには、先ず、旅行が、従業員・役員の慰安・レクリエーション等を目的とした「福利・厚生施策」の一環で行われるものであり、すべての従業員・役員に参加の機会平等に与えられていることが必要となります。

このため、以下のような旅行目的の場合には、「会社の旅行費用の負担額」を「福利厚生費」として計上することはできない又は困難であると考えます。

 

①取引先等に対する接待、供応、慰安等のための旅行

「福利厚生費」に計上できる「旅行費用の会社負担額」はあくまで、社内の従業員・役員を対象とした慰安・レクリエーションを目的としたものに限られます。

社外の取引先等の方を含めた旅行費用の会社負担額は、

  • 従業員の慰安・レクリエーション目的ではなく、
  • 取引先等に対する接待、供応、慰安等を目的とした旅行と認定されることになります。
このため、このような場合の旅行費用を会社が負担している場合には、
従業員・役員分に掛かった費用も含めて交際費」という勘定科目で計上することが必要となります。

 

②特定の従業員・役員を対象とした旅行

「会社の旅行負担額」を「福利厚生費」として計上できるものは、旅行が「従業員・役員」を対象とした旅行であることが必要となります。

このため、

  • 特定の従業員のみを対象とした旅行、特定の役員のみを対象とした旅行
  • 成績優秀者を対象とした旅行
  • 実質的に私的な旅行 etc.と認められるような旅行は、

従業員・役員に対して平等におこなわれるべき「福利厚生施策」ではなく、「特定の従業員・役員への経済的利益の提供」と認められます。

このため、このような旅行に対する「会社の旅行費用負担額」は、「従業員給与・賞与」「役員報酬」として計上することが必要となります。

 

③金銭との選択が可能な旅行

社員旅行に参加する場合には「旅費の一部を負担」し、社員旅行に参加しない場合には、旅費負担の代わりに「金銭を支給」するような場合には、
従業員・役員に対して、「旅行に参加しないことを選択すること金銭を受けることができる選択権」を間接的に与えていることになります。

このため、このような社員旅行につきましては、

  • 従業員・役員への慰安・レクリエーションを目的とした福利・厚生施策というよりも、
  • 従業員・役員への経済的利益の提供」という面が大きくなります。
従いまして、このような条件を付けた社員旅行につきましては、
会社が負担した社員旅行費用」及び「不参加者に支給した金銭」も含め、「従業員給与・賞与」「役員報酬」として計上することが必要となります。

 

④従業員・役員の家族等も参加の社員旅行

税務上、これについて明確に記載した規定はありませんが、

従業員・役員の家族(従業員・役員でない方)が参加する社員旅行につきましては、
従業員・役員への経済的利益の提供」の側面が強くなり過ぎ
社会通念上一般的な社員旅行」とは認められないと判断される可能性が大きいと考えられます。

このため、このような「旅行費用の会社負担額」は、「従業員給与・賞与」「役員報酬」として計上しなければならない可能性が大きいと考えます。

 

⑤ゴルフを目的とした社員旅行

税務上、これについて明確に記載した規定はありませんが、

当初から旅行目的をゴルフに限定した場合には、
ゴルフを行わない方参加しない可能性が極めて高くなり、 すべての従業員・役員を平等に取り扱うべき「福利・厚生目的」から外れ、
ゴルフを行う特定の従業員・役員への経済的利益の提供」の側面が強くなり過ぎ
社会通念上一般的な社員旅行」とは認められないと判断される可能性が大きいと考えられます。

このため、このような「旅行費用の会社負担額」は、「従業員給与・賞与」「役員報酬」として計上しなければならない可能性が大きいと考えます。

 

要件2:役員・従業員の参加割合

「社員旅行に掛かる費用の会社負担額」を「福利厚生費」として計上するためには、

事後的に「旅行に参加した人数」が「全体の人数」の50%以上であることが必要となります。

 

※ なお、工場支店ごとに行う旅行の場合には、それぞれの職場ごとの人数50%以上が参加することが必要となります。

社員旅行は、その前提として「全従業員・役員」を対象としたものであることが必要となります。

ただし、「日程の都合」や「従業員・役員の自己負担が必要となる」等の従業員・役員の自己都合より社員旅行に参加できない方が出ることが考えられます。

ただし、あまりにも参加した人数が少なすぎる社員旅行は、福利・厚生目的から外れてしまうことになります。

このため、税務上でも上記の点を考慮し、社員旅行の事後的成立要件として、社員旅行に参加した人数が、全体の50%以上あることを要求しています。

 

要件3:規模・行程

「社員旅行に掛かる費用の会社負担額」を「福利厚生費」として計上するためには、

旅行の期間4泊5日以内であることが必要となります。

 

 なお、海外旅行の場合には、機内泊は含まず外国での滞在日数4泊5日以内であることが必要となります。

税務上、旅行の規模・行程から考えて、「社会通念上一般的な社員旅行」とは、旅行期間が4泊5日以内のものであると判断されています。

従いまして、社員旅行が5泊6日以上となるようなものは、「社会通念上一般的に行われている社員旅行」の範囲を超え、「社員旅行費用の会社負担額」は、「従業員給与・賞与」「役員報酬」として計上しなければならないこととなります。

 

要件4:会社及び参加する従業員・役員等の負担額及び負担割合

社員旅行に掛かった費用のうち、

  • 会社が負担する金額」及び「旅費全体に対する会社負担割合
  • 参加する従業員・役員が負担する金額」及び「旅費全体に対する参加者の負担割合

がいくらまでなら、「社会通念上一般的な社員旅行」となるかについて、明確な要件を記載した規定はありません

ただし、この点につきまして、税務上、「事例」を用いて説明されたものがあり、この「事例」は、「社会通念上一般的な社員旅行」と認められるための一般的な指針となるものであると考えられています。

このため、以下では、税務上示されている「事例」につき解説を行うとともに、「社会通念上一般的な社員旅行」と認められるための要件について考察します。

 

1、税務上示されている事例

【事例1】

旅行期間 1人あたり
旅費
会社
負担額
会社
負担割合
従業
員負担額
従業員
負担割合
参加割合
3泊4日 15万円 8万円 47% 7万円 53% 100%

この場合には、「旅行期間」「参加割合」「会社負担額・負担割合」の面からみて「社会通念上一般的な社員旅行」と認められると判断されています

上記の場合には、「社員旅行の会社負担額」を「福利厚生費」として計上することができます。

 

【事例2】

旅行期間 1人あたり
旅費
会社
負担額
会社
負担割合
従業
員負担額
従業員
負担割合
参加割合
4泊5日 25万円 10万円 40% 15万円 60% 100%

この場合には、「旅行期間」「参加割合」「会社負担額・負担割合」の面からみて「社会通念上一般的な社員旅行」と認められると判断されています

上記の場合には、「社員旅行の会社負担額」を「福利厚生費」として計上することができます。

 

【事例3】

旅行期間 1人あたり
旅費
会社
負担額
会社
負担割合
従業
員負担額
従業員
負担割合
参加割合
5泊6日 30万円 15万円 50% 15万円 50% 50%

この場合には、「旅行期間」が要件を満たさないとして、「社会通念上一般的な社員旅行」とは認められないと判断されています

ただし、この事例に対する「会社の負担金額や負担割合」「従業員・役員の負担金額や負担割合」につきましての言及はありません

このため、会社の負担金額である15万円や会社の負担割合50%が「社会通念上一般的な社員旅行」と認められる範囲内にあるのかは不明です

 

2、私どもの見解

社会通念上一般的な社員旅行と認められる範囲につきまして、

①金額面では、事例2から、会社負担額10万円以下であれば問題はないと考えております。

②負担割合につきましては、事例1から、会社負担割合50%未満であれば問題ないと考えております。

事例に対する考え方は、人それぞれであると思います。

社員旅行は、あくまで社員の方の慰安・レクリエーションを目的としているものであるために、「社内でのリクエスト」や「社員の方の旅費負担額」の関係から、上記の基準から多少オーバーしてしまうこともあると思います。

ただ、大切なことは、「福利厚生費」として計上するためには、「社会通念上一般的な社員旅行」と認められることが必要となることを認識しておくことだと考えております。

このため、多少オーバーしてしまう場合には、できる限り「一般的な社員旅行」と認められるように、「豪華なホテルに泊まったり」「豪華な食事をとったり」しないように注意したり、

他方、税務調査等において「役員報酬」「従業員給与」と認定されないためには、できる限り上記範囲内に収まるような旅行計画を企画することが必要となるのではないかと考えております。

 

 

Ⅲ:税務上での各種規定

税務上で、「社員旅行」に関して規定されたものとしては、以下のものがあります。

なお、税務上では、「給与手当・賞与」や「役員報酬」として計上(課税)しなくても良いということの規定となりますので、「法人税法」での規定ではなく、「所得税法」での規定となっています。

 

1、所得税基本通達36-30

・社員旅行について、「社会通念上一般的に行われていると認められる社員旅行」である場合には、「福利厚生費」として計上できることを定めた一般的な規定です。

・また、不参加者に対して金銭を支給する場合には、「従業員給与・賞与」「役員報酬」として計上しなければならないことも規定してあります。

 

2、所得税基本通達36-30の運用について

・「社会通念上一般的に行われていると認められる社員旅行」については、総合的に勘案して実態に即した処理が必要であることが規定されています。

・また、上記Ⅱの要件2及び要件3の内容が記載された規定です。

 

3、タックスアンサー No.2603:従業員レクリエーション旅行や研修旅行

・上記Ⅱの要件1要件4の内容が記載された規定です。

 

4、質疑応答事例:成績優秀者を対象として行う海外旅行に係る経済的利益

・上記Ⅱの要件1のうち「成績優秀者を対象とした旅行」について、具体的に記載された規定です。

 

 

税理士事務所・会計事務所からのPOINT

「社員旅行の費用」につきましては、「福利厚生費」という勘定科目のもつ名称から、直感的に「福利厚生費」として計上してしまうことが多いと思います。

他方、税務上では、「福利厚生費」として計上できるものは、限定されます。

このため、「社員旅行費用の会社負担額」に対する「勘定科目の選択」につきましては、

  • 税務上の要件をクリアした場合には「福利厚生費」として計上し、
  • 要件をクリアしない場合には「役員報酬」「従業員給与・賞与」として計上すること

が必要となるということを意識して仕訳入力することが大切であると考えます。

また、「社員旅行費用の会社負担額」を「福利厚生費」として計上するためには、意外に多くの要件をクリアすることが必要となりますので、社員旅行を計画される場合には、税理士事務所と事前に相談する等の留意が必要であると考えます。