『業務委託に係る「報酬」「業務手数料」』等につきまして、費用計上する場合に留意すべき税務上の規定を、以下の項目に従い、ご紹介させて頂きます。

 

 

 

Ⅰ:「業務委託」に対する税務上の留意点

 1、業務委託に関係する勘定科目

会社が会社外部者に対して業務を委託し、その報酬・手数料等を支払った場合で、

  • 委託した業務が加工等の主要な業務である場合には「外注費」として計上され、
  • 委託した業務が販売業務である場合には「販売手数料」として計上され、
  • 委託した業務が上記以外の業務で、受託者が会社等の法人である場合には、「支払手数料」として計上され、
  • 委託した業務が上記以外の業務で、受託者が個人事業主等である場合には、「支払報酬」として計上されます。

「業務委託に対して支払われる報酬・手数料」につきましては、上記のような勘定科目に計上されることから、ここでご紹介させて頂きます『業務委託に係る「報酬」「手数料」に対する税務上の規定』につきましては、主に「外注費」「販売手数料」「支払手数料」「支払報酬」に関係する事項となります。

また、ここでは『業務委託に係る報酬」「手数料」』と「従業員給与(給与手当)」「パート・アルバイト給与(雑給)」との区別が問題となるため、特に業務受託者個人事業主となる外注費」「販売手数料」「支払報酬」に関係する事項となります。

 なお、「外注費」「販売手数料」「支払手数料」「支払報酬」等の定義・内容につきましては、
支出に対する勘定科目(購買取引)をご覧ください。

 

2、「業務委託」の特性(「従業員給与」等との形式面での区別)

業務委託につきましては、会社外部者との取引となるために、原則として会社内部者への支払である「従業員給与」「パート・アルバイト給与」とは明確に区別されるものとなります。

すなわち、まず形式面におきまして、以下のような明確な違いがあります。

 

1)契約面での「業務委託」と「給与」との違い

「外注費」や「販売手数料」に係る「業務委託」につきましては、
通常、その支払が継続的になされ、支払金額も多額となるものが多いことから、このような「業務委託」に対しては、

  • 事前に「業務委託契約」「販売委託契約」等の「契約」が締結され、
  • この「契約」等に基づいて「報酬」「手数料」が支払われるものとなります。

他方、「従業員給与」「パート・アルバイト給与」は、

労働契約雇用契約)」を前提として支払われるものとなります。

この点、両者につきましては明確に異なるものとなります。

 

2)報酬・手数料等の請求面での違い

また、「外注費」「販売手数料」「支払報酬」等に係る「業務委託」におきましては、会社外部者への業務依頼となることから、その「業務委託に対する報酬・手数料の支払」は、

  • 委託した業務完了した時点委託した業務単位)で、
  • 業務受託者が計算・作成した「請求書」に基づいてなされるものとなります。

他方、「従業員給与」「パート・アルバイト給与」等は、

会社において賃金・給与の計算がなされ、従業員に支払われるものとなります。

この点で、両者につきましては明確に異なるものとなります。

 

3、「業務委託」と「給与」との区別が問題となる場合

「業務委託」と「給与」とは、上記2のように、その形式面で明確な違いがあることから、
会社がある特定の業務を外部委託する場合に、全く会社との関係がない独立した会社等の法人」や「個人事業者」に業務の遂行を依頼する場合には、特に税務上問題となるような事項は生じません
(このような場合には、以下に記載する事項は検討する必要がありません。)

 

ただし、個人事業者として独立されている方が多く存在するような特定の業界(特に建設業界美容理容業界IT業界等)におきましては、

  • 従来雇用していた従業員の方が個人事業者として独立されても、引き続き業務委託契約」等を締結して、会社業務の一部を業務委託するような場合や、
  • 会社業務の繁忙期等において、個人事業者会社業務の一部を委託するような場合が多くみられます。

このような場合では、税務調査等において、

形式的に、「業務委託契約」や「個人事業主からの請求書」が存在する場合であっても、
実質的に、個人事業主を雇用していることと変わりがないような状況にある場合には

  • 「外注費」「販売手数料」「支払報酬」等に計上される「業務委託ではなく
  • 雇用契約に基づく「従業員給与」や「パート・アルバイト給与」等ではないのか?

との指摘を受けることが多くあります。

 

 

Ⅱ:「業務委託」と「雇用」との税務上の判断基準

上記Ⅰの3で記載させて頂きましたように、税務調査等において、「業務委託に係る報酬・手数料」となるか「給与」となるかが問題となった場合には、

仮に業務委託報酬や業務委託手数料として支払われたものが、「業務委託契約」等に基づいて支払われている、業務受託者から「請求書」が発行されている等の形式面を満たしていても、このことにより「業務委託に対する報酬・手数料」に該当するとは認められず

個人事業主等が、

  • 外部受託者として「受託した業務サービス」を提供しているのか
  • 会社内部者として「労働サービス」を提供しているのか

という「サービス提供実態」に基づいて、「業務委託として認められるか」「給与として計上しなければならないか」が判断されます。

そして、税務上では、「サービス提供の実態」が「受託した業務サービスの提供であるか」又は「労働サービスの提供となるか」につきましては、以下の5つの基準に基づいて総合的に判断することとされています。

以下では、税務上規定されている5つの判断基準についてご紹介させて頂きます。

 

1、税務上の5つの判断基準

税務上におきましては、

  • 以下の5つの判断基準を挙げて、これらの判断基準ごとに『「従業員給与」「パート給与」等の「雇用」とされるケース』と『「外注費」「販売手数料」「支払報酬」等に含まれる「業務委託」となるケース』を比較的具体的に規定しています。
  • そして、この判断基準ごとの実態総合的に勘案して、実質的に「雇用」であるのか「業務委託」であるのかを判断することとしています。
  1. 「業務の委託者(会社)」から「作業時間を指定される」「時間を単位として報酬が計算される」等の時間的な拘束を受けるかどうか。
    ⇒時間的拘束がある場合は「雇用」、時間的拘束がない場合は「業務委託」と判断されます。
  2. 作業具体的な内容や方法について「業務の受託者(会社)」から指揮監督を受けるかどうか。
    ⇒指揮監督がある場合は「雇用」、指揮監督がない場合は「業務委託」と判断されます。
  3. 材料又は用具等を「業務の委託者(会社)」から供与されているかどうか。
    ⇒供与がある場合は「雇用」、供与がない場合は「業務委託」と判断されます。
  4. 業務の受託者個人事業者等)」が「手配した者」が替わって業務を行うことを「業務の委託者(会社)」が認めているか。
    ⇒代替を認めない場合は「雇用」、代替を認めている場合は「業務委託」と判断されます。
  5. 「引渡しがされていない成果物(完成品等)」が「業務の受託者(個人事業者)」に責任のない不可抗力のため滅失するなどした場合であっても、遂行した業務等に対する報酬の支払行なわれているかどうか。
    ⇒支払がされている場合は「雇用」、支払がされていない場合は「業務委託」と判断されます。

 

2、判断基準の個別検討

上記1でご紹介させて頂きました要件につき、以下で具体的に検討します。

1)時間的拘束性

「業務委託」は、

  • 一定の業務の遂行完成」を委託するものであることから、その業務遂行に対して時間的な拘束を付けることは本来的に必要となるものではありません。
  • また、委託業務に対して支払われる報酬は、「委託された業務の遂行完成に対して支払われるもの」となり、「委託業務に掛かった作業時間関係なく支払われる」ものとなります。

「業務委託契約」の締結前には、業務を行うために必要となる作業時間等を考慮して、報酬金額が見積もられ、決定されることは当然ですが、契約締結後においては、「追加契約」等の締結がない限り、作業時間に関係なく報酬が支払われる契約となります。

ただし、「委託業務の性質上」から時間的な拘束を受けることが必要となる場合は、例外とされます。

このため、

  • 業務内容の性質上に関係なく、「業務を行う時間」が委託者から指定されている場合や、
  • 報酬等の支払が「時間を単位」としてなされている場合や、
  • 明確な業務時間の指定はなくても、一定時間を超える場合には、超えた時間に対して追加報酬が支払われている場合には、

実質的には、「勤務時間等による拘束性がある労働サービスの提供である」と看做され、「雇用」と看做される一要因となります。

 

2)指揮命令の有無

「業務委託」は、

  • 会社の指揮命令系統にない会社外部者に依頼する契約となります。
  • 「業務委託契約」の締結前や契約締結後における定期的な協議において、業務委託の成果物(完成物等)に対する会社からの仕様基本的要求事項)等に対する要請がなされることは許容されますが、委託された業務遂行のために必要な「具体的な個々の作業の内容」「業務の進め方」等は、「業務の受託者(個人事業者)」に委ねられるものとなります。

ただし、「委託業務の性格上」当然に存在する指揮監督は、例外とされます。

このため、

  • 「業務の委託者(会社)」から「具体的作業内容に対する指示」がなされている場合や「具体的作業方法作業順序等に対する指示」がされている場合や、
  • 「一般的に行われている業務委託契約」で「業務委託者から行われれるような基本的要求事項超えるような詳細な指示」がなされている場合には、

実質的には、「会社内部者(労働者)への指揮命令である」と看做され、「雇用契約」と看做される一要因となります。

 

3)材料・用具の支給

「業務委託」では、

  • 委託された業務に「必要な材料・用具等」は、委託者(会社)で材料等を用意する合理的な理由がない限り業務の受託者個人事業者)」が用意することが一般的となります。
  • すなわち、業務委託の成果物(完成物等)に必要となる材料代金等や必要となる用具代金等は、「業務の受託者(個人事業者)」側で用意され、「業務受託者である個人事業主における個人事業仕入経費」となることが一般的な形となります。

このため、

  • 委託された業務を遂行するために必要となる材料・用具等が、特別な合理的理由なく、委託者(会社)から支給されている場合や、
  • 当該業務委託契約に係る業務受託者の経費負担等が殆どない場合等には、

実質的には、人件費以外の費用負担の観点から当該委託業務が「会社内部における業務遂行」であると看做され、「その業務に係る人件費」についても「給与」であると看做される一要因となります。

 

4)作業者の代替可能性

「業務委託」では、

  • 「受託された業務を遂行する者」は、「業務受託者の責任」により手配されていることが必要となります。
  • すなわち、業務委託におきましては、委託者にとって「委託した業務の遂行完成)」が業務委託目的であり、委託業務を誰が行うかについては、委託者が決定することではなく、「業務受託者」が決定する事項となります。

このため、

業務の受託者である「個人事業者」が急病等により作業に従事できない場合等に、業務委託者(会社)他の作業員手配し、業務受託者が作業に従事しなかった日数に係る報酬を減額し、他の作業員に支払われているような場合には、

実質的には、「業務遂行者の代替が許されない労働の提供である」と看做され、雇用」と看做される一要因となります。

 

5)成果物に対する責任

「業務委託」は、

  • 『「委託した業務」の成果物完成品等)』の引き渡しに対して、報酬が支払われるものとなります。
  • このため、業務受託者の責任に帰する場合は当然ですが、災害等の不可抗力を原因として『「委託業務」の成果物』が引き渡されない場合にも、「成果物(完成品等)」の引き渡しがなされない限り、業務委託に係る報酬は支払われないものとなります

このため、

委託業務に係る成果物が不可抗力のために滅失した場合等において、「既に遂行した業務又は提供した役務」に対して報酬を請求できたり、報酬が支払われているような場合には、

実質的には、「労働の提供自体に対して報酬が支払われているもの」と看做され、「雇用」と看做される一要因となります。

 

 

Ⅲ:「業務委託契約」締結にあたっての事前留意点

上記におきまして、「5つ要件」をご紹介させて頂きましたが、上記要件は、税務調査や裁判等で「業務委託であるか」「雇用であるか」が争われた際における、事後的な判断基準となる要件となります。

ただし、以下におきましては、全くの私見ですが、そもそも税務調査等で問題となる場合には、

  • 「業務委託契約」が締結されていない。「請求書」が発行されていない
  • 「業務委託契約書」がある場合であっても、契約書の中で「委託業務の内容」が、具体的・明確になっていない
  • 「請求書」に記載されている業務報酬の内容が、「時間」等を単位として行われている
  • 複数の個人事業者から発行されている「請求書」の内容・形式等が同じである。等
「業務委託の形式面」において、「雇用」と認められるような事項が存在している。
  • 業務を受託している個人事業主が、「独立して事業を行っている」認識が低い
  • 業務委託している個人事業主が、常時、委託者(会社)の業務を行っており、個人事業主の収入の殆どが委託者(会社)から受けるものとなっている。等
業務受託者である個人事業主が、社会一般的独立して事業を行っているという客観性が乏し、この点から「雇用」と認められる事項が存在している。
  • 業務委託者に対しても、会社従業員と同様に、会社の「福利厚生施策の対象となっている、「通勤費交通費」等が毎月一定額支払われている。
  • 会社の従業員と同様の勤務形態、勤務管理がなされている。
  • 遅刻等をした場合に、遅刻等に対してペナルティーがある。
  • 入社から一定期間経過した場合、会社からの要請として多くの従業員が独立している。等
「業務委託者である会社」の「業務受託者である個人事業主」に対する取扱の観点から、「雇用」と認められる事項が存在している。

など、常識的な点から「従業員給与と変わりないのでは?」となることが殆どであると考えます。

 

従いまして、「業務委託」を行う場合(事前の契約締結時)には、

業務委託の本質・基本は、「業務を委託が必要となる⇒その業務を遂行できる人を探す⇒業務を委託する。」ものであり、
単に「業務委託契約」を締結する等だけで実質が伴わない場合には、「給与」と認定されるリスクがあるということを十分ご認識して頂きますようお願い致します。

 

 

Ⅳ:「従業員給与」「パート給与」等と認定された場合のリスク

税務調査等において「外注費」「販売手数料」「支払報酬」等として計上していた費用が、「従業員給与」「パート・アルバイト給与」と認定された場合には、「所得税の源泉徴収申告」「消費税申告」等で、「税金の追加納付」が必要となる可能性が出てしまいます。この点、以下で結論のみを簡単にご紹介させて頂きます。
(この点につきましての詳細は、⇒コチラをご覧ください。)

なお、「外注費」「販売手数料」「支払報酬」等が「従業員給与」として認定される場合には、認定金額が多額になることが予想されますので、下記でご紹介するリスク大きなものとなることが予想されます。
(最悪の場合には、会社の存続にも影響を及ぼすようなリスクとなってしまうこともあります。)

このため、「従業員給与」と認定される可能性が少しでもあるような場合には、くれぐれも慎重に「外注費」「販売手数料」「支払報酬」等として計上できる「業務委託」に該当するのか?「従業員給与」「パート給与」等の「給与」として計上しなければならないか?を検討しご判断頂きますようお願い致します。

 

1、所得税の源泉徴収申告に関係するリスク

外注費」「販売手数料」「支払報酬」等として計上していたものが、税務調査等で「従業員給与」として認定された場合には、「従業員給与」の増加となります。

この結果、増加した「従業員給与」に対する「所得税の源泉徴収税」を追加納付しなければならないリスクが生じます。

 

2、消費税申告に関係するリスク

外注費」「販売手数料」「支払報酬」等として計上していたものが、税務調査等で「従業員給与」として認定された場合、消費税計算において「課税仕入」であったものが「非課税仕入」となる可能性があります。

この結果、消費税申告にあたり、「原則課税方式を選択している場合」には、増加した「従業員給与」に対する「消費税」を追加納付しなければならないリスクが生じます。

 

 

Ⅴ:税務上での各種規定

税務上で、「業務委託」に関して規定されたものとしては、以下のものがあります。

なお、税務上では、業務受託者が受けた報酬が「事業所得」であるか「給与所得」であるかを記載したものであるため、「法人税法」での規定ではなく、「所得税法」「消費税法」での規定となっています。

 

1)申告所得税関係 個別通達

大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて(法令解釈通達)

  • 上記Ⅱの1及び2でご紹介致しました「判断基準」が記載された規定となります。
  • 特に「業務委託」であるか「雇用」であるかが多く問題となる「大工・左官・とび職等」について記載されたものとなります。

 

2)その他法令解釈に関する情報 申告所得税関係

大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いに関する留意点について(情報)(平成21年12月17日)

上記1と同様の内容が記載されています。

 

3)消費税法基本通達1-1-1 :個人事業者と給与所得者の区分

  • 消費税法の観点から「業務委託」と「雇用」との判断基準を記載した規定となります。
  • ここでは、報酬が「出来高払」で支払われている場合において「出来高払の給与」となるか「業務委託に係る報酬等」となるかについての要件を記載しています。

 「出来高払いの報酬」につきましても、上記Ⅱの2(2)~(5)が判断基準となります。
(業務委託契約の内容が出来高払いだからといって、業務委託として認められるものではなく、このような場合であっても、あくまで「業務の実態」により「業務委託か?雇用か?」の判断が必要となります。)

 

 

税理士事務所・会計事務所からのPOINT

「業務委託」につきましては、会社内部ではできないような「特定された業務」を遂行するために、その業務を遂行できる「独立した個人事業者」を探して、業務委託するような場合につきましては、上記のような「業務委託」と「雇用」との判断が問題となることは殆どないと思います。

ただし、「会社内部で内製化できるような業務」を、わざわざ業務委託しているような場合には、税務調査等において、「雇用なのではないのか?」と疑問視・調査されることが多くあります。

「業務委託」として「外注費」「販売手数料」「支払報酬」等に計上する場合は、「従業員給与」「パート給与(雑給等)」に計上する場合と比較して、税務上のみならず社会保険等の面からも会社にとって有利となる点があることは、色々なところで紹介されていることからご存じの方が多いと思います。
ただ、有利となる点があることは、反面、税務調査等で「外注費・販売手数料・支払報酬等として計上している金額」が「給与」「雑給」等として指摘・認定されると、大きなリスクとなります。

このため、上記Ⅲのような状況がある場合には、より慎重に「給与認定されるようなことがないか?」をご確認して頂くことが必要であると考えます。