年末調整の仕訳方法について、「納期特例(年2回納付)の場合」と「原則納付(毎月納付)の場合」のそれぞれについて、ご説明致します。
年末調整は、
- 役員・従業員から「概算で徴収した源泉徴収金額」を「年間確定源泉徴収金額」に修正する作業(年末調整作業)
- 上記の年末調整作業で計算された「過大徴収金額」・「徴収不足金額」の役員・従業員への還付・追加徴収
- 税務署に対する源泉徴収金額の支払
が複合されたものとなっています。
このため、上記のそれぞれの内容を理解した上で仕訳(記帳)を行う必要があります。
以下では、下記場合ごとに、年末調整の仕訳を解り易くご紹介致します。
Ⅰ:納期特例(年2回納付)の場合の仕訳方法
以下のStep1~3により、それぞれの場面での「仕訳の前提となる考え方」と「仕訳方法」をご紹介致します。
Step1:年末調整「過不足金額」の発生
役員・従業員の「源泉徴収所得税」として、「1月支給~12月支給の給与」から「概算による金額」を毎月徴収(給与天引き)しています。
他方、年末調整作業により、役員・従業員の暦年(年間:1月~12月)の「確定源泉徴収金額」が計算されます。
通常、年末調整を行うと、上記の「毎月徴収(天引き)した概算金額の年間合計額」と「年間の確定源泉徴収金額」に差額が生じます。
上記の差額は、
- 「概算金額の年間合計金額」が「年間の確定源泉徴収金額」よりも大きい場合には、役員・従業員から「過大徴収」していることを意味し、「過大徴収した金額」を役員・従業員に還付(返還)することが必要となります。
- 他方、「概算金額の年間合計金額」が「年間の確定源泉徴収金額」よりも小さい場合には、役員・従業員から「徴収不足」があることを意味し、「徴収不足の金額」を役員・従業員から追加徴収することが必要となります。
Step2:年末調整「過不足金額」の還付・追加徴収仕訳
上記Step1で発生した「過不足金額」は、役員・従業員へ「還付(返還)」又は「追加徴収」する必要があります。
この役員・従業員への「還付(返還)」又は「追加徴収」は、会社にとりましては、「給与支給時に概算で徴収した源泉徴収の年間合計金額」を「年末調整により確定した年間源泉徴収金額」へ修正するという意味を持ちます。
会計帳簿上、「毎月の給与支給時に(概算)源泉徴収された金額(天引き金額)」は、毎月の役員報酬・従業員給与支給時に「預り金」として計上されています。
年末調整におきまして、役員・従業員へ「還付(返還)」又は「追加徴収」が行われた場合には、概算徴収により計上された「預り金」を確定徴収するべき「預り金」に修正する仕訳を会計帳簿上入力することが必要となり、この仕訳は、それぞれ以下のようになります。
【役員・従業員へ還付する場合】
【借方】勘定 | 補助科目 | 金額 | 【貸方】勘定 | 補助科目 | 金額 |
預り金 | 所得税 | xxxxx円※ | 預金(現金) | ○○銀行 | xxxxx円 |
※ 金額は年末調整差額(還付)金額です。
【役員・従業員から追加徴収する場合】
【借方】勘定 | 補助科目 | 金額 | 【貸方】勘定 | 補助科目 | 金額 |
預金(現金) | ○○銀行 | xxxxx円 | 預り金 | 所得税 | xxxxx円※ |
※ 金額は年末調整差額(追加徴収)金額です。
Point ! 「預り金」に設定する補助科目 上記の『年末調整「過不足金額」の還付・追加徴収仕訳』における「預り金」に対する補助科目につきましては、下記の理由から「所得税」という補助科目を設定・使用します。 上記仕訳は、「毎月の給与支払時に概算徴収した金額の年間合計」が、「年末調整により計算された年間確定所得税額」に対して過大となる場合には「還付」(計上された預り金の取崩)を行い、過少となる場合には「追加徴収」(預り金を追加計上)することにより、 このため、上記仕訳における「預り金」につきましては、『「給与支給時の仕訳」における「預り金」』で使用した「所得税」という補助科目を設定・使用します。 ※ この結果、「預り金(所得税)」という補助科目の金額は、上記仕訳入力後において、「年間確定所得税額」の金額と一致することになります。 |
Point ! 年末調整差額の支払方法の違い 年末調整差額を「現金(又は振込)」により、還付・追加徴収する場合には、上記の仕訳を入力します。 他方、「翌月の給与支払時」に振込・追加天引きする場合であっても、給与支給時に上記の仕訳を入力します。 |
Point ! 還付と追加徴収の両方がある場合 年末調整の結果、「還付が発生する役員・従業員」と「追加徴収が発生する役員・従業員」の両方が存在する場合には、以下の理由から、「還付の仕訳」と「追加徴収の仕訳」を別々に入力することがおススメです。 【理由】
|
Point ! 税務署への支払の方が早い場合 一般的には、年末調整を行い、役員・従業員へ過不足額を還付・追加徴収した後に、税務署に源泉徴収の支払を行うと思います。 ただし、役員・従業員への過不足額の還付・追加徴収を行う前に、税務署に源泉徴収金額を納付する場合であっても、役員・従業員へ過不足金額を還付・追加徴収した場合の仕訳は、上記の仕訳を入力して下さい。 「役員・従業員への過不足金額の還付・追加徴収」と「税務署への源泉徴収金額の納付」のタイミングによって、仕訳が異なることはありません。 |
Step3:税務署への源泉徴収税の納付仕訳
納期特例につきましては、
税務署への「源泉徴収所得税」の納付は、年間(暦年)で、下記の2回となります。
- 7月10日までに、『「1月支給給与~6月支給給与」で徴収(天引き)した源泉徴収金額』を納付する。
(中間納付) - 1月20日までに、『「7月支給給与~12月支給給与」で徴収(天引き)した源泉徴収金額』に『年末調整で役員・従業員に還付・追加徴収した金額』を加減した金額を納付する。
(確定納付)
以下では、上記の「中間納付の仕訳」及び「確定納付の仕訳」をそれぞれ考察致します。
中間納付の仕訳
①中間納付する金額
中間納付する金額は、以下のものとなります。
※ただし、「前年度の年末調整」において「繰越超過額(税務署への過納付)」がある場合には、「上記の金額」から「繰越超過額」を差引いたした金額を税務署に納付することになります。 |
②中間納付の仕訳
【前年度の年末調整で繰越超過額(税務署への過納付)がない場合】
前年度の年末調整で繰越超過額(税務署への過納付)がない場合には、下記の仕訳となります。
【借方】勘定 | 補助科目 | 金額 | 【貸方】勘定 | 補助科目 | 金額 |
預り金 | 所得税(中間)支払 | xxxxx円※ | 預金(現金) | ○○銀行 | xxxxx円 |
※ 金額は「1月支給給与~6月支給給与」で役員・従業員から徴収(天引き)した源泉徴収金額
【前年度の年末調整で繰越超過額(税務署への過納付)がある場合】
前年度の年末調整で繰越超過額(税務署への過納付)がある場合には、下記の仕訳となります。
この仕訳についての詳しい説明は、⇒コチラをご覧ください。
【借方】勘定 | 補助科目 | 金額 | 【貸方】勘定 | 補助科目 | 金額 |
預り金 | 所得税(中間)支払 | xxxxx円※1 | 預金(現金) | ○○銀行 | xxxxx円※3 |
預り金 | 所得税過納付 | xxxxx円※2 |
※1: 金額は「1月支給給与~6月支給給与」で役員・従業員から徴収(天引き)した源泉徴収金額
※2: 金額は、前年度の年末調整で発生した「翌年度繰越額」です。
※3: 金額は、※1と※2の差引金額です。
Point ! 取崩す「預り金」に設定する補助科目 中間納付時におきましては、源泉所得税に係る「預り金」という勘定科目は、取崩を行います。 ただし、中間納付時においては、下記の理由から『「給与支給時」に計上した「預り金(所得税)」』という補助科目は、取崩を行いません。
|
年末調整後、1月20日までに「税務署に納付する源泉徴収金額」は、以下のものとなります。
|
そして、上記の金額を税務署に支払った時に入力する仕訳は、以下のようになります。
預り金 xxxx円 / 現金(預金) xxxx円 ※金額は、税務署支払額です。 |
Point ! 税務署への支払額 「税務署へ支払う源泉徴収税額」は、以下①~③の理由により、「年2回の支払額(7月、1月の支払)」で、全役員・従業員の年間確定納付金額を支払っていることになります。 ①1月支給給与~6月支給給与から徴収(天引き)した「概算の源泉徴収金額」は、7月10日に支払い済みである。 ②7月支給給与~12月支給給与から徴収(天引き)した「概算の源泉徴収金額」は、1月20日の支払金額の計算基礎となっている。 ③年末調整により発生した「概算の源泉徴収金額」と「確定の源泉徴収金額」との差額(過・不足金額)は、1月20日の支払金額の計算基礎となっている。 |
Point ! 税務署支払額がゼロの場合 以下の場合には、税務署への支払額がゼロとなる状態が生じます。 この場合には、Step3の「源泉徴収税の税務署への納付」の仕訳は不要となります。 ※この場合には、「税務署への返還請求」又は「翌年度繰越額として翌年度の税務署納付金額から控除」することとなります。 【税務署への支払額がゼロとなる場合】
これにつきましての詳細は⇒コチラをご覧ください。 |
Ⅱ、仕訳の例示
ここでは、「納期特例の場合」における「年末調整仕訳」を具体的な数値を使用してご説明させて頂きます。
1)例示
役員A、従業員B、従業員Cの3名が在職していると仮定します。
概算源泉徴収、年末調整過不足金額、年末調整での年間確定源泉徴収額は、それぞれ以下のような状況であると仮定します。
年間 報酬額・給与額 |
1月~6月 概算源泉徴収額 |
7月~12月 概算源泉徴収額 |
年間 確定源泉徴収額 |
還付(+) 追加徴収(▲) |
|
A役員 | 6,000,000円 | 140,000円 | 140,000円 | 250,000円 | +30,000円 |
B従業員 | 3,000,000円 | 40,000円 | 40,000円 | 70,000円 | +10,000円 |
C従業員 | 2,500,000円 | 15,000円 | 15,000円 | 40,000円 | ▲10,000円 |
合計 | 195,000円 | 195,000円 | 360,000円 | +30,000円 |
2)例示における年末調整仕訳
Step1:年末調整「過不足金額」の発生状況
①A役員
概算徴収した年間金額:280,000円、確定徴収額:250,000円であり、 30,000円過大に徴収しているため、30,000円A役員に還付する必要があります。 |
②B従業員
概算徴収した年間金額:80,000円、確定徴収額:70,000円であり、 10,000円過大に徴収しているため、10,000円B従業員に還付する必要があります。 |
③C従業員
概算徴収した年間金額:30,000円、確定徴収額:40,000円であり、 10,000円徴収不足が発生しているため、10,000円B従業員から追加徴収する必要があります。 |
④税務署への年末調整納付額
【7月10日納付済み金額】 「1月~6月支給給与から源泉徴収」した195,000円は、7月10日に納付済みです。 【1月20日(年末調整)での納付額】 195,000円 :7月~12月支給給与からの源泉徴収金額 |
Step2:年末調整「過不足金額」の還付・追加徴収仕訳
①役員A、従業員Bへの過大徴収金額の還付仕訳
役員A、従業員Bに過大徴収した金額(A:30,000円、B:10,000円)を還付した時に入力する仕訳は、以下のものとなります。
預り金 40,000円 / 現金(預金) 40,000円 |
②従業員Cからの徴収不足額の追加徴収仕訳
従業員Cから徴収不足額(10,000円)を追加徴収した時に入力する仕訳は、以下のものとなります。
現金(預金) 10,000円 / 預り金 10,000円 |
Step3:税務署への源泉徴収税の納付仕訳
税務署へ165,000円の納付をした時に入力する仕訳は、以下のようなものとなります。
預り金 165,000円 / 現金(預金) 165,000円 |
3、仕訳における「預り金」に対する補助科目
『給与の支給時に計上された「預り金」』や『源泉徴収所得税を税務署に支払った時に取り崩す「預り金」』につきましては、「預り金」という勘定項目の内訳項目としての「補助科目」を設定しました。
年末調整仕訳においても、
- 役員・従業員に対する還付・追加徴収の仕訳
- 税務署への源泉徴収所得税の支払の仕訳
において、「預り金」の取崩や計上等が行われます。
このため、年末調整に係る上記の2種類の仕訳における「預り金」に対しても、適切な「補助科目」の設定が必要となります。
この点につきましては、
- 「給与支給時仕訳」「源泉徴収所得税の税務署への支払仕訳」における「預り金」に対して設定・使用した「補助科目」の理解
- 年末調整仕訳の理解
が必須となります。
このため、これにつきましては、別途コチラで詳細を記載しておりますので、ご覧いただければと考えます。
Ⅱ:原則納付(毎月納付)の場合
原則納付(毎月納付)の場合において、以下で「仕訳方法」をご紹介するとともに、実際の数値例を用いて、「仕訳の例示」をご紹介致します。
1、仕訳方法
仕訳方法につき、以下のStep1~3により、仕訳の考え方と仕訳方法をご紹介致します。
Step1:年末調整「過不足金額」の発生
Step2:年末調整「過不足金額」の還付・追加徴収仕訳
Step3:税務署への源泉徴収税の納付仕訳
原則納付(毎月納付)につきましては、「1月支給給与~11月支給給与」で徴収(天引き)した源泉徴収金額は、徴収月の翌月の10日(2月10日~12月10日)までに毎月、税務署に納付しています。
年末調整後、1月10日までに「税務署に納付する源泉徴収金額」は、以下のものとなります。
|
そして、上記の金額を税務署に支払った時に入力する仕訳は、以下のようになります。
預り金 xxxx円 / 現金(預金) xxxx円 ※金額は、税務署支払額です。 |
Point ! 税務署への支払額 「税務署へ支払う源泉徴収税額」は、以下①~③の理由により、「年間の支払額(2月10日~翌1月10日までの支払)」で、全役員・従業員の年間確定納付金額を支払っていることになります。 ①1月支給給与~11月支給給与から徴収(天引き)した「概算の源泉徴収金額」は、源泉徴収した月の翌月である2月10日~12月10日に支払い済みである。 ②12月支給給与から徴収(天引き)した「概算の源泉徴収金額」は、1月10日の支払金額の計算基礎となっている。 ③年末調整により発生した「概算の源泉徴収金額」と「確定の源泉徴収金額」との差額(過・不足金額)は、1月10日の支払金額の計算基礎となっている。 |
Point ! 税務署支払額がゼロの場合 以下の場合には、税務署への支払額がゼロとなる状態が生じます。 この場合には、Step3の「源泉徴収税の税務署への納付」の仕訳は不要となります。 ※この場合には、「税務署への返還請求」又は「翌年度繰越額として翌年度の税務署納付金額から控除」することとなります。 【税務署への支払額がゼロとなる場合】
これにつきましての詳細は⇒コチラをご覧ください。 |
2、仕訳の例示
1)例示
役員A、従業員B、従業員Cの3名が在職していると仮定します。
概算源泉徴収、年末調整過不足金額、年末調整での年間確定源泉徴収額は、それぞれ以下のような状況であると仮定します。
年間 報酬額・給与額 |
1月~11月 概算源泉徴収額 |
12月 概算源泉徴収額 |
年間 確定源泉徴収額 |
還付(+) 追加徴収(▲) |
|
A役員 | 6,000,000円 | 257,000 円 | 23,000円 | 250,000円 | +30,000円 |
B従業員 | 3,000,000円 | 73,500円 | 6,500円 | 70,000円 | +10,000円 |
C従業員 | 2,500,000円 | 27,500円 | 2,500円 | 40,000円 | ▲10,000円 |
合計 | 358,000円 | 32,000円 | 360,000円 | +30,000円 |
2)例示における年末調整仕訳
Step1:年末調整「過不足金額」の発生状況
①A役員
概算徴収した年間金額:280,000円、確定徴収額:250,000円であり、 30,000円過大に徴収しているため、30,000円A役員に還付する必要があります。 |
②B従業員
概算徴収した年間金額:80,000円、確定徴収額:70,000円であり、 10,000円過大に徴収しているため、10,000円B従業員に還付する必要があります。 |
③C従業員
概算徴収した年間金額:30,000円、確定徴収額:40,000円であり、 10,000円徴収不足が発生しているため、10,000円B従業員から追加徴収する必要があります。 |
④税務署への年末調整納付額
【徴収(天引き)した月の翌月10日ごとに納付済みの金額】 「1月~11月支給給与から源泉徴収」した358,000円は、2月10日~12月10日にかけて毎月、納付済みです。 【1月10日(年末調整)での納付額】 32,000円 :12月支給給与からの源泉徴収金額 |
Step2:年末調整「過不足金額」の還付・追加徴収仕訳
①役員A、従業員Bへの過大徴収金額の還付仕訳
役員A、従業員Bに過大徴収した金額(A:30,000円、B:10,000円)を還付した時に入力する仕訳は、以下のものとなります。
預り金 40,000円 / 現金(預金) 40,000円 |
②従業員Cからの徴収不足額の追加徴収仕訳
従業員Cから徴収不足額(10,000円)を追加徴収した時に入力する仕訳は、以下のものとなります。
現金(預金) 10,000円 / 預り金 10,000円 |
Step3:税務署への源泉徴収税の納付仕訳
税務署へ2,000円の納付をした時に入力する仕訳は、以下のようなものとなります。
預り金 2,000円 / 現金(預金) 2,000円 |
3、仕訳における「預り金」に対する補助科目
税理士事務所・会計事務所からのPOINT
年末調整の仕訳につきましては、「役員・従業員への還付・追加徴収」「税務署への支払」が複合されております。またそれぞれの仕訳入力にあたり、ともに「預り金」という勘定科目を使用します。
このため、まず複合されている取引を別々に考えて仕訳を行うことが、一番理解し易いのではないかと思います。
ただ馴れてくると、年末調整の仕訳の本質は、以下のものであることが理解できると思います。
役員・従業員から概算で徴収した「預り金」を
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以上、年末調整の仕訳の入力につき、ご紹介させて頂きました。