「修繕費」という勘定科目につきまして、費用計上する場合に留意すべき税務上の規定を、以下の項目に従い、ご紹介させて頂きます。
なお、「修繕費」の定義・内容は、⇒支出に対する勘定科目(購買取引)をご覧下さい。
Ⅰ:「修繕費」に対する税務上の留意点
1、「修繕費」に対する「社会一般的考え」と「税務上の考え」の違い
一般的には、「既に所有・使用している固定資産等」に対して、工事業者や修理業者に修繕工事、改修改良工事、修理等を依頼した場合に支払う金額は、すべて「修繕費」として計上することができると考えることが殆どなのではないかと思います。
特に、これから経理業務を行おうとしている方にとっては、「修繕費を計上する場合」に何か税務上特別な規定があるのか?と思われる方が殆どではないかと思います。
この点、税務上では、『社会一般的に「修繕費」と考えられるようなもの』が、『会計帳簿に「修繕費」として当然には計上することができない規定』が存在します。
すなわち、『税務上「修繕費」として計上できるもの』は、上記のような『社会一般で考えられている「修繕費」』よりもかなり「狭い範囲の支出」に限定されています。
従いまして、会計帳簿で「修繕費」を計上する場合には、
- 税務上で規定されている「金額による計上基準」及び
- 「工事等の実態(内容)判断による計上基準」をしっかり理解・把握した上で、
慎重に検討して計上することが必要となります。
2、「修繕費」に対する税務上の基本的な考え方
『税務上「修繕費」として計上できるもの」は、『「既に所有・利用している固定資産等」につき修理、改良等の名目で支出した金額』のうち、
のみであるとしています。 |
他方、『「既に所有・利用している固定資産等」につき修理、改良等の名目で支出した金額』のうち、
「その部分の支出金額」につきましては、「修理・改良の対象となった固定資産の追加取得」であると考え、「固定資産に計上」しなければならないとしています。 |
この場合の「固定資産に計上しなければならない支出金額部分」は、固定資産を新規に取得する場合に対する支出(取得価額)と区別するため、
会計上、「資本的支出」という名称が使用されます。 |
3、「修繕費」と「資本的支出」の取扱の違い
税務上『「修繕費」として計上することができるか』『「資本的支出」として「固定資産」に計上しなければならないか』により、以下のような違いが出てきます。
「修繕費」として計上できる場合には、
「支出があった会計年度」において、「支出金額」を「費用」とすることができます。 |
他方、「資本的支出」となる場合には、
|
Ⅱ:「修繕費」に対する税務上の規定(実質判断が不要となる規定)
『「既に所有・利用している固定資産等」につき修理、改良等の名目で支出した金額』に対する「税務上の基本的な考え方」は、上記Ⅱでご紹介させて頂きましたものとなります。
ただし、すべての「修理、改良等の支出金額」に対して、「修繕費」に該当するのか?「資本的支出」に該当するのか?を検討することは、経理実務の負担を膨大にさせます。
このため、税務上におきましては、まず以下の2つの規定を設け、『このような規定に該当する場合には、工事内容の検討を行うことなく「修繕費」として計上できる』として、経理実務の負担軽減等を図っています。
1、「修理、改良等の支出金額」が20万円未満である場合の規定
「その修理、改良等のために要した支出金額」を全額、「支払った(工事を行った)会計年度」に「修繕費」等として「費用計上」することができます。 ※ 当該規定:法人税基本通達7-8-3 |
「1つの固定資産」に対する「1つの計画に基づく修繕・改良等工事」であって、「各会計年度ごとに支出する金額が20万円未満」である場合には、金額面を考慮して、
- 固定資産のメンテナンスである場合には、「通常の固定資産の維持・管理のためのもの」である
- 固定資産の故障修理等である場合には、「通常の固定資産の現状回復のためのもの」であると看做して、
その工事内容を検討することなく、「支出した会計年度」に「その支出金額」を全額、「修繕費」等として計上することができるとしています。
この規定が適用される場合には、
- 工事内容が、すべて「資本的支出」に該当するものであっても、
- 工事内容の中に、一部「資本的支出」に該当するものがある場合であっても、
- 工事内容の中に、「修繕費か資本的支出か不明なもの」がある場合であっても、
「修繕費」として計上することができます。
2、修理・改良等工事の周期が概ね3年以内である場合の規定
「その修理、改良等のために要した支出金額」を全額、「支払った(工事を行った)会計年度」に「修繕費」等として「費用計上」することができます。 ※ 当該規定:法人税基本通達7-8-3 |
「1つの固定資産」に対する「修繕・改良等工事」などが、比較的短い周期(概ね3年以内の期間ごと)に行われている場合には、
「その工事等」は、「固定資産の通常の維持管理のために必要となる支出」と考えられるという前提に立ち、
金額に関係なく、その工事内容を検討することなく、「支出した会計年度」に「その支出金額」を全額、「修繕費」等として計上することができるとしています。
適用要件
この規定を適用するためには、その条件として、会社が「同じ固定資産」に対して「同じ内容の修繕・改良工事等」が概ね3年以内の周期で行われていることを証明することが必要となります。
従いまして、税務調査等で「この規定の適用要件」が調査対象となった場合には、「3年以内の周期で工事等が実施されていることを証明する書類」等を提出することが必要となります。
なお、この書類につきましては、工事内容の同一性も説明できるように「工事内容が解る書類」も添付しておくことが良いのではないかと考えます。
Ⅲ:「修繕費」に対する税務上の規定(実質判断が必要となる規定)
『「既に所有・利用している固定資産等」につき修理、改良等の名目で支出した金額』が、
- 「会計年度における支出金額」が20万円未満である場合、
- 又は、修理・改良等工事の周期が概ね3年以内に行われている場合には、
上記Ⅱでご紹介させて頂きました「税務上の規定」を適用することにより、工事内容の詳細な検討をせず、すべて「修繕費」として計上することができます。
他方、上記に該当しない場合、すなわち、
- 「会計年度における支出金額」が20万円以上であり、
- かつ、工事等が短期的周期(概ね3年以内)に行われるものでない場合には、
|
この場合における
- 検討手順及び
- その検討過程で理解しておくことが必要となる税務上の規定
を以下でご紹介させて頂きます。
Step1:工事内容の検討に必要となる書類(工事内容内訳書等)の入手
「工事内容の実質的判断が必要」となる場合には、『「どのような工事が行われたのか」を検討するための書類』が必要となります。
一般的に、工事業者に対して「工事見積」を行う場合に、「見積書」に「工事内容内訳書」が添付されてくると思います。
このような「見積書」に添付される「工事内容内訳書」は、工事内容が詳細に記載されている重要な書類となりますので、工事業者から当該書類を入手できる場合には、必ず入手・保管して頂きますようお願い致します。
定型的な「工事内容内訳書」等が入手できない場合には、最低限、工事業者から「請求」を受ける場合に、「請求書」に「工事内容の内訳及び内訳金額の記載」をお願いして下さい。
この資料があるかないかにより、会計帳簿に「修繕費」として計上できる金額が異なることが多くあります。
このため、工事が行われた場合には、『「工事内容内訳書」等の「工事内容の内訳及び内訳金額が記載された書類」の入手を行わなければならない』ということを習慣付けて置いて頂くようお願い致します。 |
【工事内容内訳書の例示】
「部品取替工事」「塗替工事」等の場合の留意点
現状回復・機能維持のため「固定資産の部品を取替える工事」や「建物等の塗替工事」等を行う場合には、下記Step2以降でご紹介させて頂きますように、原則として、「修繕費」として計上することができます。
ただし、実際に工事を行う場合には、せっかく工事を行うならば、「既存部品と同じ性能の部品」や「既存の素材を利用して塗替を行う」のではなく、「少し性能の高い部品・素材」を使って取替・塗替等を行う場合も多くあるのではないかと思います。
このような場合には、本来的には「修繕工事」であるにも拘らず、性能が向上するために、「工事全体が資本的支出に該当する」と指摘されてしまうことが多くあります。
ただし、「部品取替工事」や「建物塗替工事」におきましては、
・「通常の現状回復や機能維持の部分」すなわち、「従来と同じ部品や素材を使って工事を行う部分」で、
・この部分に係る工事金額を客観的に証明することができる場合には、
この支出部分につきましては、「修繕費」として計上することができます。
このため、上記のような場合には、
|
Step2:工事内容の実質的検討
上記Step1で入手した「工事内容内訳明細書」等を基にして、「実施された工事等」が、
を、税務上で規定されている
に従って、実質的に判断します。
そして、上記の実質判断において、
|
この段階におきましては、「工事内容内訳明細書」に記載された工事内容の項目ごとに、「明らかに修繕費と判断される工事内容であるか」「明らかに資本的支出と判断される工事内容であるか」を以下の「税務上に規定される判断基準」に基づいて判断することが必要となります。(実質判断が必要となります。)
ただし、この段階におきましては、
- すべての工事内容を「修繕費」又は「資本的支出」の2つに区分しなければならないというものではなく、
- 「明らかに修繕費となるもの」と「明らかに資本的支出となるもの」の区分のみを行うことで足ります。
すなわち、「修繕工事及び資本的支出工事のどちらにも必要となるような内容の工事項目」がある場合には、
※ 「区分不明部分」は、1つの工事の中に「修繕工事」と「資本的支出工事」が混在しているような場合に発生することが予想されます。 |
Step2で行われる実質的判断は、上記のような判断となりますが、
この実質判断を行うための「判断基準となる税務上の規定」は、どのようなものであるかが問題となります。
この点につきまして、税務上で規定されている
- 「資本的支出となるような工事」はどのような工事であるかを下記(1)で、
- 「修繕費となるような工事」はどのような工事であるかを下記(2)で、
ご紹介させて頂きます。
1)資本的支出となる工事
「実施された工事」が「明らかに資本的支出に該当するかどうか」を判断するための「税務上の判断規定」には、以下の「一般的規定」と「具体的規定」とがあります。
一般的規定(法人税法施行令132、法人税基本通達7-8-1)
「その延長及び増加させる部分に対応する金額」は、「資本的支出」となります。 |
「資本的支出としなければならないか」を判断する基準としては、まず上記の規定が大前提となります。
ただし、この規定だけでは、抽象的であることから、以下のような具体的な補助規定が存在します。
具体的規定(法人税基本通達7-8-1)
例えば、次のような支出は原則として修繕費にはならず資本的支出となります。
|
「資本的支出」における「一般的規定」に記載されている、「固定資産の使用可能期間を延長させる」又は「固定資産の価値を高める」ということは、ある程度感覚的には理解できますが、
・固定資産の使用可能期間が延長されると判断するためには、工事を行った結果の固定資産の使用可能期間の予測が必要となることや、
・固定資産の価値を高めると判断するためには、工事を行った結果の固定資産の利用価値の予測が必要となることから、
実務上、どのような工事が該当するかを明確に把握することは困難となります。
このため、「資本的支出に該当するか否か」につきましては、「具体的規定」を利用し判断する方が解りやすいのではないかと考えます。
すなわち、工事内容が、
には、その工事等に係る支出金額は、「資本的支出」としなければならないことになります。 ※ この場合には、既存部品の老朽化等のため既存部品と同質・同性能のものに取り替える場合には、「その取替に係る支出金額」は下記(2)でご紹介させて頂きますように「修繕費」として計上することができます。 |
2)修繕費として計上できる工事
「実施された工事」が「明らかに資本的支出に該当するかどうか」を判断するための「税務上の判断規定」には、以下の「一般的規定」と「具体的規定」とがあります。
一般的規定(法人税基本通達7-8-2)
「上記のために要したと認められる部分の金額」が「修繕費」となります。 |
「修繕費として計上できるか」を判断する基準としては、まず上記の規定が大前提となります。
「修繕費として計上できる具体的規定」につきましては、以下に記載するものが「法人税基本通達」等で示されていますが、これらの規定につきましては、かなり状況が限定された場合の具体的規定となっております。
このため、「修繕費として計上できるか」を判断する基準としましては、
- 工事が明らかに上記の「資本的支出に該当しないものであり」
- かつ「この修繕費として計上できる一般的規定を満たす程度のものであるか」を判断基準にすることが良いのではないかと考えます。
具体的規定①(旧法人税基本通達235)
旧法人税基本通達235は、昭和44
次に掲げるようなことのために支出した金額は、原則として、その全額を「修繕費」と認めるものとする。
※ 上記のような内容の工事につきましては、原則「修繕費として計上できる工事」と考えられますが、
特殊的事情がある場合には、例外的に「修繕費」として認められない場合があります。 |
ここでの具体例につきましては、「取替工事」や「塗替工事」に対しては、原則として「修繕費」として計上することができることを具体的に規定したものとなります。
このような、工事のなかには、足場組等が必要となるために工事金額が高額となるものもあるため、税務上これらを「原則的に修繕費となる工事である」と明記されていることに意義はあると考えます。
ただし、「取替」「塗替」等の限定された工事に関しての規定となることから、広く修繕費について判断する場合には、限定された規定になるとも考えます。
具体的規定②(法人税基本通達7-8-2)
次に掲げるような金額は、修繕費に該当する。
|
この規定は、「移設」や「災害を受けた場合」等に対する具体的規定となります。
上記のような場合にも、工事金額が比較的多額になりますので、ここで具体的規定として明記されている意義はあると思いますが、かなり限定された工事の具体例となっております。
実質的判断についての留意事項
①「税務上の修繕費」の範囲についての留意点
上記でご紹介させて頂きました「税務上の判断規定」を見て頂いてもお分かりになると思いますが、
『税務上「修繕費」として計上できるものの範囲』は、『社会一般的に考えられている「修繕費」の範囲』に比べ、かなり限定されたものとなっていることに、十分ご留意下さい。 |
税務上では、工事のうち
「付加されたものがある場合」「改造・改装に直接支出された部分」「高性能部品への取替がなされた場合」には、原則として「資本的支出のための工事」であると判断されてしまいます。
このため「修繕費として計上できるもの」は、
改造・改装等の目的でなく、日常の維持管理や毀損部分の修理等の目的で行われたものであり、かつ既存物の交換等以外には付加されたものなく、その交換にあたっても高性能の部品交換であってはならないという極めて限定的なものとなってしまう点にご留意ください。
②実質的判断の必要性
この段階におきましては、「工事内容を検討する」という「実質判断」が必要となります。 |
お客様の中には、下記Step3でご紹介させて頂きます「60万円基準」や「取得価額の10%」基準があるために、Step2の実質判断は不要であると考えられる方もいらっしゃいますが、この段階で「工事内容内訳書」等を検討する「実質判断」が必要となります。
従いまして、「工事が修繕工事・資本的支出工事」を含むような場合には、この段階で、「資本的支出」と「修繕費」との区分を行わなければなりません。
この点、このStep2の判断を行わずに、直接「工事全体」に対して、Step3の判断を行ってしまったような場合には、税務調査等において、「工事内容内訳書」等の内容から「資本的支出に該当する部分の金額」を抽出され、「この部分は修繕費として認められない」と指摘されることも多くありますので注意が必要であると考えます。
また、工事全体が「主として資本的支出であるような場合」には、最悪「工事全体」が「資本的支出となる工事である」と指摘されるリスクも出てきますので、十分ご注意頂くことが必要であると考えます。
③「工事対象となる固定資産」の明確化
実質的な判断を行う場合には、その前提として、
「実施された工事」が、「どのような固定資産に対して行われたのか?」 |
ということをしっかり把握しておくことが必要となります。
この点、「構築物」「機械装置」「工具器具備品」につきましては、物理的に固定資産が独立して存在していることにより、「工事が何に対してなされたか」が比較的明確に把握できます。
他方、「屋根」「壁」「窓」「床・廊下」「内装」「構造」等に対して行われる工事は、独立した個々の資産に対して行われたものではなく、あくまで『「建物」という「それらが総合された固定資産資産」に対して行われた工事である』ことをしっかり認識して、工事の内容を判断することが必要となります。
また、建物に附属している「建物附属設備」に対して工事が行われている場合には、「建物附属設備に対する工事」だけでなく、「建物に対する工事」が含まれることが多くあります。
このような場合には、『「実施された工事」が「建物附属設備に対する工事であるか?」「建物に対する工事であるか?」をまず区分することが必要となる』ということもご留意頂くことが必要となります。
Step3:「修繕費か資本的支出かが明らかでない部分」についての判断基準
上記Step2で「修繕費・資本的支出の実質判断」を行った後に、「明確に修繕費である」又は「明確に資本的支出である」と判断できない部分につきましては、「区分不明部分」として残る場合があります。
税務上では、この「区分不明部分」を簡便的に処理できるように、「下記(1)及び(2)でご紹介させて頂きます規定」が用意されています。
このためStep3では、この「区分不明部分」が「以下の税務上の規定」に該当するかどうかを検討します。
すなわち、「区分不明部分の金額」が
「区分不明部分の金額」を全額、「修繕費」として「支払った(工事が完了した)会計年度」に「費用」として計上することができます。 |
1)「区分不明部分」が60万円未満である場合の規定
「その区分不明の部分に係る全額」は、「支払った(工事を行った)会計年度」に「修繕費」等として「費用計上」することができます。 ※ 当該規定:法人税基本通達7-8-4 |
上記Step2で「区分不明金額」がある場合には、「区分不明金額」に対するより詳細な実質判断を行う前に、この「区分不明金額」に対して「60万円基準」を適用して、この金額が60万円未満である場合には、簡便的判断を行い、「修繕費」として計上することができます。
2)「区分不明部分」が前期末の取得価額の10%以下である場合の規定
「その区分不明の部分に係る全額」は、「支払った(工事を行った)会計年度」に「修繕費」等として「費用計上」することができます。 ※ 当該規定:法人税基本通達7-8-4 |
上記Step2で「区分不明金額」がある場合には、「区分不明金額」に対するより詳細な実質判断を行う前に、この「区分不明金額」に対して「取得価額の10%基準」を適用して、この金額が前期末の取得価額の10%以下である場合には、簡便的判断を行い、「修繕費」として計上することができます。
期首の取得価額についての規定
上記規定における「期首の取得価額」は、
①減価償却費を控除した後の「固定資産の簿価」ではなく、あくまで「固定資産の取得価額」により計算されます。
②また、「当初の取得価額」のみでなく、前期末までに対象となる固定資産に対して「資本的支出(追加取得)」が計上されている場合には、この「資本的支出額(追加取得金額)」も含んだものにより計算されます。
Step3における留意事項
①「区分不明な工事項目」に対する「簡便的規定」である点の留意事項
上記(1)又は(2)の規定が適用される工事は、「資本的支出と修繕費とが混在している工事」が対象となります。
従いまして、「工事全体が明らかに資本的支出の対象となる工事である場合」には、そもそもこの規定を適用することはできません。
また、上記(1)、(2)の規定は、あくまで「実質的判断がなされた後に残った区分不明工事」に対して適用することができるものとなります。
従いまして、『「資本的支出と修繕費とが混在している工事」であることを理由に、「工事全体」を「資本的支出と修繕費が明確に区分できない工事」として取り扱う』ということを許容しているものではないということにご留意頂きますようお願い致します。
②上記(1)と(2)の規定の併存に対する留意点
上記(1)、(2)の規定は、それぞれ独立した規定となります。
このため、「上記(1)の規定」又は「上記(2)の規定」に該当する場合には、「区分不明部分」を簡便的に「修繕費」として計上することができます。
Step4:Step3の要件に該当しない場合の判断
上記Step2における「実質判断を行った場合」に、「明らかに修繕費・資本的支出に区分できない金額」が、上記Step3の「規定(1)」又は「規定(2)」のいずれにも該当しない場合には、
「区分不明に含まれる工事項目」に対して、「合理的な按分基準」等を設定して、 この按分基準に従って、「修繕費」と「資本的支出」とに按分計算することが必要となります。 |
又は
「法人税法基本通達7-8-5」における「区分の特例」を適用して、
の「いずれか少ない金額」を「修繕費」として計上し、「その残りの金額」を「資本的支出」として「固定資産」に計上することができます。 |
以下では、上記で記載しました
- 「合理的な基準」を用いた按分計算の方法
- 「税務上に規定されている簡便的・機械的」な按分計算の方法
を下記(1)及び(2)でご紹介させて頂きます。
1)合理的な基準による按分計算
Step3で「60万円基準」や「取得価額の10%基準」に該当しない場合には、「区分不明金額」をどのように取り扱うかを明記した税務上の規定はありません。
従いまして、この段階における「区分不明部分」をどのように取り扱うかにつきましては、様々な考え方があると思います。
この点、税務調査等でのリスクを考慮して「区分不明部分」を「資本的支出」として取り扱うことも、1つの方法と考えます。
ただしこの点につき、「区分不明部分」を『「合理的な基準」に基づいて、「修繕費」と「資本的支出」に按分計算することができる』場合には、「合理的な基準に基づいて按分計算する方法」も「区分不明部分を修繕費・資本的支出に区分する方法」として採用することができ得ると考えます。
(税務上でも、「区分不明部分の特例取扱」として、下記2で示すような「簡便的な按分計算」を採用していることから、最終的な区分方法として「按分計算」が採用できると考えます。)
按分計算の考え方
「按分計算を行う方法」には、以下のような方法が考えられると思います。(あくまで一例です。)
①まず、「区分不明な部分」を、その「工事の内容別」に分類・集計します。 ②その後、「工事内容」と「明らかに修繕工事であるもの」「明らかに資本的支出であるもの」との関連性を示すような「合理的な基準」を設定します。 ③最後に、「分類・集計した区分不明金額」ごとに「合理的な基準」に基づいて、「修繕費」「資本的支出」に按分計算を行います。 |
按分基準につきましての留意点
「合理的な按分基準」は、「区分不明工事の項目の性質ごと」に「明らかに修繕工事に該当するもの」「明らかに資本的支出に該当するもの」との発生因果関係を考慮して検討することが必要となります。
この点、「合理的な按分基準」となり得るものには、「修繕工事・資本的支出工事のそれぞれの金額」「工事面積」「工事時間」「材料使用量」等があるのではないかと考えます。
2)資本的支出と修繕費の区分の特例(法人税基本通達7-8-5)
「その区分不明の部分に係る全額」を、
「いずれか少ない金額」を「修繕費」とし、「残額」を「資本的支出」とする経理処理を採用することができます。 ※ 当該規定:法人税基本通達7-8-5 |
税務上、この段階における「区分不明部分に対する修繕費・資本的支出の区分」についても、簡便的・機械的に区分処理する特例方法が用意されています。
ただし、この規定を適用する場合には、下記でご紹介するような「継続的適用」が前提となってしまいますので、この点を十分考慮して、この特例を適用するかどうかを検討して頂くことが必要となります。
この特例の適用における留意点
この特例を適用する場合には、その後の工事に対しても、この規定を採用し続けることが必要となります。
従いまして、一旦この基準を採用した場合には、後の工事において「区分不明部分」を「上記1のような合理的な基準」を用いて区分することができず、常に「法人税基本通達7-8-5」に従って区分処理することが必要となります。
この特例を適用する場合には、この点につき、十分ご留意頂くことが必要となります。
Ⅳ:「修繕費」と「資本的支出」のフォローチャート
上記Ⅱ及びⅢでご紹介させて頂きました「手順」及び「規定」をフォローチャートにしたものが、下図となります。
税理士事務所・会計事務所からのPOINT
修繕費につきましては、
20万円未満の修繕である場合や日常的な保守・点検である場合には、会計帳簿への計上にあたって、難しいものではないと考えます。
ただし、20万円を超える場合には、工事内容の実質判断が必要となることから、会計帳簿への計上が、極端に難しいものとなってしまいます。
工事内容の実質判断にあたっては、
- まず、税務上の「修繕費として計上できるものの規定」「資本的支出として計上しなければならないものの規定」を理解していることが必要となるとともに、
(ただし、規定は理解していても、規定が具体的に明記されているようなものでないため、「どのようなものが、修繕費か?資本的支出か?」は、かなり難しい判断となりますが。。) - 税務上の規定にしたがった実質判断ができるように、工事の内訳内容をしっかり把握することが必要となるため、
(建物や建物附属設備に対する工事が行われたような場合には、複数の工事内訳を伴うものとなるために、工事内訳内容の把握が特に必要となります。)
非常に難しいものであると考えます。
このため、20万円以上の工事が行われた場合等には、早い段階で顧問税理士等に会計帳簿への計上についてご相談されることが良いと考えます。
(工事を行う前に、ご相談されるのも良いと考えます。)
また、このような工事につきましては、必ず工事の内訳内容・内訳金額が分かる書類を入手して頂くことも重要であると考えます。