会社が従業員・役員が受けた「定期健康診断(人間ドック)」「予防接種」に係る費用を「福利厚生費」として計上できる要件及び従業員・役員が受けた「治療費」等が「福利厚生費」として計上することが困難である理由等を、下記項目に従い考察します。
下記Ⅰの前提となる「福利厚生費に対する税務上の基本的考え方」は、⇒コチラで記載させて頂いております。
(もしよろしければ、この記事の前に、上記リンクページを一読頂ければと考えます。)
Ⅰ:「医療関係費」に関する税務上の考え方
会社が従業員・役員の福利厚生目的で支払った医療関係費用は、
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このため、税務上では、
従業員・役員の医療関係費に対する会社の支出が、
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ここでは、福利厚生費の項目となり得る
- 「定期健康診断」や「人間ドック」に係る費用
- 「予防接種」に係る費用
を『「福利厚生費」として計上するために必要な要件』をご紹介させて頂きます。
また、多くのお客様から質問が多い
- 「従業員・役員の傷病治療費」が「なぜ福利厚生費として計上できないのか」
ということについての「私どもの見解」も併せてご紹介させて頂きます。
Ⅱ:「定期健康診断(人間ドック)」に対する会社負担額
1、「福利厚生費」として計上することができる要件
税務上、「定期健康診断や人間ドックに掛かった費用」を、会社が「福利厚生費」として計上するためには、以下の要件1~3を満たすことが必要となります。
要件1:支出目的及び支払形態
従業員・役員の健康管理上の必要性から行われる「定期健康診断」「人間ドック」に係る費用を会社が支払っていることが必要となります。 |
会社には「従業員・役員に対して健康診断の実施が義務付けられている」ことから、
会社で従業員・役員の健康管理を行うため「定期健康診断」「人間ドック」の受診を要請することは、広く社会一般で行われている「福利・厚生施策」に含まれるものと考えられます。
このため、「定期健康診断」や「人間ドック」が会社主導で行われている場合には、「福利厚生費」として計上できるものと考えられます。
他方、従業員や役員が個々の判断で行った「健康診断」「人間ドック」の費用を、事後的に「福利厚生費」とする場合には、「従業員給与・賞与」「役員報酬」に該当すると判断される可能性が高くなります。
このため、「定期健康診断」や「人間ドック」が会社の福利・厚生施策の一環として行われていることを明確にしておくため、これらの費用は、従業員・役員個人名義での支払ではなく、会社名義での支払を行っておくことが良いと考えます。
(つまり、領収書の名義は、「会社名義」で取得して下さい。)
要件2:対象者
すべての従業員・役員を対象とした「定期健康診断」「人間ドック」に係る費用であることが必要となります。 |
福利厚生目的であるためには、前提条件として、すべての従業員・役員を対象とした「定期健康診断」「人間ドック」であること必要となります。
(ただし、日程の都合上等の関係で、結果的に従業員・役員の一部が受診できないことも想定されますので、事後的にすべての従業員・役員の受診までは求められません。)
このため、
- 「役員のみを対象」とした「定期健康診断」「人間ドック」である場合
- 「一定の役職者のみ」を対象とした「定期健康診断」「人間ドック」である場合等
「健康診断の必要性と合理的関係をもたない限定」を設ける場合には、「福利厚生費」として計上することができず、「従業員給与・賞与」「役員報酬」として計上することが必要となります。
他方、「定期健康診断」「人間ドック」の受診対象者を、「一定年齢以上の者」に限定する等「健康診断の必要性等と関連をもつ合理的制限」は、許容されると考えます。
要件3:会社が負担する費用金額
「定期健康診断」「人間ドック」に係る費用額が、従業員・役員の健康管理上必要であると考えられる程度の金額の範囲内であることが必要となります。 |
「定期健康診断」「人間ドック」は、従業員・役員の健康管理上必要と考えられる常識的な範囲で行われることが必要となります。
この範囲を超えるような「高額な定期健康診断」「高額な人間ドック」は、「福利厚生費」ではなく、「従業員給与・賞与」「役員報酬」と認定される可能性があります。
2、税務上での規定
税務上で、「定期健康診断」「人間ドック」に関して規定されたものとしては、以下のものがあります。
なお、税務上では、「給与手当・賞与」や「役員報酬」として計上(課税)しなくても良いということの規定となりますので、「法人税法」での規定ではなく、「所得税法」での規定となっています。
質疑応答事例:人間ドックの費用負担
上記の要件1~要件3の内容が記載された規定です。
Ⅲ:「予防接種」に対する会社負担額
1、「福利厚生費」として計上することができる要件
税務上、「予防接種に掛かった費用」を、会社が「福利厚生費」として計上するためには、以下の要件1~3を満たすことが必要となります。
要件1:支出目的及び支払形態
会社が業務遂行上の必要性から従業員・役員等に「予防接種」を受けることを要請し、その「予防接種に掛かる費用」を会社が支払っていることが必要となります。 |
上記の「定期健康診断」等とは異なり、予防接種を従業員・役員に受けさせることは、会社の義務ではなく、会社個々の判断によります。
このため、「予防接種に対する会社の要請」は、『広く一般的に行われている「福利厚生施策」』とまでは言えない可能性があり、
「福利厚生目的」という観点からのみでは、「福利厚生費」として計上することは難しい面があります。 |
ただし、
- 「特定の業務を行う場合」には「特定の予防接種」を受けることが必要となる場合がある、
- 「特定の時期や状況下」では、病気の感染による会社業務の停滞を事前に防止することが必要となる場合がある、 etc.
会社から特に従業員・役員に予防接種を受けることを要請する場合があると思います。
このような場面では、「予防接種を受ける」ことは、
「個々の従業員・役員に対して経済的利益を提供する」ということよりも、「会社の業務遂行上の必要性」から会社が要請したものであると考えられます。 |
従いまして、上記のように「会社の業務遂行上の必要性」から会社が予防接種を受けることを要請している場合には、予防接種に掛かった費用は「福利厚生費」となり得ると考えます。
Point ! 会社の業務遂行上の必要性の明確化 「予防接種に掛かった費用」を「福利厚生費」として計上するためには、一般的な福利厚生費とは異なり、「会社の業務遂行上の必要性」が要件となります。 このため、「予防接種を要請すること」と「業務遂行上の必要性」との関連性を明確にしておくことが必要となります。 |
また、予防接種が会社の要請であることを明確にしておくため、「予防接種」に掛かった費用は、従業員・役員個人名義での支払ではなく、会社名義での支払を行っておくことが良いと考えます。
(つまり、領収書の名義は、「会社名義」で取得して下さい。)
要件2:対象者
業務上の必要性がある従業員・役員すべてを対象とした「予防接種」に係る費用であることが必要となります。 |
「業務上の必要性」を目的としているため、業務上の必要性がある従業員・役員すべてを対象としたものであることが必要となります。
(ただし、従業員・役員の体質や体調面から結果的に従業員・役員の一部が受診できないことも想定されますので、事後的に業務上の必要性があるすべての従業員・役員の接種までは求められません。)
要件3:会社が負担する費用金額
「予防接種」に係る費用額は、業務遂行上必要であると考えられる常識的な範囲内であることが必要となります。 |
「予防接種」は、業務遂行上必要と考えられる常識的な範囲で行われることが必要となります。
この範囲を超えるような「予防接種」に対する会社負担額は、「福利厚生費」ではなく、「従業員給与・賞与」「役員報酬」と認定される可能性があります。
2、税務上での規定
「予防接種」に関して規定した税務上の規定は、現在ありません。
Ⅳ:「治療費」に対する会社負担
1、「業務上の傷病に対する治療費」に対する会社負担
業務中に怪我をした場合や通勤途中に怪我をした場合には、労災保険から従業員・役員の「治療に掛かる費用の全額」が補償されます。
このため、「会社がこの治療に掛かる費用」を負担することは、一般的に想定されていません。
従いまして、
労災保険制度が存在する中では、会社が「業務上の傷病に対する治療費」を敢えて負担した場合には、
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ただし、「傷病見舞金」等の名目で支払われたものにつきましては、『「福利厚生費」として計上できる要件』を満たしている場合、「福利厚生費」として計上できると考えます。
2、「業務外の傷病に対する治療費」に対する会社負担
「業務外の傷病に対する治療費」を会社が負担している場合には、
- 会社の業務遂行との関連性が非常に薄いものとなり、
- 「特定の従業員・役員への経済的利益の提供」という側面が非常に強くなると考えられます。
従いまして、
会社が「業務外の傷病に対する治療費」を負担した場合には、
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ただし、「傷病見舞金」等の名目で支払われたものにつきましては、『「福利厚生費」として計上できる要件』を満たしている場合、「福利厚生費」として計上できると考えます。
3、税務上での規定
「治療費」に関して規定した税務上の規定は、現在ありません。
税理士事務所・会計事務所からのPOINT
「医療関係費」につきましては、「福利厚生費」という勘定科目のもつ名称から、直感的に「福利厚生費」として計上してしまうことが多いと思います。
他方、税務上では、「福利厚生費」として計上できるものは、限定されます。
このため、「医療関係費の会社負担額」に対する「勘定科目の選択」につきましては、
- 税務上の要件をクリアした場合には「福利厚生費」として計上し、
- 要件をクリアしない場合には「従業員給与・賞与」「役員報酬」として計上すること
が必要となるということを意識して仕訳入力することが大切であると考えます。